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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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それぞれの恋

 真っ暗な空から雪が落ちる。街灯に照らされて、雪片が輝いて見える。


 AZビルでは、メンバーたちが談話室で雪見酒としゃれ込んでいた。



 参加者は、大滝、辰巳、森、神崎、渡瀬、小林それに工藤の七人だ。

 残りの面々は、用事があったり、デートだったりするのだろう。現れなかった。


 AZ村への移住に向けて作業が着々と進んでいるのだ。

 話は自然とそっちの方向へ向かう。



 こっちで雪を見るのは、後、何回あるのだろう。

 そう思うと、雪でさえ愛おしい。



 森が雪を見つめる姿は、本当に絵になる。

 一同は、黙って森と雪のコラボレーションを堪能していた。


 飲むのは、冷や酒。中央のテーブルに置いた肴を各人が小皿に取り分けて、みんなでちびちびやる。



「ねえ、あの『お墓の引っ越し大作戦』はどうなったの?」


 突然、森が大滝に訊いた。


 森の話は、あちこちワープする。

 さっきまで、雪の話をしていたと思えば、今度は、『お墓の引っ越し大作戦』の話に飛ぶ。

 森にすれば、どちらもAZ村関係の話として一貫しているのだ。


「あれか?あれは、AZ村が決まったとき、ハルが岩崎さんに頼んだんだけど」


 大滝が答えようとすると、小林が割って入った。


「岩崎さんって面白い人ね。ウチは、AZ村のお墓を引っ越しさせてって頼んだだけなのに、ついでにって、商売にしてしまったじゃない。

 あの、『ご先祖様のお墓を引っ越ししませんか?あなたに代わって全てを引き受けます』ってCM、笑ったわ」

「そうそう、引っ越し先の墓地や墓石の用意から、引っ越しのための法要や墓終いまで、全部、近隣の石屋やお寺やなんかに頼んでパックにしてしまったから、依頼主は、引っ越しのとき立ち会うだけで良いってことにしたんだね。

 墓地や墓石の代金からお坊さんに渡すお布施まで含めたセット料金だったから、今までにない『お墓の引っ越しパック』だって評判になっちゃって。

 

 お墓のあるところから離れて暮らす人が多いから、近くに移した方が、墓参りとか法事とかに便利だって、結構、売れたらしいね」


 辰巳まで、ノリノリで話題に参加した。


 神崎は、黙って笑いながら手酌で飲んでいる。


 大滝も笑いながら話を続けた。


「あれって、墓地も売れるし、墓石も売れる。

 墓終いや新しいお墓の魂入れなんかもしなくちゃならないから、坊主も儲かるだろ?

 結構ビジネスチャンスだったみたいだ。


 おかげで、AZ村のめぼしい墓は引っ越してしまって、残っているのは無縁仏だけだ。

 俺たちも安心して引っ越せる」


「AZ村の分は、個別にセールスとかしたの?」


 野次馬根性丸出しの小林に、大滝が答えた。


「もちろん。

 あそこだけは、こっちでリストを作成して、菱田商事の息のかかった石屋から個別にセールスに回ってもらった」


「でも、岩崎さん、本当に協力的だな」


 工藤が言うと、森が嫌そうな顔をした。


「ハルに気があるからでしょ。

 もう、あの人もそれが分かってて、岩崎さん使うんだから。

 あとで、一波乱起こるかもよ」


「いや、岩崎さんは大人だ。

 それはないだろう。CもA太郎もそう思うだろう?」

「ああ、多分」

「大丈夫なんじゃない?」


 大滝が言うと神崎や辰巳が簡単に同意する。



 三人の楽観的な観測に目をつり上げた森が、そのまま、話をワープさせて工藤に矛先を向けた。



「気があるって言えば、工藤くん、真由子さんとは、どうなってるの?」

「別に、変わらない。

 君の忠告どおり、こっちからアクションを起こしてない」


 何でもなさそうな工藤に、渡瀬が口を挟んだ。


「それって、かえって、恋心が募らないかしら?」


「僕もそう思う。大輔、ワザとじらしてるってことない?」


 辰巳までうがった発言をする。


 自分たちが恋人同士だからって、他人の恋路に首を突っ込むんじゃない!

 小さな親切、大きなお世話だ。


「そんなことはない。AZとの約束があるんだ。

 俺からあの子に誘いをかけるわけにいかないじゃないか。


 彼女は、田所病院の跡継ぎなんだから」


「辛いわね」

 

 森が切なそうな目をする。



 おいおい、小姑の代表は、君なんだぞ。君がラスボスみたいなものじゃないか。


 そう言いたいのをグッと我慢する。



「融通が利かない男だな。恋愛は結婚とは別だ。

 こっちにいる間だけでも、せいぜい恋すりゃ良いのに」

 


 神崎が独り言のようにつぶやいた。


「Cは、ハル一筋だもんね?恋をエンジョイしてる?」


 小林が茶々を入れるが、神崎は動じない。


「してるに決まってるでしょ?」


 横から不機嫌そうな森が口を出した。



 森を始めAZ一同は、遠山に好意を持っている。

 好意を持っていても、手の届かない存在として距離を置いている。


 それなのに、幼なじみでAZ計画の発案者という立場だからだろう。


 遠山と神崎の間には、他のメンバーにない近しさがあるのだ。


 他方、ライバルもいる。


 遠山は、岩崎とも親しい。


 遠山が二人のどっちを取るか、AZ村への移住とからめて、微妙なところだった。


 遠山が、岩崎を計画に引き込むことも考えられるのだ。


 神崎が、こっちにいる間に恋をしろというのは、自分の立場を踏まえて、アドバイスしたようなものだった。



 

 もし、俺が真由子を手に入れて、こっちに残りたいって言ったら、お前たちは許してくれるか?





移住が近づいてくると、AZたちの恋は、どうなるでしょう。

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