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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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移住への準備

いよいよ移住に向けて準備が本格化します。

 工藤が大学を卒業する年、つまり、遠山や森たちが卒業して二年経った年、候補地が決定した。


 これから、順次、引っ越し準備を始めるのだ。


 一同は、現地をAZ村と名付けた。



 AZの移住計画は、単純な引っ越しではない。


 共同生活のため、住む住宅を建てることから始まるのだ。



 家だけではない。


 自給自足できるよう、耕作放棄された田畑を生き返らせなければならない。


 さらには、安定した耕作を行うため、中心部に気象制御装置を設置し、地域全体を結界バリアで覆うのだ。

 それらの機械を動かすための発電施設も必要だし、安定した水の確保のための海水淡水化装置も必需品だ。



 大野ルミは、発電用の施設として、風力発電と太陽光発電を選んだ。


 結界バリアの研究に力を注ぎたい彼女は、発電用の機械は、既存のメーカーから購入する道を提案したのだ。


 


 住宅の建設、気象制御装置の製作と設置そして風力発電や太陽光発電の設備や海水淡水化装置の購入と設置は、AZの独力ではできない仕事だ。

 

 住宅の建設は建設事務所に依頼し、気象制御装置や結界バリアは工業用ロボットを研究開発する工場に製作してもらう。

 発電設備は、最先端のメーカーから購入、設置する。


 いずれも菱田グループ系列の優秀な企業で、厳重な守秘義務の下で行う。


 しかも、建設工事や設置工事が終わった時点で、AZ以外の関係者全員の記憶を消さなければならない。

 その上、コンピューターや携帯電話なんかに残った記録や紙の書類も抹消しなければならないのだ。



 情報が漏れれば、AZ村が独立国になれないだけじゃない。


 遠山のシミュレーションで予測される大飢饉時代に、食料を求める暴徒の標的になりかねないのだ。




 一同に、厳重な守秘義務が徹底され、作業が開始された。



 住宅を建てるのは先送りして、当面、放棄された廃屋に手を入れて、そこを利用することになった。


 


 遠山は、岩崎に必要な機械や物品の調達を依頼するため、菱田商事の本社へ出かけた。



 岩崎にとって、AZが着実に計画を実現していくのは、興味深い。


 だが、彼らの夢が実現すれば、遠山と別れなければならないのだ。


 候補地の報告を受けると、岩崎は苦虫をつぶしたような顔をした。

 無性に絡みたい気分だ。


「場所は秘密のはずなのに、どうして教えてくれる気になったんだ?」

「いろんな機械や設備、それに物品を買うには、具体的な場所を知っていたほうが便利でしょ。

 大丈夫。お別れするとき、記憶を消す薬を飲んでもらうから。

 それで、少なくとも、場所だけは忘れてもらう」

 



 浮遊薬も馬鹿げていたが、そんな馬鹿げた薬があるのだ。


 この集団は、本当に常軌を逸してる。


 頭痛をこらえて、話を続けた。



「どうやって、候補地を選んだんだ?」


「十五年前、限界集落を調査した資料があって、それをもとに、その後、どうなったか調べたんだ。 それと、新聞かな?」

「ここに決めた理由は?」

「地理的に、ワタシたち以外が侵入しにくい地形だったし、耕地や里山なんかもまあまあの状態で残ってたから」

「君たち以外が侵入しにくいって、どういう意味だ?

 君たちが侵入できるなら、他の人間だって侵入できるだろうに」

「特殊な濃縮浮遊薬を使って、車ごと谷を飛び越えないと、隣の山を超えていかなければならないんだ。

 馬鹿みたいに時間がかかるから、誰も、そんなところに侵入しようと思わないだろ?」

 



 特殊な濃縮浮遊薬。


 山本は、そんなものまで作ったのだ。


 世に出ることない作品――多分、傑作――になるのだろう。





「廃屋や耕作放棄された田畑にだって、持ち主がいるんじゃないか?」


「確かに、正当な所有者はいるかもしれない。

 でも、権利を主張しないのなら、こっちが取得時効を主張できるだろ?

 権利の上に眠るものは、権利を主張できないって」

「二十年経てばな。

 でも、取得時効っていっても、誰もいないところだろ?

 誰も確認しに行くわけないじゃないか」

「そうとも言えるかもしれない。

 だけど、法的には大丈夫なんだ」


 

 理論的にはそうかもしれない。だが、裁判してみないと、どう転ぶか分かったものじゃない。

 第一、裁判となると時間がかかりすぎる。リスクが大きすぎるのだ。


 そんな不安定な場所にこれだけの設備投資をするってか?


 やっぱり、この子は宇宙人だ。

 もっと、足下を固めることから始めるべきだ。



「登記とか、どうするんだ?」

「放っておく。

 登記を移転しようとすると、我々がここに住みついたことを周りの人々に知られてしまうじゃないか」

 


 無茶苦茶だった。

 確かに、遠山の言うことには一理ある。だが、そんな賭けみたいな状況で巨額な投資をしようとしているのだ。



 岩崎は、体が地面にのめり込むように感じた。


「多分ないだろうけど、万一、相続人とか正当な持ち主が退去命令を出したら、どうするつもりだ?」

「大丈夫。そのための結界バリアだ」

「結界バリアって?」

「前に、お願いしてたでしょ?設計図を用意するから、作って欲しいって」

「ああ、そう言えば、そんなのがあったな。で、どんな機械なんだ」

「あの地域全域をそのバリアで囲むんだ。

 すると、たまたまこっちへ向かって来た人が、何となくそのバリアを越えてこっちへ来れなくなるって機能の機械なんだ。


 ルミちゃんが、開発してる。もうすぐできるんだ」

 


 嬉しそうに目を輝かせた。


「人工衛星から地上の様子を監視できる時代なんだぞ。

 車や歩いて来る人間だけじゃなくて、空からの相手に対しては、どうするんだ?」

「空からの場合、ダミーの映像を使う。

 人工衛星とか飛行機やヘリコプターで上空から監視する場合、AZが入植する前の景色に見えるよう細工するんだ。

 その時々の天気によって、雲やなんかも適当に配置して。


 結界バリアの機能の一つだ」

「そんなもの使っても、土地の正当な所有者は墓参りとか法事とか何かの用事で戻って来ようとするんじゃないか?

 目的地がはっきりしていたら、バリアの効果は、どうなるんだ?


 もしかして、半減とかならないか?」


「それについて、岩崎さんにお願いがあるんだ」

 

 

 遠山の美しい顔に悪戯っ子のような微笑みが浮かんで、岩崎は嫌な予感がした。

 



遠山に恋する岩崎にとって辛い仕事です。

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