ゴブリンの王子
ゴブリン王国の王宮は、厳しい城壁に囲まれた要塞である。
騎士団は、警察署を兼ねている堅固な城壁に囲まれた王城の地下牢にいれられていた。
「何でボクが牢なんかに……」
「あたりまえです!」
シャロンは騎士団に説教されて、小さくなっている。
騎士団は冒険者にたいする暴行容疑で逮捕されてしまったのである。
「……なあ、俺は止めようとしたんだよ。出してくれよ」
コモルはゴブリン衛兵に頼んでみるが、完全に無視されてしまう。
(うっ。ちょっと怖いな……)
コモルは屈強な衛兵の顔を見ながらつくづく思う。リアルなゴブリン顔をした衛兵が槍を掲げている様子は、ファンタジーを通り越して不気味だった。
しばらく待っていると、ゴブリンメイドがやってくる。
「皆様、殿下がお会いになられます。こちらでお待ちください」
よくやく牢から開放されて、応接室に招かれる。
入ってきたのはこの国の王子で、ゴブリンスと名乗った。
「はじめまして。あなたが元エルフ王国の姫、シャロン殿下でございますね。お会いできて光栄です。おや、そこにいるのは男エルフですね。どこの奴隷市場で買われたのですか?」
言葉は丁寧だが、完全に馬鹿にした口調である。
(なんか、なまじ丁寧な分よけいに腹がたつな)
一方のコモルはゴブリン頭から馬鹿にされてムカついた。
「俺はエルフじゃなーむーっ?」
否定しようとしたコモルの口が、ガラハットにふさがれる。
(しっ。黙っていてくれ。お前がエルフではなくヒューマンだとばれたら、どんな不都合があるかわからない)
ジタバタと暴れるコモルを放っておいて、トリスタンはゴブリンスと交渉をする。
「お久しぶりです王子様。お会いできて光栄です。さっそくですが……」
何か言おうとした彼女を、王子は手を振って黙らせた。
「冒険者たちから少々苦情が来ております。シャロン王女に傷つけられたと」
「そ、そんな。あれは……」
「黙りなさい!」
ゴプリンスに冷たい視線で見られて、シャロンはビクッとなる。
「……罰として、あなたたちが狩ったボスモンスターであるレプトタートルの買取代金は没収させていただきます」
「そんな!500万マージになるはずだぜ」
ガラハットが抗議の声を上げるが、ゴプリンスはゆっくりと首を振る。
「その金はすべて冒険者たちへの慰謝料とさせていただきます」
「……そんな……」
絶望的な顔になるガラハットに対して、王子は狡猾な目を向けた。
「自業自得ですな。それから、あの城門の前に勝手に建てられた城のことですが……まだ立ち退きしてくれないのですかな」
そういって責めてくるゴプリンスを、トリスタンはあわてて止めた。
「お待ちください。実は、私たちはここにいるコモル殿を王としてエード王国を復活させようと思っているのです。ゴブリン王国には、その承認と援助をお願いしたいのですが……」
「ふっ。土地をもたないあなた方が、奴隷を集めて王国ごっこですか?子供の遊びに付き合っているヒマはありませんな。あなたたちだけで勝手にどうぞ」
そういうと、ゴプリンスは侮蔑する目を向けてくる。
「こ、根拠地になる城は召喚できました。あとは奴隷とされているエルフたちを、少しずつ集めて国民にして……」
「汚らわしいエルフどもを連れて行ってくれるのなら結構。ですが、そのための援助といわれても困りますな。お断りさせていただきます。そもそも、勝手に我が国の土地を占拠して根拠地とは。あなた方は反逆の意思でもあるのですかな」
ゴプリンスは冷たい目をしてにらんで来る。
「そ、それは一時的なものです。安住の地が見つかれば、おとなしく退去しますので……」
トリスタンがそう言い訳しても、ゴプリンスは納得してくれなかった。
「どうもあなたたちは分不相応な城を手に入れて思い上がっているようですね。でも、実は内心もてあましているのでは?よければ、私が一千万マージで買い取ってあげましょうか?」
「一千万マージ?」
シャロンが目を輝かせるので、コモルは慌てて首をふる。
「残念だけど、売るつもりはない。ネットカフェがなくなったら、不自由するからな」
「ほう。この私の申し出を断ると……?」
王子はにらみ付けるが、コモルは一歩も引かなかった。
「あれは俺の大切なものなんでね」
二人はにらみ合う。周りの騎士たちも、せっかく手に入れた城を追い出されるかもしれないと思って、必死に抵抗する構えを見せた。
(くっ……仕方がない。この騎士団はボスモンスターを倒せるほど強い。下手に追い詰めると暴れる可能性もある」
そう思った王子は、しばらく様子をみることにした。
「まあいいでしょう。ですが、ちゃんと土地代は払ってもらいますよ。私は忙しいので、これで失礼します」
ゴプリンスは応接室を出て行く。騎士団たちも王城から追い出されてしまった。




