奴隷の現状
「……なあ、何であんなに下手に出ているんだ?あんなただのゴブリンに」
王宮を出たコモルは、隣にいたシルビアに聞くと、彼女はコモルの口に手を当てた。
「しっ!黙っていてください。ヒューマンは、多くの亜人族を慰み者にしたいやらしい種族として、世界中で忌み嫌われているんです。当然、その姿に近い私たちエルフ族も、よく思われていません」
「……マジかよ……」
よくあるラノベでは、人間の地位が高く、亜人の地位は低いというのが一般的だった。
しかし、この世界ではどうも人間の地位が低いらしい。
「……だから私たちエルフ族は、エルフ王国が滅びていく場所がなくなった後に奴隷にされているのです」
シルビアの説明を聞くうちに、コモルの気分も落ち込んできた。
(世界中で嫌われているということは、ケモミミ娘をはべらせてハーレムってできないのかも……残念だな。いや、どっちみち女もゴブリンなんだから無理だったか)
そんなコモルの心境などしるよしもないが、騎士たちもおちこんでいる。
「ま、なにはともあれ姫もレベルアップしたし、地代さえ払えばとりあえずあの城に住めることになった。後は俺たちが奴隷とされた同胞を買い戻せばいいだけさ」
ガラハットは落ち込んだ騎士団を慰めるように、わざと明るく言い放った。
「そうだな。食事でもして気分を切り替えよう」
トリスタンの言葉で、騎士団は町に向かった。
騎士団は『砕魔屋』という看板が出ている店に到着する。
「親父、エッグの精粒を頼むぜ!」
奥から髭を生やしたごつい筋肉をしたゴブリンの男が出てきて、鼻をヒクヒクと鳴らす。
「ふん。臭いエルフか。手数料で二割もらうぜ」
「……業突く張りが。わかったよ」
ガラハットは舌打ちしながら、レプトエッグの死体を渡す。
男はうなずくと、その死体を店の奥にある巨大な臼に放り込む。
そして座り込んでいた獣耳が生えたエルフ少女達に命令した。
「さあ、仕事だぞ。働け。無駄飯ぐらいどもめ!」
ウサギ頭の男が鞭で少女を叩くと、彼女たちはノロノロと起き上がり、重い臼を動かし始める。
途中何度も息を切らしながら少女たちは重い臼を動かし、タマゴは微塵に砕かれて粉になっていった。
「ほらよ」
店の主人は手数料の分を差し引いて袋に入れてガラハットに渡す。少女たちは恨めしそうに騎士団を見つめていた。
店を出た後、コモルはシャロンに聞く。
「なあ……彼女たちって……?」
「うん……ボクたちエルフ王国の元住人たちだよ。もっとも、彼女たちは純粋なエルフじゃなくて獣人族の血を引くハーフだけどね。国が滅んだ後は、ああやって奴隷にされているんだ」
シャロンの顔には苦悩が浮かんでいた。
「……なんとかならないのかよ。まだあんなに小さいのに働かされて……」
「ボクたちだってなんとかしようとしているんだよ!でも、仕方ないじゃん!ボクたちには彼女たちを買い取るお金もないんだから!」
シャロンの目には涙が浮かんでいた。
「……コモル殿。彼女たちはまだマシなのだ。奴隷として雇ってもらえたのだから。世間にはそれすらままならない住む家すらない者たちがいる」
トリスタンが暗い顔をして、コモルを諭す。
「そんな……奴隷がまだマシだなんて……?」
「ほら、あそこにも」
トリスタンが指差す方向を見ると、裸に襤褸切れをまとった12歳くらいの猫耳エルフ少女が座り込んでいた。
さすがのコモルも、かわいそうになる。
「お、おい?大丈夫か?何をしているんだ?」
その子は一瞬顔を上げるも、すぐに暗い顔をしてうつむいてしまった。
「……私、ドジで何枚もお皿をわっちゃったの。だからもういらないってすてられたの……」
そうつぶやくと、小さな声で泣き出す。
あまりにもかわいそうで、コモルはトリスタンに聞いた。
「……なあ、なんとかして助けてやれないか?」
「気の毒だが、騎士団に雇う余裕はない。我々も生きていくだけで精一杯なのだ。それに、彼女を助けても、この国にはまだ苦しんでいるエルフたちが大勢いる。一人だけ助けても、意味はないのだ」
トリスタンは苦しそうに答える。周りの騎士も同じような顔をしていた。




