騎士叙任
夕方
受付カウンターの前で、略式ながら騎士の就任式が行われていた。
「えっと……ヒキ・コモル殿。エルフ王国王女シャロンの名において、『聖騎士』への就任を認めます」
恭しく跪くコモルの肩に、剣が乗せられる。
パチパチと小さな拍手が起こり、コモルの頭の中に何者かの声が響いた。
「ジョブチェンジ。『ネットカフェナイトレベル1。自宅警備魔法『自宅管理』を手に入れました」
コモルはその声を聞きながら、気になっていたことを突っ込んだ。
「……って!他の子たちは?盛大なパーティは?」
コモルは急遽飾られたシャロンが座る玉座-ただのネットカフェの備品のオフィス椅子ーの前から立ち上がって不満を漏らす。
まわりにいるのは、トリスタンとガラハットだけだった。
「仕方あるまい。他の者たちは夕食の調達に行っている」
「俺たちは六人しかいないからな。遊んでいる奴はねえんだ。明日もご飯代を稼ぐために狩にいくんだが、お前もきてくれるよな」
トリスタンは渋い顔をし、ガラハットは明るく誘ってきた。
「いかねえよ!」
プンスカと怒るコモルに対して、シャロンはプンっと顔を背ける。
「だったらおとなしくしていなさいよ!本当に、なんで女神はこんな奴を管理人に選んだのかしら……」
「なんだって?だったらやめてやるよ。ここから出て行けよ。ホームレスプリンセス!略してホムプリ!!!」
「ホーム……あったまにきた!!」
シャロンはいきなりつかみかかってくる。コモルは大人気なくも四つ手に組んで対抗した。
「事実じゃねえか!」
「君だってそうでしょ!」
「ち、ちがうもんね!このネットカフェは俺の世界の建物、だから俺の物!」
顔突き合わせてフーフーうなる二人を見て、トリスタンが呆れる。
「おい。大丈夫なのか?」
「かまわんさ。姫様には王国を建て直していただく使命がある。男の部下一人を従わせられないようでは、これからが思いやられる。喧嘩もいい経験だ」
そうつぶやくガラハットの前で、二人の喧嘩は白熱していく。
しかし、やはりか弱い少女の力では男であるコモルを屈服させることはできなかった。
「くっ……くやしい。力さえあれば、あんたなんかに頼らなくても私の力で王国を立て直せるのに」
「シャロン姫様……」
しくしくと泣くシャロンを、トリスタンが抱きしめて慰める。
「ふん。姫って威張っても、たいしたことないな」
「うっさい!いい気になるな。すぐに私はレベルアップして、あんたんかペットにしてやるんだからね!」
シャロンはシャーっと歯をむき出して威嚇すると、プイッと顔を背けた。
(ちょっと大人げなかったか?まあ、がまんだ。この子に嫌われたら、夢のハーレム生活が遠のいてしまうからな)
そう思って、引き下がることにした。
「わかったよ。かわいそうな姫様を助けてやるよ」
さりげなく自分の冒険者カードを手の中に隠し、そっと手を差し出す。
「ふん。君なんかに何かできるとは思わないけどね」
シャロンは不満そうな顔を浮かべながらも、その手を握った。
コモルは無言でシャロンが触れた取り調べ用のカードを出して、確認する。
名前 シャロン・エルフ
年齢 16歳
種族 ホーリーエルフレベル1
身分 ホームレスプリンセス→ネットカフェプリンセス
スキル 聖魔法 雷魔法
犯罪暦 なし 財産5329マージ
異性交際経験人数0人 同性交際経験人数0人 自○回数 0
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大声を上げて、トリスタンがカードを奪い取った。
「何するんだよ!」
〔何をするとはこっちのセリフだ!貴様、姫様に何をする!」
トリスタンは必死に見ないように、カードを後ろに隠した。
「いや、このカードは便利だと思って」
「貴様!くっ……」
トリスタンは悔しげに唇をかむ。シャロンは状況がわかってないのか、首をかしげた。
「トリスタン。さすがに人のカードを盗んだらだめだよ」
「姫様!しかし、こいつが……」
「こいつが無礼なのはわかるけど、一応は騎士になったんだから」
そういわれて、トリスタンはしぶしぶカードを返す。
厳かな顔をして、コモルはカードを受け取り、じっくりと眺めた。
名前 トリスタン・マンティス
年齢22歳
種族 アクアエルフ レベル29
身分 ホームレスジュネラル→ネットカフェジュネラル
スキル 乗馬 剣術 水魔法
犯罪暦 なし 財産■■■■■マージ
異性交際経験人数0人 同性交際経験人数■人 自○回数 ■■■
「おい。見えないところがあるぞ」
「当然だ。情報保護の観点から、隠したいところがあったら隠せる。事前に心がまえがあったらな」
「きたねえなぁ」
そういいながらも、コモルはにやりとする。
「でも、同性経験ありで自○三桁はいっているんだな!」
「殺す!」
トリスタンの手から水の槍が出て、コモルに突きつけられた。
「お、おい。やめろよ。まったく……」
ガラハットはその身を盾にして、コモルをかばう。
コモルはわからないように、そっとカードをガラハットに押し当てた。
名前 ガラハット・スカラベ
年齢 25歳
種族 ファイヤエルフレベル32
身分 ホームレスジュネラル→ネットカフェジュネラル
スキル 乗馬 亀甲術 陵辱術 尋問術 炎魔法
犯罪暦 なし 財産■■■マージ
異性交際経験人数■■■人 同性交際経験人数■■■人
自○回数 ■■■■
「……」
カードを見たコモルは、思わず沈黙してしまう。
「どうした?」
「な、なんでもないです。御見それしました。お姐さま」
コモルは気まずい顔になって、敬語で話しかけた。