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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
19/44

合コン

美形ぞえろいのAZに合コンのお誘いがあります。

 長田から、AZへ合コンのお誘いが来た。

 もちろん、彼はAZに顔が利かない。工藤に仲立ちを頼んだのだ。



 あいつ、一体何考えてるんだ?


 頭が痛い。



 お気楽極楽能天気な長田と移住のための資金を稼ぎまくるAZは、水と油だ。

 仲介を頼まれた工藤は、いい迷惑だ。



 だが、工藤の予想に反して、小林や渡瀬ばかりじゃなく森まで簡単に了解した。


 


 長田は大喜びだ。

 AZの美女、森を担ぎ出せたのだ。


 ついでに、遠山も連れて来れないか?


 真面目な顔で提案される。


 だが、考えてもみろ。いくら小柄で美しいからといって、相手は男だ。

 男を女のように扱うのは、どうよ?


 工藤は、頭痛がした。


 いや、あの顔だ。女かもしれない。

 そんなことはない。男のはずだ。胸だって真っ平らだ。

 あれで、女だったら詐欺だ。

 何てったって、女は胸だ。せめて、Aカップは欲しい。

 生産性のない会話の後で、トドメを刺された。


「別に俺は、あいつが男でも気にしないぜ。

 あの顔にあの体だ。仮に男だったとしても、あいつ相手だったら、下手な女よりよっぽど良い。

 抱き心地も良いだろうし、第一、トレンディじゃん」

 

 全身に悪寒が走った。

 

 

 いいか、お前がゲイでも、バイでも知ったこっちゃない。

 でも、俺を交ぜないでくれ。

 あいつの護身術と射撃の腕は一流だ。

 命の保障がないじゃないか。

 

 

 しかし、工藤の胃の痛みは、取り越し苦労に終わった。

 合コンの晩、遠山には仕事が入っていたのだ。 



 その晩、AZの女性陣を案内する工藤は、鼻が高かった。

 長田を始めとする医学部の連中にAZの美人を引き合わせる快感に酔った。


 羨ましいだろう?

 俺は、この美女たちと一緒に暮らしてるんだぞ。


 声に出して自慢したい気分だ。


 看護科の小林だって、水準以上(長田によればAランクらしい)だ。

 Aプラスの森にかなわないまでも、AZの女性陣は相当の美人揃いだ。


 メンバーを顔で選んでいるという噂もあながち的はずれじゃない。

 

 医学生たちは、お近づきになりたい、と見えない尻尾を思い切り振っていた。

 今度、AZで飲み会するとき招待して欲しい、と真面目に頼んできたヤツまでいた。


 

 AZビルまで送り狼よろしく付いて来た団体さんを苦労して追い払って一息ついたとき、ビルの前にリムジンが止まった。


 

 何気なくそちらを見ると、運転手が下りてきてドアを開ける。


 車から降りて来たのは、遠山だった。


 あらたまった場に出席するときに着るスーツ姿だ。

 

 工藤が見ても、見惚れてしまう。

 どこかのブランドのモデルに使いたいくらいだ。


 飲んで来たのだろう。目元をうっすら染めて、フェロモン垂れ流し状態だ。

 エスコートして来たのは、仕立てのいいブランドもののスーツを着こなした三十前後の男だった。

 

 さりげなく、手を取って、遠山を導く。


 女相手じゃあるまいし、そんなこと、するんじゃない!お前は、ホモか!


 喉まで出かかった台詞を飲み込んだ。


 工藤が口出すことじゃない。


 第一、遠山が許しているのだ。



「また、会ってくれる?」

「契約は成立したんです。ワタシの仕事は終りました。

 約束どおり付き合ったんですから、もう良いでしょう?」

「君に、会いたいんだ」

「ワタシは廃村へ移住するし、あなたは家業を継がなきゃならない。

 進むべき道が違うんです。

 移住してしまえば、会えなくなります。

 そして、その前に、あなたは……結婚なさった方が良い。

 雑誌で読みました。

 待ってる女性もいらっしゃるんでしょ?」

「倫子さんのこと?

