移住候補地調査キャンプ
いよいよ移住候補地の選定作業に入ります。
遠山たちが大学を卒業すると、移住計画が本格化した。
浮遊薬が大量に売れているので、資金の心配はしなくて良い。
菱田ケミカルと菱田商事が、彼等(AZ)のために金儲けしてくれるのだ。
事務的なフォローは大滝に任せ、遠山の指揮の下、大々的に候補地の選定作業に入った。
十五年ほど前に作られた限界集落の一覧表をもとに、その後、それらの地域がどうなっているかを一つ一つ調べるのだ。
まず、書類上で調査して、誰も住まなくなった村を選び出す。
次に、実際に足を運んで、実態を調査し、今後、住人が戻って来る可能性のない村――完全に住民に見捨てられた村――を探したのだ。
お墓だってある。
いくら人が住まなくなったといっても、お盆やお彼岸なんかには、墓参りに戻ってくる人だっているかもしれない。
その対策も検討課題だった。
候補地をいくつか絞り込んでから、全員で視察に行くことになった。
いうなら、調査キャンプだ。
マイクロバスを借り上げて、現地に泊まって、現状を調査するのだ。
一同は静かに興奮していた。これから行く場所がAZの国になるかもしれないのだ。
梅雨も明けた夏のある日、全員、遠足気分でマイクロバスに乗った。
何故か、工藤の学友である長田と大川まで招待されていて、二人は大喜びで同行した。
長田は、月見会の一件以来、AZの受けが良い。
事件の翌日、早々に小早川と謝罪に来た誠意ある行動が評価されたのだ。
大川は、例の医学部との合コンでAZの中村未来と仲良くなった男だ。長田が招待されたので、ついでに呼ばれたのだろう。
この小旅行の意味を分かっていない長田と大川にとって、これはAZの美女と同行できる願ってもないチャンスだ。
素直に喜んでいた。
単純なヤツらだ。
工藤は、心の中でつぶやいた。
しかし、単純だったのは工藤の方だった。
彼はズッと後で、気が付くことになる。
候補地は、山間だ。風が心地よい。
住民に捨てられた村は、ひっそりと眠っていた。
AZが移住しなくても、この村は静かに時を重ねるのだろう。
AZの面々は、耕作放棄されて久しい田畑や、人の手が入らなくなって荒れた里山の様子を、手分けして調べた。
小林や中村たちは、長田と大川を接待した。
つまり、お守りをしたのだ。
だが、工藤だって似たようなものだった。
工藤や長田たちには、テントを張ったり食事の準備をしたりといった通常のキャンプでする仕事以外、特段の用事もない。
仕事を片づけると、小林たちとバレーボールやフリスビーといった若者らしい時間を過ごした。
ふと見ると、大川と中村が仲良くじゃれ合っている。
あいつらが、上手く行きそうなんだから、長田と小林も上手く行けば良いのに、と工藤は思った。
AZと共に移住するかしないか。工藤は、どっちつかずのままです。はっきりしない工藤は、どうなるでしょう。
 




