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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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工藤と真由子

 AZは、真由子を仲間に引き込むことを考えているのだ。 




 工藤は、三田由利子の例を思い出した。



 三田由利子は、工藤がAZに参加した翌年、中原義之が連れて来た。

 

 高校の後輩だとかで、その年、大学に入学したのだ。AZたちより二歳年下だった。

 

 中原は、高校時代、由利子と付き合っていたらしい。大学で再会して、焼けぼっくりに火がついたようだ。

 入試が終わった開放感に溢れる由利子は、生き生きしていて、工藤から見ても可愛い子だった。

 

 

 中原と由利子が付き合うようになって、しばらくして、食卓に豆腐が並んだ。

 

 調理担当の渡瀬真子が嬉しそうに、

「由利ちゃんが作ってくれたお豆腐なの」

と言うと、一同、目を剥いた。


 普通、豆腐なんか作るか?


 一同の心の声が聞こえたのか、由利子はさらりと言った。


「私、豆腐屋の娘なんです。

 だから、見よう見まねで作ってみました。

 AZって、自給自足するんでしょ?

 だったら、お豆腐だってって」

 




 賞賛の嵐が巻き起こって、その場で、由利子はAZのメンバーに認定された。


 由利子は、中原から、AZの趣旨を聞かされていたのだろう。

 嬉しそうに、ぺこんと頭を下げた。



「いたらぬこともあると思いますが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」



 


 AZに新しいメンバーが増えた瞬間だった。



 


 それに比べて、真由子はどうだろう。


 真由子に、何か、AZの喜びそうな特技はあっただろうか。

 

 医者の娘は、つぶしが利かない。


 目の前の森の小姑然とした様に現実を突きつけられた気がした。




 真由子は、魔法使いなのだ。

 シンデレラにガラスの靴をくれたように、田所病院の跡継ぎの椅子をくれるのだ。


 だが、それは、AZにとって、何の価値もないものだった。




「ハルは、何て言ってるんだ?」


 工藤が、やっとの思いで訊いた。


 最終的な判断は、遠山がする。

 遠山さえ認めてくれれば、何とかなるのだ。



「ハルは、相変わらずの自由主義者よ。

 恋愛は計算ずくでできないって言ってるわ。


 でも、私は、不幸になるのが分かっているような恋は、始める前にやめといた方が良いと思うの」




 もっともな言い分だった。



 だが、工藤は、田所病院の院長の席を狙っているのだ。




 何とか、円満にAZと別れて田所病院に残る方法はないだろうか。

 最後まで、ジタバタしてみたい。

 諦めずに道を探せば、どこかに方法があるかもしれないのだ。




 真由子の動きが鍵だった。





 森という名の、小林より美しい女。



 AZは、美男美女揃いだという。


 森とは、どんな人なんだろう?


 工藤は、あの日、真由子が別の男とデートしたことを知っているようだ。

 

 あの日以来、工藤の態度が硬化したように感じた。

 原因は、デートと森、どちらだろう?


 

 順調に近づいていた二人の距離が遠ざかったのは確かだ。


 真由子は、イライラする気分を押さえることができない。

 工藤をデートに誘っても、AZを口実に断られるばかりだ。



 この恋は、始まる前に終わるのだろうか?


 真由子は、ため息をついた。




 灰色の空から牡丹雪が降る。まるで、真由子の心のようだ。


 次から次へと地面へと吸い込まれて行く。

 そのうち、地面が白く染まって、世界を冷たく凍らせるのだ。



 工藤に避けられている。

 そう思うと、無性に会いたくなった。


 工藤の声が聞きたい。



 医者は、たくさんいる。

 

 だが、真由子の相手は、工藤でなければならないのだ。






真由子には、AZが望むようなことが何もできません。でも、彼女の恋は募ります。工藤は、何とか真由子の思いを利用して、AZと別れようと画策します。

頑張れ、工藤。

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