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過酷な世界

「なんだろう……やっばりおもちゃにするつもりなのかな?」

「な、なんだこの男の気迫は……」

「なんだか邪な思惑を感じます……」

シャロンたちに呆れられても、コモルは主張するのだった。

気を取り直して、食事が開始される。

出てきた食べ物は、いつもどおりの白いパンのようなものだった。

「しかし……この世界は米がないのかなぁ。まずくはないけど、毎日パンばかりって日本人としては力が入らないというか……」

コモルがそういうと、トリスタンはハテナマークを浮かべた。

「米??パン?それはなんだ?」

「えっと……人間が栽培した植物で、一般的な食物になるんだけど。泥に生える穀物の一種で、おいしいんだ」

それを聞いて、トリスタンは頷く。

「太古の時代はそういうものもあったそうだ。だが、世界が空から降ってた土砂に埋め尽くされたことと、魔神族がつくりだしたモンスターたちが外を跋扈しているせいで、食べられる植物を大規模に栽培するといった事は不可能になってしまったのだ」

「えっ?農業をしていないのか?」

コモルがびっくりしていると、シルビアが補足説明した。

「コモル様。植物は城壁内の限られたスペースにしか植えられないのです。だから、そういう場所には果物がなる木がわずかに植えられているだけです」

「マジかよ……。農業ができないってことは、食料は全部狩りなのか。えらい世界に来てしまった。そんな状態だったら、栄養不足になっても仕方ないな」

よく思い返してみると、町中を歩いている時太っている者はほとんど見かけなかった。それどころか全体的に小さく、栄養不足といった印象だった。

ぼやくコモルに、シャロンが噛み付く。

「何さ!姫であるボクだって我慢しているのに。君は贅沢だよ。いままで騎士たちが毎日必死になって狩ってきたエッグクッキーを食べていたくせに!」

「なんだって!俺の家に勝手に転がり込んできたくせに。このホムプリが!!って……今なんて言った?」

シャロンはコモルが文句を言うたびに突っかかり、コモルは大人気なくも乗ってしまう。

「いい加減そのホムプリって呼び方やめなよ。だから、君は贅沢だって……」

「そこじゃねえ!俺は今まで何を食べていたんだ?」

コモルは恐ろしそうな顔になって、皿の上に載ってある白いパンのようなものを見つめる。

「決まっているじゃん。一般的な主食エッグクッキーだよ」

シャロンはそういって、白いパンをおいしそうに食べる。

「まさか、エッグクッキーって……?」

「うん。レプトエッグを粉々につぶして製粉して、ふっくらと焼いたものだよ」

「うえっ!モンスターの卵だったのか。たべちゃったよ!」

それを聞いたコモルは真っ青になってトイレのほうに向かった。

「……あいつ、どうしたのかな?」

「さあ。我々と違って完全なヒューマンだ。いろいろとあるのでしょう。それより、みんなもっと食べて元気をつけろ!明日からはしばらく狩りが続くぞ!俺たちはこの国にいる奴隷にされた同胞たちを、救い出さないといけないんだ」

ガラハツトの言葉に、騎士たちはエッグクッキーを頬張る。

結局、その日はコモルは夕飯抜きになってしまうのだった。


「さて、このネットカフェという城を中心に、いよいよ国を再建することになります」

食後にトリスタンがこれからのことを話すと、パチパチと拍手があがった。

「これでいよいよ、みんなを救えるよ……」

シャロンは感動しているが、トリスタンは冷静だった。

「しかし、奴隷となっている国民を買い戻すにはお金が必要になります。どうやってお金を稼ぐか、また仮に解放しても、どうやって食べさせていくかが問題になります」

厳しい現実を突きつけられ、シャロンはしゅんとなった。

「シルビア、今の私たちの財政を説明してくれ」

トリスタンは財務担当をしているシルビアを見る。

「現在の騎士団の収入はモンスターハントによって成り立っています。現在、生活費と土地代で月に40万マージほど必要になりますので、奴隷たちを解放するには、もっとお金を稼ぐ必要があります。しばらくはこの国にとどまって、稼ぐしか……」

「仕方ないね」

シャロンが覚悟を決めたとき、コモルが戻ってきた。

「あれ?どうしたんだ?」

暗い顔のシャロンの様子をみて、戻ってきたコモルが首をかしげた。

「なんでもないよ。ただ当分ここにいて、狩をしてお金を稼ぐことになるだろうなって思っただけ」

「そうか。頑張れよ」

コモルは人事のようにそっけなく言った。

「君は手伝ってくれないの?」

「俺は戦闘力はないんだぞ。悪いけど狩じゃ力になれないよ」

コモルがそう言って、自分のブースにひきこもるのだった。


コモルはブースの座椅子を倒して横になった。

「さて……そろそろ寝るか」

そう思っていると、ドアがコンコンとノックされ、ドアが開く。

「ご、ご主人様。失礼いたします」

入ってきたのは、タマだった。

「どうしたんだ?もしかしてあいつ等に苛められたとか?」

コモルが聞くと、タマは首をブンブンと振る。

「あの……王女様に聞きました。ご主人様は、エルフの国を再建して、はーれむという物を作りたいんですよね」

「あのホムプリ、子供に何吹き込んでいるんだ」

コモルは憤慨するが、タマは覚悟を決めた顔をしている。

「トリスタン様が心配していました。あの……手当たり次第に欲望のまま振舞って、多くの女の子を泣かせるんじゃないかと。な、なら、命を救ってくださったお礼に、私がお世話を……」

そういいながら狭いペアブース内で身を摺り寄せてくるので、コモルは困ってしまった。

「ま、待て。俺にも好みがあってな」

「……私ではご期待に添えないのでしょうか……」

タマはしゅんとなる。

「そういうわけじゃねえ。子供には興味ないだけだ。ほら、余計な気を回してないで、もう寝ろ」

そういいながら、コモルはスペースを作ってタマを寝かし、毛布を掛けてあげる。

「ご主人様……優しいです。こんなやわらかい寝床、初めてです」

「そうか。今まで辛かったんだな。もう大丈夫だから、ゆっくり寝ろ」

コモルはタマが寝付くまで、頭を撫でてやる。

しばらくすると、タマは幸せそうに寝息を立てだした。

「やれやれ……でも、こういうのも悪くないな。お兄ちゃんとでも呼ばせるか。やべえ。考えただけで萌える、いやいや、でもご主人様も悪くないし」

コモルはタマの隣で、ニヤニヤしながら眠るのだった。


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