団欒
ネットカフェに帰ったコモルはタマの面倒をみていた。
「とりあえず、綺麗に洗わないとな」
コモルはタマを見てそう思う。正直汚れきっていて、体臭もしていた。
「ご、ご主人様が洗って下さるのですか?」
タマの顔が真っ赤になる。
「俺たちと一緒にいる以上は、最低限の衛生には気をつかってもらうぞ」
「わかりました。どうぞお願いします」
覚悟を決めたタマは、服をたくし上げようとするので、コモルはあわててしまった。
「バカ。俺じゃなくて、誰かに頼んで……」
コモルは慌てて否定するが、気がつくとシャロンや騎士たちから冷たい目がむけられていた。
「コモル殿。綺麗にして、それからどうするつもり?そんな小さな子に夜伽を申し付けるの?」
「よ、夜伽って……」
思いもしない疑いを掛けられて、コモルは動揺する。
「そんなわけあるか。こんな子供にどうしろってんだ」
「あ、あの……私はご主人様に拾われた時から、覚悟はできています……」
タマにそんなことを言われて、コモルはブンブンと首を振った。
「いいから!そんなつもりじゃないから!」
「なら、タマちゃんの面倒は私たちに任せてくださいね」
シルビアが冷たい声で告げて、タマの手をとって、シャワー室に連れて行った。
「み、水! こわいです!」
「おとなしくしなさい。これからは毎日水を浴びてもらいます。ほらほら!まったく、手がかかりますね。これから私たちの従者になるんだから、いろいろ勉強してもらいますよ」
シャワー室からタマの悲鳴とシルビアの楽しそうな声が聞こえてくる。それを聞いてコモルは苦笑した。
「まあ、その方がいいかもな。なら、あの子の面倒はお前たちに任せたぞ」
そういって、自分のブースに戻る。
残されたシャロンと騎士団は、意外そうな顔をした。
「あれ?あっさりとぼくたちに丸投げしたぞ?自分の奴隷だからって、あんなことやこんなことをしておもちゃにすると思っていたのに?」
「不思議な方ですね。まるで本当に救いたいから救っただけで、見返りなんて求めてないみたいです」
トリスタンも首をかしげる。
「まあ、いいじゃねえか。あいつは悪い奴じゃないみたいだぜ」
ガラハットの言葉に、ほかのメンバーも頷くのだった。
夕食に呼ばれたので、コモルはブースから出て席につく。
カウンター前のスペースに、騎士全員が車座になって座っていた、
「別に自分のブースの中で食ってもいいんじゃないか?」
コモルは面倒くさそうに言うが、シャロンは首を振る。
「だめだよ。僕たちはひとつの集団なんだから、ちゃんと同じ食卓で同じ物を食べて、コミニュケーションをとらないと。そうじゃないとすぐバラバラになっちゃうよ」
シャロンはそう主張する
「姫様……さすがです。立派な主君です」
その姿を見て、トリスタンは感動の涙を流していた。
「こほん。それでは……ボクたちの新しい従者になった、タマちゃんです」
シャロンが車座の中央に招くと、タマは恥ずかしそうに挨拶した。
「えっと……タマ・ニャニヤです。わ、私のような平民が、王女様にお仕えできて、こ、光栄に思います」
タマはところどころつっかえながら挨拶する。
騎士団の間から拍手が巻き起こった。
タマは一礼して、コモルの隣の席に戻る。
「ふにぁああ……ご主人様。緊張しました」
「よしよし。がんばったな。しかし、その格好は……ダサいな。せっかく可愛くなったのに」
コモルはタマの格好を見て、ちょっと眉をしかめる。
タマが着ているのは、バスタオルをつなぎ合わせた簡単な貫頭着だった。生地が少ないので、まるで全裸でタオルに包まっているだけの子供に見えてしまう。
「えっ?私可愛いですか?」
褒められて喜ぶタマだったが、コモルは気難しい顔をして首を振った。
「お前がもうちょっと成長していたら色っぽくてよかったんだけど、その姿はちょっと問題だぞ。異世界で助けた奴隷というのはもっと可愛い服を着るもんだ!」
「えっ?」
訳のわからないことで憤慨されて、タマは不安そうにシャロンを見る。
「仕方ないんだよ。タマちゃんに合う服はなかったんだから」
「マジかよ……服くらい作ってやれよ。メイド服なんて似合いそうだな」
コモルはいやらしい顔をして、タマを見つめる。
すかさずトリスタンから苦情が来た。
「だから、余分な金はないっていっているだろ?我慢してくれ!」
「いいや。これは譲れない。異世界奴隷はメイド服を着ないといけないきまりなんだ!」
大声で断定するコモルだった。




