とある大臣の災難
世界には五つの大陸と七つの海がある。そしてそのなかでも中央大陸は一番の大きさを誇る緑豊かな大陸だった。その中央大陸の中でも最大の国土と権力を握る国、リオン。
そのリオンの王宮では騎士や女官たちが妙に浮足たって仕事をしていた。一年後に控えたリオン国王、エドワード二十世のひとり娘。
ティアラ姫とアークレッドのウィル王子の結婚式のためである。その準備を進み具合を見ながらエドワードは深々とため息をついた。
「どうなさいました?準備はすべて順調に進んでおりますぞ」
隣でそう言う大臣のポマスの首をおもいっきりエドワードは締め上げた。
「それが気にくわんのだ。なぜもっとゆっくりと準備しない!このままでは予定通りに結婚式があがってしまうではないかっ」
「くっ、くるし・・・」
ポマスは必死でもがく。どうして準備が予定通りに進んで首をしめられるのかわからない。じたばたと手足を動かすその背に、可憐な声が救世主となって現れた。
「なにをやってらっしゃるの?お父様。ポマスさんが可哀想です」
ーぼた。
まるでぞうきんのように大臣の身体が床に捨てられる。
(た、助かった)
新鮮な空気をもとめて鯉のように口をぱくぱくさせながらポマスは声の主をみた。
可憐な月の妖精のような少女がたっている。月の光をつみあげたような銀の髪に、澄んだクリアブルーの瞳。口元には人をつつみこむような柔らかな笑みが浮かんでいる。文句なしの美少女の名前はティアラ・ベル・リオン。この国の王女だ。
齢はまだ十四歳。けれど既に世界一の美姫と誉れ高い姫だった。
「おお、ティアラ」
よろよろとエドワードは娘に近づくとその肩に両手を置いた。
「結婚をやめる気になったかね?」
一縷の望みを口にする。すると柔らかな微笑はそのままにティアラは言った。
「いやです。私はお父様が反対してもウィル王子様と結婚いたします」
ウィルというところで声がはずむ。その瞳は完全に恋するもののそれだ。
エドワードはがっくりと肩を落とした。
なぜだ?なぜよりにもよってアークレッドのウィルなのだ?
「それにお父様。いまさらウィル王子様との婚約を破棄できません。だって、中央大陸すべての王家の前できまったことですもの」
ほんのりと顔が桜色に染まる。そうだ。そうなのだ。こともあろうにあのクソ王子は、中央大陸すべての王族がそろったあの場所で彼の最愛の娘にー。
ええいっ、思い出しただけでも腸が煮えくかえる。やっとどうにか立ち直りかけた思いが蒸し返してきて、エドワードはやりばのない怒りをポマスにぶつける。
「お前があんな奴にまで招待状を送ったりするからこんなことになったんだ!」
「ふぐぐっ」
ちからまかせにふたたび首を閉められてポマスは目を白黒させた。
「やめて下さいお父様!ポマスが死んでしまいます」
「死ね死ね!お前なんか死んでしまえっ。アークレッドのクソ王子っ」
「お、王様。わ、私はーーーポ・・・マス」
がっくりとポマスの首が落ちる。その口からぶくぶくと泡が浮かんでいた。
「ポマス?」
我に返ったエドワードが問いかけても、ポマスは白目をむいたまま微動だにしなかった。