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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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辰巳英太郎(1)

工藤くんは、AZの援助を得ようと頑張ります。

 儲かってるって?

 誰が?

 

 あいつ等だ。

 


 ヤツ等は何をして儲けてるんだっけ?

 

 あれだ。今、長田が言っていた薬だ。


 

 あの薬、確か浮遊薬ってヤツだ。最近、評判の。


 始めは、学内のどこかで売っているという噂だった。

 でも、気が付いたら、学生生協の購買だけじゃなく、喫茶や学食の隅でも、扱うようになっていた。

 流行に疎い工藤だって、あの薬のことは知っている。


 小瓶の薬をスプレーすると、荷物がふわりと宙に浮くのだ。浮かないまでも、軽くなる。


 おかげで荷物を持ち歩くのにすこぶる便利だという評判で、工藤の大学では、ほとんどの学生が愛用している。

 大学当局だって利用しているという噂だ。

 日頃、その手のものに胡散臭さを感じて敬遠する工藤だって、荷物の重い日は利用しているほどだ。

 






 面白い。

 


 噂じゃ、学生が会社を作って売っているという話だった。

 

 長田の話によれば、儲かっていて、中古とはいえビルまで所有し、あまつさえ、仲間に奨学金を出すほど余裕があり、戸田に奨学金を出す話までしたという。





 戸田が断ったのなら、別の誰かがもらえるんじゃないだろうか?


 俺が頼んだら、どうなるだろう?


 奨学金をもらえるのは、俺になるかもしれない。


 少なくとも今もらっている学生支援機構のそれより有利だ。

 すでに、学生支援機構の奨学金をもらっている工藤が倍額だしてもらうことはできない。

 でも、あいつ等だったら、学生支援機構の奨学金とは別に奨学金を出してくれるかもしれない。


 それが無理でも、無利子で借金ができないだろうか。家のローンの分だけでも無利子で借りれれば、工藤家は随分助かるのだ。


 いや、それ以前に、そのビルに空き室はないだろうか。そこにタダもしくは格安で住まわせてもらえば、家賃だけでも助かる。

 その分、ローンに回せる。

 



 工藤は、目の前が急に開けたような気がした。

 



 まずは、情報収集だ。




 AZが、どういう集団で、どのぐらいの儲けがあるか。

 戸田にオファーがあったということは、誰かに援助する予定があるのだろう。

 キーマンを特定できれば、そいつに近づいて窮状を訴えることもできるのだ。

 


 どうやって情報を集めよう?


 隣に座り込んで合コンに誘い続ける男の顔を見上げた。




 どうせ、誰かに工藤を連れて来るよう頼まれたんだろう。

 こいつの情報源は、合コンで知り合った女だ。

 だったら、自分も情報収集のためにセッセと合コンや飲み会に参加した方が良いかもしれない。




 長田は、工藤が合コン参加の約束をしたので、満面の笑みを浮かべて帰って行った。






 帰って行く男の後ろ姿を見つめながら、しみじみ考えた。



 誰に頼まれたのか知らないが、ご苦労なことだ。


 


 だが、そもそも、AZからの合コンの誘いはないのだろうか?


 あいつも近所の女子大生とか、教育学部や文学部の綺麗どころばかり追わず、役に立つ女――医者の娘とか、ツバメにしてくれそうな金持ちとか――の集団と合コンしてくれれば良いのに。




 あいつには金の心配がないから、あいつにとって役に立つというのは、簡単に恋人になってくれる相手ということになるのだろう。



 工藤にとって役に立つ女を見繕って欲しいと思う方が無茶なのだ。





 まずはAZの情報を収集して、メンバーの誰かとお近づきになることから始めよう。

 しかるのち、キーマンと接触するのだ。



 さて、誰とお近づきになろうか。




 頼むよ、AZ。あんたたちが、俺に奨学金を出してくれることを祈るよ。






 工藤は、遠くに見えるメンバー達をゆっくり目で追った。



 その日から、工藤は、使える限りの人脈を駆使して、AZに関する情報を集めた。





 AZは、工藤の大学がある県の公立高校の卒業生が中心となってできたグループで、主な活動は浮遊薬の販売だ。

 浮遊薬は結構売れていて、噂では、大手の化学会社や製薬会社からオファーまであるという話だった。

 メンバーは約十人。男女半々ぐらいで、美形が多いという噂だった。





 情報収集の傍ら、ありとあらゆるツテをたどって、メンバーの一人と友達になることに成功した。


 様々な情報から推測すると、AZの奨学金をもらっているであろう青年だ。

 



 容姿、成績、それに運動神経が人並み外れて良いせいか、工藤は、これまで、ナンパされた経験はあっても、した経験はない。


 だが、もし、今、こいつを誘っているのを見る人が見れば、絶対『ナンパ』だと断言するだろう。


 それほど、さりげなくかつ慎重に、相手に警戒心を抱かせず、お友達になりましょう、とやったのだ。 

 




 青年は、辰巳英太郎という見るからに人の良さそうな男で、中肉中背、童顔で丸い黒縁の眼鏡をかけている。

 


 こいつなら、泣き脅しが通じる。


 そう確信した。


 二度目に会ったとき、話の流れで、誰にも話したことがなかった実家の窮状を訴えた。

 

 案の定、辰巳は、心底気の毒そうな顔になって、工藤に同情した。

 




 同情するなら、金をくれ。

 



 どこかで聞いた言葉が、頭をよぎった。


 だが、ここで急いではいけない。

 ゆっくり警戒心を解いていって、最後に、気の毒だから、と援助を申し出てくれるように持っていかなければならないのだ。


 だから、その日は、そこで終わって、しばらく時間をおこうと思っていた。


 


 だが、予想外の展開が待っていた。

 

 作戦が上手く行って、工藤の身の上を気の毒がった辰巳がAZへ引き合わせようと言ってくれたのだ。





 そうして、待つこと一週間。


 AZビルへ呼び出しがあった。


 六月下旬のことだ。

 




 やった。




 第一次審査を通過した気分だった。



 こうなったら、AZのために何でも協力しよう。


 就職試験で、入社できたら何でもする、と言わないヤツはいない。


 間違っても、いくら上司の命令でも、自分の価値観に合わない仕事はしない、と言ってはならないのだ。


 五年やそこら僻地医療に関わるのもやむを得ない。

 目をつぶって、島流しになろう。

 お礼奉公が終わった後、都会へ戻ってくれば良いのだ。





 だが、突きつけられたのは、想定外の話で、工藤が想像したような半端な話じゃなかった。





 AZとは、そんな荒唐無稽な計画している集団だったのだ。




 今更ながら、非常識な集団だと思い知った。




 AZの援助を得るには、AZと行動を共にする必要がある。


 それは、覚悟していた。



 だが、辰巳はAZの本来の目的を話さなかったのだ。


 工藤は、AZに鉄の守秘義務があることを知った。 







頑張れ工藤。負けるな工藤。君の未来は、AZにかかってるんだ。

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