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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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AZの目的

少し短いですが、アップします。

 AZビルでの毎日は楽しい。

 工藤は、ここへ来る前、どういう生活をしていたか忘れてしまった。

 


 食事は、食事係の渡瀬が作ってくれる。

  

 大滝は給食だと言っていたが、不味い学食に慣れた身には天国だ。

 高級レストランや高級料亭もかくやと思われた。


 実際、渡瀬には、月に一度、舌を磨くための研修と称してレストランや料亭で食事をする役得がある。

 そのとき、誰か一人、同行を許されることになっていて、その権利を有志で順番に回している。

 時には、その権利を賭けの対象にしたりして遊んだりする。

 渡瀬に同行した人間は、翌日から一ヶ月間、調理の手伝いをするという取り決めまであるのだ。


 工藤は、つくづく良くできたシステムだと思った。


 仕事が終わると、道場で護身術の稽古(ときには、森の指導でダンスのレッスンになったりする)をしたり、談話室でゲームに興じたり、会議室の大型テレビで映画を見たり、と娯楽も充実している。


 恵まれた環境だからだろう。

 

 工藤は、時折愛を語らうメンバーたちを目撃した。


 


 ただ、工藤は、原初AZともいうべき、遠山や森たち六人が、誰かと絡んでいる場面を見たことがなかった。


 あの六人を恋愛対象にしないという黙約ができているのだろうか?

 単に、あの六人が恋愛に疎いだけだろうか?



 謎だった。





 その日、工藤は、いつもの三倍の配達をこなして、いつもの三倍疲れていた。


 こんなにこき使われるなら、アルバイトを掛け持ちした方が良かった。

 そうすれば、山村に移住するAZに付き合わなくても良かったのに。

 

 今さらながらの迷いが頭をかすめる。


 両者を天秤に掛けてこっちを選んだのは、他でもない工藤自身だ。

 今さら、後悔しても始まらない。


 それに、学生支援機構の奨学金はそっくり家のローン返済に回しているし、融資だって受けることができたのだ。

 

 諦めるしか、ないだろう。



 夜、辰巳と二人で缶ビールを飲んでいると、辰巳がポロリと口を滑らした。


 辰巳も野菜の世話で疲れているせいだろう。

 アルコールが入ると、すぐに酔っぱらって、いつもより数倍舌がなめらかになっていた。



「僕らち、移住するって言ってるらろ?らけど、本当は、独立するつもりなんら」 


 耳慣れない単語にあっけにとられ、耳を疑った。



 この国で、独立するなんてことができるのだろうか。

 だとしたら、バチカンみたいになるんだろうか。


「独立らんかできらいって思うらろ?」


 黙って頷くと、笑いながら説明した。


「廃村に移住するらろ?

 れ、僕らは、こっちで死んらことにするんら。

 そうすると、日本国は僕らに関与しらい。らって、書類やコンピューターのデータの上れは、僕らはいるはるのらい人間らから」

「いるはずのない人間って……」

「誰もいらくらった誰も使わらい土地で、いるはるのらい人間が自給自足に近い形で生活するんら。 日本が僕らの国を認めらくれも、世界に僕らの国の独立を宣言しらくれも、僕らの国は、存在するんら」



 あまりにも荒唐無稽で絶句した。


「これは、最高機密らから。

 そのうち、君にも話があるらろう。覚悟しろいら方が良い。

 僕等は、そのらめに必要ら資金を稼いれるんらから」


 


 工藤は、数日前に行われた浮遊薬の実験を思い出した。


 夜中に、山本の研究している浮遊薬の濃縮液の実験をしたのだ。

 

 AZビルの前の道路を使うから交差点で他の車や人が入って来ないよう見張ってて欲しい、と頼まれたのだ。


 

 始めは、ワケが分からなかった。

 何が起こるか分からなかったのだ。


 でも、実験を見て喉が干上がった。


 遠山が走らせる自転車に濃縮液をスプレーする。

 結果は力の合成だった。

 前へ進む力と浮き上がる力が合成され、自転車は映画のように宙を飛んだのだ。


 一同は、歴史的瞬間に立ち会えた幸せに歓声を上げ、遠山は自転車の上で両手を上げてガッポーズした。


 工藤は、驚きのあまり呼吸できなくなった。

 やっと息ができるようになったとき、遠山の嬉しそうな声が聞こえた。


「G、次は車を飛ばしてくれ」


 遠山が乗った自転車を飛ばしたのだ。軽く五十キロは浮かべたことになる。


 今度は、車を飛ばすのか?

 一体、どこまでやるつもりだ?



 実験の成功に歓喜するAZたちの傍らで、一人、この集団の行く末を案じた。

 

  

 あれ以来、胸でくすぶっていた疑問を辰巳にぶつけた。


「この前の濃縮液の実験は、移住のためのものか?」

「そうらよ。移住するとき、みんなが乗ったバスかなんかを飛ばさなきゃならないらろ?そのための準備なんら」

「でも、仮にバスに二十人乗るとすれば、一人六十キロとして乗っている人間の重さだけで千二百キロになる。バス本体の重さも併せると結構な重さになるだろう?いくらGが天才でも、そんなものを飛ばす濃縮液ができるんだろうか?」


 辰巳は悪戯っぽく説明した。


「確かに、計算上は人間の重さの総量は千二百キロにらる。

 他の荷物もあるし。

 れも、乗ってる人が自分に濃縮液をかけると、ゼロになるらろ?

 しかも、乗り物の内部にも濃縮液をかけると中の椅子やらんかの内装の重さもらくらるっていうか浮くんら。

 ってことは、つまりは、最後は、車体部分の重さらけになるってわけれ、それくらいのものを浮かべるのは、Cには簡単なことら。

 

 それに、今じゃないんら。まらまら、先のことらから」


 辰巳のろれつの回らない説明が遠くで聞こえた。



AZは、日本の中に独立国を作ろうとしている衝撃的事実。

こんなとんでもない集団に魅入られた工藤は、AZから脱出しようとします。

頑張れ工藤。

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