侵入者
「ご主人様。おはようございます」
メイド服のタマが隣に寝ているコモルを起こす。
彼女は黒を基調としてメイド服を着ていた。
「猫耳シッポロリメイド……まさに俺の夢の結晶だな!」
狭いブース内にロリ猫耳メイドは違和感ありまくりだったが、コモルはそんなタマを見て、ニヤニヤしていた
その時、ブースがノックされた。
「コモル殿、きょうこそ狩りにいこう!」
満面の笑みを浮かべたシャロンが誘ってくるが、コモルは面倒くさそうにあくびする。
「やだ。金は手に入ったし、当分引きこもる」
そういって、自分のブースに立てこもってしまう。
「こ、コモル殿?なんで断るんだよう。狩りに行って魔物を倒さないと、レベルは上がらないし、金も稼げないから国民を救えないぞ」
そう水を向けられて、コモルは考え込んだ。
(うーん。どうしょうかな。市場でこの国のモンスターも見たけど、でかいんだよなぁ)
彼らは普通に食材として売られていたが、戦う相手として考えたら大きすぎた。
「まあ、今日のところは遠慮しておくよ。お金には困ってないし」
「なにさ!臆病者!」
そう挑発してくるシャロン。
「なんとでも言え。俺はこのネットカフェの管理人らしく、ゴロゴロしてマンガを読んですごすのさ」
そういって積んであるマンガを手に取る。
「こ、この男!!せっかく騎士にしてやったんだから、がんばってレベルアップしなよ!」
シャロンがそれを聞いて、プンスカと怒る。
「それは大人の取引というやつさ。俺は身分を手に入れて、お前たちは宿を手に入れる。だいたい、まだ国もないのに騎士の位なんて意味ないだろ」
「……ううっ……」
それを聞いて、シャロンは涙目になる。
トリスタンはまあまあと宥めた。
「彼の言うことは、悔しいですが正論です。彼に与えた騎士という地位を価値あるものにしたければ、我々はエルフ王国を再興する必要があります。姫もお悔しいでしょうが、我慢してください」
「へえ。よくわかっているじゃないか。知っているのは一人遊びだけじゃなかったのか」
コモルはあくびしながらトリスタンをからかう。
「き、貴様!」
トリスタンは真っ赤な顔をして扉をガンガン蹴るが、シャロンが腕をひっばって止めた。
「トリスタン、扉を壊しちゃだめだよ」
「くっ。わかっています。貴様という男は……この私にここまでセクハラする男は初めてだ。みんな私を怖がって近づいてこないのに。その度胸だけは認めてやろう。もしかして、元いた場所でも一角の人物だったのか?」
勝手に勘違いしながら、トリスタンは頬を染める。
「ま、まあな。ふっふっふ」
本当はただの無職ネットカフェ難民だったのだが、コモルは笑ってごまかすのだった。
動かないコモルにあきれたシャロンたち騎士団は、コモルを残して狩りに行く。
「ご主人様、狩に行かなくてよかったんですか?」
タマが心配そうに聞いてくる
「いいって。俺は狩なんて向いてないの。人間の胴体ほどもあるタマゴがリアルで襲い掛かってくるだぞ。他にもデカイモンスターがいっぱいいるんだ。この世界はゲームじゃないんだから、自分の身は自分で守らないとな」
そういいながら、コモルは身を震わせる。
「……ちょっと寒いな」
「外は雪か降っていますからね」
タマが言うように、外は粉雪が舞っていた。
「仕方ない。エアコンをつけよう」
コモルがスイッチを操作すると、ネットカフェのエアコンから温風が吹き出してきて、室内を暖かくさせる
「すごい……まるでこの家は天国みたいです。ずっと住みたいぐらいです」
蛍光灯の明るい光の下で、タマはシートに寝転んで伸びをした。
「ここは正確には家じゃないんだけどな。まあいいや。タマは俺の侍女なんだから、ずっと住んでいていいんだぞ」
「にゃっ!ありがとうございます。マーリン様はお買い物にいったみたいだし、それじゃ私はお洗濯してきますね」
タマはふんふんと鼻歌を歌いながら、ネットカフェを出た。
「さて……二度寝するか」
タマに家事をしてもらいながら、コモルは惰眠を貪るのだった。
「ニャァァァ!あなたたちは何ですか!ここはコモル様の家ですよ!」
うとうとしていたら、タマの叫び声で目が覚める。
外に出てみると、タマが屈強な冒険者たちに囲まれていた。
その中のリーダー格、凶悪なゴブリンの顔をした男が野太い怒鳴り声をあげる。
「ふん。こんな珍しい城を、これ見よがしに建てやがって。エルフの分際で目障りなんだよ!」
タマを人質にとった冒険者は、乱暴にネットカフェに入ってきた。
コモルはビビリながらも、管理人としての役目を果たそうとする。
「な、なんだお前たちは!あっちにいけ!」
「ふん。てめえが最近話題となっているエルフのもやし男か。臭え臭え!」
ゴブリンのくせにオーガ並みの体格を誇る金属鎧を着た男はそういってニヤッと笑うと、コモルを睨み付けてきた。
「この城から出て行け。そもなければこいつを殺すぞ」
そういうと、剣を抜いてタマに突きつけた。
あまりの事態に、コモルは恐怖してしまう。
「なんなんだよ。お前たちは」
「ふん。俺たちはこの国一番の冒険者チーム「飢鬼」だ。命がおしけりゃ、この城をよこせ」
冒険者たちは、無茶な要求をしてきた。
「そ、それは困る。この城がなくなったら困るし。そ、それに、ちゃんと土地代を払う約束だぞ。こんな無法はこの国が許さないだろう」
「この国だって!?}
それを聞いた飢狼のメンバーは大笑いした。
「そ、そうだ。お、俺はエルフ王国の騎士だぞ!この国の王子とも知り合いだぞ」
コモルは必死に権威を持ち出すが、鼻で笑われてしまった。
「バカだなてめえは。エルフ王国なんて滅びた国の騎士?そんなもんに何の意味があるんだ。それに、王子は貴様らエルフを嫌っている。てめえが何をほざこうと、相手にされねえさ!」
リーダーが合図すると、男たちは一斉に剣を抜く。
「渡さねえって言うなら、てめえを殺して乗っ取るまでよ。やれ!」
ゴブリンの冒険者は、一斉にコモルに切りかかって言った。
「ひいいいい!」
最初の男の剣を死に物狂いで避けたが、足がもつれて転倒してしまう。
「なんだこいつは。マジで弱え!」
「所詮エルフの血を引く一族なんて、そんなもんだろう。さっさと殺して、この城をもらうぞ」
男たちはコモルを押さえつけ、ロープで縛り上げる。
その時、リーダーの男が声を掛けた。
「まあ、待てよ。あっさり殺したらつまらん。どうせなら面白い見世物を見よう」
男はニヤニヤと残酷な笑いを浮かべると、真っ青な顔をしているタマの手にナイフを渡す。
「てめえは奴隷でこいつはご主人様だな?そうだろう」
「は、はいです……」
タマがどもりながら答えると、リーダーの男はニヤッと笑った。
「なら、お前の手でこいつを殺せ。そうしたら俺たちの奴隷にしてやろう」
男がそういうと、仲間たちはどっと笑った。
「そいつはいい。過去に俺たちの先祖を支配していたエルフが、その報いをうけるってわけか!」
「殺せ!殺せ!」
周囲の男たちが囃し立てる中、タマはこわばった顔をしてコモルに近づいていった。




