水と電気
真っ暗闇の中、ライトの光を頼りにビルの屋上に出る。
外は冬の冷たい風が吹いていた。
「はっくしゅん。ねえ。こんな所に連れて来て、どうするの?」
「お前の力なら、このビルの電気を復活させることができるかもしれないんだ」
コモルはキラキラと輝く鏡のようなものが並んでいる場所にシャロンをつれてきた。
「これはなに?キラキラ光っている。オリハルコンかな?売ればお金になるかも」
「勝手に売ろうとするな。いいから、この鏡に向けて電気を放ってくれ。弱くだぞ」
コモルに言われてシャロンはしぶしぶ電を鏡に伝わらせる。
すると、通した電がつながっている線を通して、近くの箱のようなものに蓄えられていくのがわかった。
「これって、なんなの?」
「この城を維持するためのエネルギーを蓄積するシステムだ。満タンになるまでやってくれ」
コモルはそういうと、次にトリスタンを見つめる。
「次はあんただ。水魔法が使えるんだろう?」
「あ、ああ。何をさせるつもりだ?」
困惑するトリスタンを、大きな貯水タンクの前に連れて行く。
「あんたはこのタンクに綺麗な水を貯めてくれ。これから毎日な」
「ま、毎日……なのか?」
トリスタンは大きなタンクを見て唖然とするが、コモルに冷たくあしらわれる。
「あんたたちはここに住むんだろ?トイレや台所や風呂にも水が必要だぞ。いちいち水運びでもするつもりか?」
「た、たしかにそうだが…」
言葉につまって他の騎士を見渡すが、いい笑顔で迎えられた。
「トリスタン、頑張れよ」
「姫、お願いします」
他の騎士からも頼まれてしまう。
「し、仕方ないね……」
「よし。これから毎日シャロンとトリスタンは電気と水の補充係だ。これこそ適材適所だな。よかったよかった」
コモルたちはネットカフェに戻っていく。
後には暗い屋上に、二人が残された。
「うう……寒いよぅ」
「あの男……容赦なく姫や私をこきつかうとは……もしかして大物なのかも」
それから一時間、二人は頑張って電気と水の補充に努めるのだった。
次の日、このゴブリン王国の王宮から使者がやってきた。
「土地の不法占拠……ですか?」
応対したトリスタンが、思いがけないことを言われてポカンと口を開ける。
「そうだ。この城はゴブリン王家の私有地。いくら城壁外とはいえ、勝手に建物を建てられては困るとゴブリンス王子の仰せだ」
ゴブリンの顔をした衛兵は、傲慢に言い放った。
「そ、それは確かに迷惑をおかけしています。しかし、いきなり言われても……」
「この建物を召喚したのはお前たちだろうが。さっさと立ち退きをしてもらおう」
一方的に言われ、トリスタンは頭を抱える。
「も、もうすこしお待ちください。安住の地を見つけたら出て行きますから」
必死にそう言い訳するが、衛兵にフンっと笑われる。
「ふん。流浪のエルフたちに、このような立派な建物はふさわしくない。少しは待ってやるが、もしいつまでも居座るようだと没収だからな」
傲慢に言い放ち、衛兵は王城に戻っていった。
「これは……急いで安住の地をさがさないと、またホームレスに逆戻りしてしまうな.コモル殿が旅に出られるように、鍛えないと」
そう思ったトリスタンは、コモルを無理やり狩に連れ出すのだった。