町の様子
二人で話しながら道を歩いていると、何人かの男が前をふさぐ。
「ようよう、あんたがエルフ騎士団での唯一男か?」
「羨ましいねぇ。女をはべらかしてハーレムかよ。けっ、弱いくせに」
ゴブリンの顔をした冒険者風の男たちが絡んできた。
(まずい……ここにきて、冒険者としてのテンプレが。だけど、俺は戦闘に役立つスキルを何ももってないんだった。どうしょうか)
コモルが立ちすくんでいる間に、男たちはマーリンの手をとる。
「胸がでかい姉ちゃん。俺たちと遊んでくれよぅ。俺は不細工なエルフの顔をしていても、カラダがぽよんぽよんの女が好みなんだよぉ」
「いいですよ。それじゃ、何して遊びましょうか」
マーリンはにこにこして、その手を握り返した。
あまりの展開に、男たちやコモルも目が点になる。
「いいのか?遊ぶって、子供のままごとじゃねえぞ。みんなで妖しい所にいって、騒いで、それから」
「ええ、そうですよね。楽しみです。ゴブリンさんたちとプレイって、どんな感じなのでしょう」
マーリンは期待した目でそういった。
「……あの、えっと……そうじゃなくてだな……おい、てめえも何とかいえよ」
男たちは、呆然と立ち尽くしているコモルに食って掛かった。
「いや、その、あまりに予想外というか。マーリン、いいの?」
「大歓迎ですよぉ。なかなか誘ってくれる殿方がいなくて、退屈してたんです。コモルさんは童○だし」
「ぐはっ!」
ショックを受けて、コモルはへたり込む。
それを見て、男たちはなにやらひそひそ話し始めた。
「……おい。なんかやばくないか?」
「そういえば、聞いたことがある。確か獣人族の一種で、サキュバスっていうのがいるらしい。これが無害そうに見えて、えぐい習性をもっていてな……」
一人の男が恐ろしそうに話し始めた。
「性格は素直なんだが、そういうことを始めたときに、本能的に男の後ろから体内に管を差し込んで、魔力と体力を吸ってレベルアップするとか……たしかピンク色の髪をしてるそうだぜ」
それを聞いた男たちは、恐ろしそうにマーリンを見つめる。
「どうしたんですかぁ。早く行きましょうよ」
マーリンは一歩近づいて、男の手をとった。
「ひいいいいいっ!」
「お、御見それしました。勘弁してください!」
男たちは一目散に逃げ出していく。
それを見送ったマーリンは、輝くような笑顔を浮かべてつぶやく。
「あーあ。もったいなかったな。レベルアップのチャンスだったのに」
そういいながら、腰が抜けているコモルに近づいてささやく。
「コモルさんも、いつでもお申し付けてくださいね」
「え、遠慮します……」
コモルは助け起こされながらも、必死に首をブンブンと振った。
「えーっ。でも、私には直接モンスターを倒すスキルが無いので、レベルアップには殿方から生命エネルギーを分けてもらうしかないんですが……」
そういって可愛らしく上目遣いに見てくる。
「ま、待ってよ。お、俺が強くなったらやってもいいから」
「はい。楽しみにしていますね」
マーリンはにっこりと笑ってコモルの手をとるのだった。
(町を見て回ったけど、仕立て屋とかは普通にあるんだよな。よし。なら、アレが使えるかもしれない)
そう思ったコモルは、マーリンに告げた。
「……ちょっと考えがあるから、明日も付き合ってくれないか」
「あらあら、私をお召しですか?」
マーリンはうれしそうな顔になるが、コモルはあわてて弁解した。
「そうじゃないさ。たぶん商人との交渉になるから、慣れているマーリンについてきてもらおうと思ったんだ。ついでにタマにも新しい服を買ってやろう」
コモルは自信満々で笑うのだった。
そして次の日の朝、コモルと従者のマーリン、タマ、町を歩いていた。
「……マジで人型モンスターばかりだな」
あらためて町を見ると、人間の姿をした者がほとんどいないことに今更のように違和感を感じる。
「あらあら、コモル様。モンスター扱いはいけませんよ。彼らのことは『新人といってください」』
マーリンはそういうが、コモルはここがやっぱり異世界だと実感していた。
何しろ、町を歩く者たちは服を着たモンスターにしか見えないのである。
「本当に変な世界だな。人間のほうが酷使されている」
コモルは町のあちこちで掃除や肉体労働についている者をゆびさす。彼らは幼い少女が多く、顔は人間だったが、耳や尻尾などの体の一部だけが動物だった。
「彼らは私と同じエルフと獣人族のハイブリッドです。エルフ王国があったころは、差別されることもなく平穏に過ごしていたのですが」
マーリンは悲しそうにため息をつく。
「邪悪な魔神族に国を滅ぼされて以降、私たちは散り散りになりました。運よく逃げ出せて別の国にたどり着いた者たちも、奴隷にされて酷使されているのです」
そういわれて、コモルは複雑な顔になった。
「うーん。奴隷かぁ。普通ファンタジーだと人間が偉くてモンスターが奴隷にされているんだけどな。なんだかああいうのをみていると、気分が悪くなるな」
リアルなゴブリンに人間の顔をしている少女が虐げられているのを見ると、不愉快な気持ちになってくる
「コモル様はお優しいのですね。ふふっ。私たちの主にふさわしいお方なのかもしれません」
マーリンはエルフだけではなく、自分たち平民にも同情してくれたコモルに感激して、そっと手をとった。
「うらやましいです……」
その様子をじっと見ていたタマの鼻が、ヒクヒクと動く。そっちを向いたタマの腹がグーっと鳴った。
「お、おいしそうです!シップパグスの串焼きです!」
そこには、でっかい虫が何匹が串刺しになって焼かれた物が売られていた。
「……なあ、あれはなんだ?」
「海の周りによくでるモンスターです。航海の時などに貴重な食料になるので、シップパグスー船の虫と呼ばれています」
マーリンが平然と説明してくる。
「それまんまフナ虫だから……欲しいの?」
ジーっと見つめているタマを見て、コモルは尋ねる。
「と、とんでもないです。ご主人様を差し置いて、奴隷の私が買い食いするわけにはいかないです?」
タマは慌てて首を振るが、口からはちょっと涎が垂れていた。
それを見たコモルは苦笑して、屋台のウサギ親父に頼む。
「その虫を一本くれ」
「はいよっ!500マージだ!」
銅貨五枚と引き換えに、よく焼けているフナ虫の串焼きが渡された。
「ほら」
コモルがタマに渡すと、びっくりした顔になる。
「い、いいんですか?」
「お前はちょっとやせすぎだ。しっかり食べて、しっかり育て」
コモルが優しく言うと、タマは涙を浮かべる。
「ありがとうございます。ご主人さまに拾われてよかった。しっかり育って、いつか夜伽ができるようにがんばります!」
タマは感謝すると、フナ虫をむさぼるように食べた。
「夜伽って……本当にそういうつもりはないんだけどな」
コモルは苦笑する。将来はともかく、現時点のタマは子供や子猫にしか見えない。まるで妹のように懐いてくるのが面白くて、優しくしているのである。
その時、うらやましそうに見ているマーリンが目に入った。
「……欲しいの?」
「い、いえ、ご主人さまを差し置いて、買い食いするわけには……それにダイエット中ですし」
そういいながらも、マーリンの視線は串焼きに注がれている。
「おっちゃん。もう一本」
コモルは苦笑して、財布を取り出した。




