ネットカフェメイド
「コモル殿。ボクもそんな子は何百人も見てきたよ。何とか助けてあげたいとおもって、国が滅ぶ時に持ち出せた財宝なんかをすべて分けてあげたんだけど……」
「それで一時的に助けになっても、全世界で我々エルフは嫌われているので、奴隷扱いは変わらない。与えられた金を食いつぶせばそこで元の木阿弥だ」
ガラハットが厳しい声で告げる。いつもおちゃらけた態度の彼女だったが、このときばかりは難しい顔をしていた。
「コモル殿。そういうわけだ。彼女のような奴隷を救いたいなら、安心してすめる国を創るしかない。さあ、いこう」
トリスタンたちは少女を見捨てて去ろうとする。
しかし、コモルはその場から動こうとしなかった。
「そりゃ元の世界でも、苦しんでいる子供は大勢いる。俺だってその事実を知りながら、たまに募金するぐらいで助けようなんてしなかったよ。だけど……」
コモルはしっかりした声で言い放った。
「だけど、目の前で凍えている子は見捨てられない。それは人間としての本能なんだ。俺はこの子をつれて帰る」
堂々と宣言すると、コモルはエルフ少女に向き直る。
「今からお前をつれていく。いいな?」
コモルがそう告げると、少女は信じられないという顔になった。
「えっ……私は何もできない、亜人族との混血のエルフですが、いいんですか?」
「いいって。俺は騎士らしいから、従者の一人ぐらいつけても問題ないだろう?」
コモルがそういうと、トリスタンは仕方ないという顔になった。
「……たしかに、あの城には住むためのスペースは余っている。問題になるのは食費だけだが、コモル殿が言うなら仕方ないだろう。姫のご意見は?」
「そりゃ。ボクだって救ってあげたいよ。コモル殿が言うならいいんじゃないかな?どうせあの城はボクたちのものじゃないんだし」
それを聞いてコモルは、冒険者カードを少女に押し当てる。
名前 タマ・ニャニヤ
年齢 12才
レベル 1
種族 ハイブリットエルフ(キャットタイプ)
職業 ホームレス
スキル 鑑定魔法
犯罪暦 0 財産 0マージ
異性交際経験人数0人 同姓交際経験人数0人
自○回数0回
「鑑定魔法?」
「は、はい。お父さんとお母さんは古道具屋だったので、昔の道具などの使い方を判別する魔法を教えてもらいました」
シャロンの問いに、タマは震えながら答えた。
「そうか。役に立ちそうな能力だな」
コモルはタマの頭に手を置くと、はっきりした声で宣言した。
「今日からお前は俺の従者だ。いいな?」
「はい。ご主人様。つれていってくださるなら、なんでもします」
タマは涙を流して忠誠を誓う。
職業欄がホームレスから『ネットカフェメイド』になるのを見て、コモルは微笑むのだった。




