御用商人
三人は仕立て屋が集まっている地区に行く。
そこでは多くの服が売られていた。
「コモル様。どうしてここに?」
「タマの服が必要だろう。こんなに可愛いのに、いつまでも裸にタオルじゃ身の危険がある」
コモルはそういうが、マーリンは首を振った。
「その……私たちエルフとの混血はヒューマンの顔をしているので、性的な意味では危険が少ないかと。忌避されている種族ですし。まあ、私たちの体に興奮する他種族はいますけど、タマちゃんはまだ子供ですし」
「ああ、そうだったな」
なかなかこの世界の常識に慣れないコモルだった。
「でも、俺が許せないんだ。異世界奴隷はメイド服!これは譲れない!ついでに一儲けしようと思ってね」
拳を振り上げて力説するコモルに、マーリンは困惑する。
(え?もしかして特殊な趣味を持っているのかも。私には手を出してこないし)
そんなマーリンにかまわず、コモルは大きな仕立て屋に入っていった。
「……なに?薄汚いエルフが何のよう?」
店からは、不機嫌そうなメスのゴブリンが出てくる。
「あんたがこの店の店長か?」
「口の利き方に気をつけな!エルフの分際で。私はこの国一番の仕立て屋で、ファッションリーダーの……」
わめくメスゴブリンにかまわず、コモルは交渉する
「実はな、新しいデザインの服を考えたんだ。この服のアイデアを買ってくれ」
そういって、「メイドスクールにようこそ」という漫画の表紙を見せる。
メスウサギは狡猾そうな顔になって、表紙をジロジロと見つめた。
(これは珍しい服だね……売れるかも。でも、バカ正直に金を払う必要はないね。覚えたし)
メスゴブリンはじっくりと見た後、ふんっと鼻で笑った。
「なんだいそんなヒラヒラした服。作ったって売れっこないよ。さあ、出て行った!」
警備員を呼んで、コモルたちを無理やり店から追い出す。
外に出たマーリンは残念そうな顔になる。
「コモル様、失敗しちゃいましたね。アイデアだけ盗まれちゃいました」
ため息をつくマーリンに、コモルは笑いかける。
「ふふふ。ああいうのを目の前の利益に走って大利を逃がすって言うんだ。あいつは後で後悔するだろうよ。それじゃいくぞ!」
コモルは別の店に入っていく。マーリンとタマは慌ててついていった。
それから数軒回ったが、どこも同じように表紙だけ見られて金を払おうという仕立て屋はいなかった。
「おかしいな。この国は真の商人はいないのかな?それとも頭がアニマルだから、目先のことしか考えられないのかな?」
そう思いながら、服飾街の外れにいくと、ひときわ豪華な仕立て屋があった。
「ここはどうだ?」
「コモル様。ここはやめましょう。このゴブリン王国の御用商人をしている格式高い店ですよ。私たちがいっても相手にされないと思います……」
マーリンが入り口についている看板を見て首を振る。
しかし、コモルはかまわず入っていった。
「ほう……エルフ王国の騎士様ですか……?」
でてきた男はコモルを一瞥すると、深く頷く。
そして丁寧な仕草で応接室に招いた。
「では、こちらに。主人をおよびいたします」
コモルたちは応接室のソファに座りながら、彼の主人を待った。
「こ、コモル様。大丈夫でしょうか?こんな豪華なソファに私なんかが座って」
タマがちょっと不安そうにこぼす。
「大丈夫さ。儲け話を持ってきたんだから、少々のことじゃ怒らないよ」
コモルはなぜか余裕たっぷりだった。
しばらくして、でっぷりと太った商人ゴブリンがやってきて、一礼してソファに座る。
「はじめまして。当商会の当主を勤めるゴッポリと申します。このたびはエルフ王国の騎士様とご縁が出来まして、まことに喜ばしいことだと存じます」
ゴッポリと名乗った男は、丁寧に頭を下げた。
(エルフ王国は滅びた国とはいえ、それまでは隆盛を誇った国だ。なにがしらの財宝を持ってきたのかもしれぬ。丁重に扱わねば)
コモルに、そんな感じの雰囲気が伝わってきた。
「ふーん。さすが御用商人だ。場末の商店とは対応が違うな」
「当然でございます。あなた様がお召しになっている服は、一見単純なシャツに見えますが、今までみたこともない素材で作られているのがわかります。それがわからないようでは、御用商人の看板は掲げられませぬ」
ゴッポリはそういって、狡猾な笑顔を浮かべた。
「では話が早い。この服のアイデアを売りたい。条件はこのタマとマーリン。ついでにシャロンたち騎士団全員の仕立てをタダでやってもらうことと、アイデア料300万マージでだ」
コモルは「メイドスクールへようこそ」という漫画の表紙を見せる。
ゴッポリはその表紙を食い入るように見つめていたが、ため息を漏らした。
「確かにかわいらしい服ですが……それはあまりに足元を見られた条件で……これだけでは承りかねます」
残念そうに断るゴッポリだったが、コモルは無言で漫画の二巻
コを見せた
「これは……また違った服が載っている。まさか?」
「ああ。そのまさかだ。その服はメイド服と呼ばれているが、それにはいくつかのパターンがある」
コモルはそういって、漫画本の次巻以降を見せる。
そこにはビクトリア式メイド服からミニスカ・フレンチ・クラシカル・水着・シャイナ・和風・ミリタリーにいたるまで、いろいろな種類の服が載っていた。
「どうだ?この服はもともと王族などの貴人に仕える者のための服だ。このような服を注文する客は、富裕層に多いのではないか?今ならこういう特殊タイプのメイド服のデザインを、お前がすべて独占できるぞ。他の店にスタンダードのメイド服を作らせて、はやらせた後に新デザインとして発表すれば」
「たしかに。これは参考になります。ぐっふっふっふっふふ……」
ゴッポリは不気味な笑みを浮かべながら、手を差し伸べてくる。
「では、すべてのタイプのメイド服のアイデアを提供するということで、契約成立だな」
「はっ。さっそくそちらのお嬢さんたちのサイズを測らせていただきましょう」
コモルとゴッポリはしっかりと握手を交わすのだった。