 あれは、一条家や彼女が勝手に言ってるだけだ。彼女は、婚約者でも何でもない。

 万一、君が男だったとしても、僕は彼女より君が良い。

 せめて君たちが移住するまで、付き合ってほしい」

 


 話の様子から、このお金持ちが、AZの真の目的を知っているにも関わらず、遠山に気があることに気が付いた。

 


 

 突然、小林に聞いた話を思い出した。



「遠山は、どうして性別を隠すんだ?」

「いるのよ。ハルがどっちかって分かったら、行動を起こしそうな馬鹿が」

「行動を起こしそうな馬鹿って?」

「人には三タイプあるの。異性に恋をするタイプ、同性に恋をするタイプ、どっちにも恋をするタイプの三種類ね。

 圧倒的に多いのは異性に恋をするタイプだけど、近頃の流行は不純同性行為でしょ?

 だから、性別が分からない方が、あの人を守りやすいの」

「守りやすい?」

「今まで、ハルを自分のものにしたいって、血迷った馬鹿が何人もいたらしいの。

 もちろん、ハルはそんな馬鹿に付き合わないわ。

 でも、無駄な時間がかかったり、ストーカーみたいになっちゃったりして、ハルが滅茶苦茶消耗したの。

 AZは今、大事を控えてるでしょ?だから、ハルにそんな虫が付かないように、みんなで協力する必要があるの」

「でも、遠山だって、性別を明確にして付き合いたいヤツだっているんじゃないか?」

「そうね。でも、ハルが男か女か知るのは、どうしてもそれを知らなければ付き合っていけない人だけで良いから」

 



 まただ。

 また、それだ。


 

 どうしてもそれを知らなければ付き合っていけない人。

 一体どんなヤツを想定しているんだろう。


 少なくとも、工藤も岩崎も想定された相手じゃないことだけは、確かだった。 





 AZの月見会に、長田を始めとする工藤の学友たちから『お願い』があって、何人かが参加を許された。

 

 先日に引き続き、再び、AZの綺麗どころと一緒に酒が飲めるのだ。


 許可された連中は大喜びだ。


 友人たちの浮かれように、工藤は苦い顔をした。


 間違いが起きなければ良いんだが。

 


 確かに、AZの美女たちとご一緒できるが、今度はイケメン連中も付いてくるのだ。

 

 自分たちの顔を鏡で見てみろ、と言いたい気分だ。

 

 前回の合コンにいなかった遠山が参加したことで、長田を始め、工藤の友人たちは浮き足立った。

 

 

 やっぱり、男同士というのは、トレンディなんだろうか?


 それとも、万一ということもある。

 あの顔だ。もしかして、あの真っ平らな胸にもかかわらず、女なのだろうか?


 だとしたら、神は遠山に、美貌も頭脳もリーダーシップも与えたが、女らしい胸だけは与えなかったことになる。

 

 悩める工藤を後目に、遠山は平然としたものだ。

 仲間たちと月を愛でながら静かに日本酒を飲んでいる。


 その超然とした姿は、近づきがたいオーラを発していた。


 いつもながら、何をしても絵になるヤツだ。

 

 そろそろお開きという頃、下心がある面々が森や遠山に近づいた。

 

 二人とは、滅多に会うことができないのだ。

 この機会を逃すと、再び会えるチャンスはないだろう。

 お友達になりたいヤツらにとっても、その上のスキンシップを望む連中にとっても、最初で最後の機会なのだ。




 工藤はパニックになった。あいつらの出方によっては、下手すりゃ、AZにいられなくなる。


 胃が痛かった。

 

 当たり障りのない言葉を交わした後で、酔っぱらいの一人――ゲイだとカミングアウトしている小早川という男だ――が、最悪な馬鹿をやってくれた。

 

 突然、遠山に抱きついたのだ。

 何やら口走っているが、口説いてでもいるつもりなのだろう。


 とんでもない醜態だ。



 居合わせた面々は、蒼白になった。




 小早川は、完全に酔っぱらっている。でも、酔っぱらったからといって、して良いことと悪いことがある。


 これは最悪だった。



 

 工藤が慌てて事態の収拾を図ろうとしたとき、信じられないことが起こった。





 遠山が、小早川を投げ飛ばしたのだ。


 遠山だって酔っていたはずなのに。



 護身術の稽古でもしているような、何でもないような顔で、平然とやってのけたのだ。






 工藤の常識が砕け散った。


 身長差十センチ以上、体重差二十五キロ以上はあるだろう。

 それを投げ飛ばしたのだ。

 どこをどうしたのか、みぞおちを蹴り上げるおまけまでついていた。



「残念。急所蹴りすれば、パーフェクトだったのに」


 森の冷ややかな感想が素通りして行った。





工藤の馬鹿な友人がAZとトラブルと工藤の立場が苦しくなります。

頑張れ工藤。

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