工藤の加入をめぐるAZの会議
これも短いのですが、話のキリなのでアップします。一定の長さにするのは、難しいです。
第三章 工藤の加入
AZビル二階会議室では、一同が難しい顔をしていた。
近頃ない難問だったのだ。
AZの立ち上げる国(隠れ里)には医者が必要だ。これは、紛れもない事実だ。
医者を仲間にするために、医学生を仲間に加えたい。そう考えて、戸田に声を掛けた。
戸田は、藤本と同じ高校の出身で、信頼のおける人物だったからだ。
実際、実家を継がなければならないから、と好条件を断った潔さは賞賛に値した。
だが、工藤がどんな人物か、誰にも分からないのだ。
彼は、戸田の噂を聞きつけて話を持ち込んだ。悪く言えば、医師免許を得るためにAZを利用しようとしていると言える。
その打算的な態度が面白くないのだ。
どの程度信用して良いのか、全く分からない。
全面的に信頼して受け入れても、医師免許がとれたら離れていくかもしれないのだ。
工藤を受け入れれば、経費もかかる。
信頼できるかどうか分からない人間に奨学金を出すのは、リスクが大き過ぎた。
長い沈黙の後で、サブリーダーの森が判決を下した。
「ダメに決まってるでしょ。
AZは、あくまでも、人物をしっかり見極めて、こっちからナンパするのよ。
だから、可奈ちゃんだって、真子ちゃんだって、ルミちゃんや藤本くんたちだって、こっちからナンパしたんじゃない。
戸田くんだって、藤本くんの保証があったから、ナンパしたのよ。
どんな人か分からないのに、向こうからお願いに来るのを受け入れるのは、リスクが大き過ぎるわ。
AZは、将来、廃村に移住するための資金集めに奔走する集団で、実家からの仕送りが望めなくなった学生を支援する集団じゃないのよ。
そういう学生は、AZを頼るんじゃなくて、学生支援機構にでも頼るか、自分で金儲けに奔走すれば良いのよ。
あの人には、私たちがどれほど苦労して金儲けしているか分かってないわ。
AZに泣いて頼めば、簡単にお金を融通してもらえると思ってるんじゃない?
それに、あの人、お医者さまになってからも、ウチと付き合ってくれるのかしら?
お医者さまになったら、もうウチとは関係ないって、涼しい顔して縁を切るかもしれないのよ」
確かに、森の言うとおりだ。
でも、AZが見捨てたら、工藤がとる道は一つしかない。
すなわち、公的奨学金と大学の授業料免除を受け、アルバイトをしまくって、医者になる道だ。
でも、それは、工藤にとって大変なことだ。
家のローンまであるという。
下手すると、医者になることを断念しなければならなくなるかもしれない。
「ハル、何とかならないかな?」
工藤と面識のある辰巳が口を開いた。
工藤をどの程度信頼できるのか、辰巳にだって分からない。
でも、同じような身の上だ。
工藤の苦悩も理解できた。
工藤が参加することで、AZが被る不利益もあるが、得られる利益もある。
それもまた、紛れもない事実だった。
会議机に突っ伏して寝ていた遠山が、ゆっくり顔を上げた。この人は、興味のない議題では、寝ていることが多いのだ。
「A太郎は、こいつを助けたいのか?」
「ああ、正直言って、彼の腹は読めない。
もしかして、AZを利用するだけ利用して、医師免許をとったら、サッサと縁を切るつもりなのかもしれない。
でも、ハルなら、そんなヤツでも利用することができるだろう?」
一同、雷に打たれたように気が付いた。
辰巳の言うとおりだ。
この人は、毒を薬に変えることができるのだ。
会議は踊る。
常識的な結論を出す森たちに対し、非常識の権化というべき遠山を担ぎ出した辰巳の作戦勝ちになりそうです。




