レベルアップ
「ちょっと!俺を信じろって……ボクにあの皮膚に触れっていうの?手が溶けちゃうよ」
コモルの作戦を知って、シャロンはいやそうに首を振った。
「手袋しているから大丈夫だろ。いいからやるぞ」
コモルはシャロンの手をつかみ、車から降りる。そして無理やり地面になっている背中に手をつけた。
「いやーー!気持ち悪い」
「が、我慢しろ。それじゃいくぞ!やつの神経に沿って雷を流し、直接心臓にショックを与えるんだ!」
「わ、わかった。えいっ!『エレクトリックサンダー!」
シャロンは必死になって、細い神経の束に電流が伝わるように制御する。
タートルの体に光の線が浮かび上がり、一直線に心臓に向かっていった。
エルフ騎士団はレプトタートルに絡みつかれた自動車を、なすすべもなく取り囲んでいた。
「このまま放っておくと、この車ごとタートルのカラダに覆われてしまいます。そうなると、もう二人を助けられなくなります」
シルビア説明を聞いて、騎士たちは決意する
「くっ!こうなったら、強行突破しかない。皆、命がけで姫を救うんだ」
トリスタンの命令で、騎士たちが覚悟を決めて触手に飛び込もうとしたとき、いきなりタートルの体に電光が走った。
「な、なんだ!」
びっくりした騎士たちが見守る中、タートルの体から煙が立ち上る。ゆっくりと自動車を包み込んでいた触手が離れ、中から自動車が現れた。
「これは……何が起こったんだ。もしや、姫とコモル殿が?」
ガラハットが心配して一歩前に出た時、自動車のドアが開いて、コモルとシャロンが出てきた。
自動車のボディには焼け焦げた跡がついていたが、二人は無事である。
「くっ……ちょっと逆流して痛かったぞ。もっと抑えろよ」
「無理言わないでよ。これでも加減したんだよ」
ちょっと髪がチリチリしている以外は元気な様子である。
「姫様ぁ!!よかったです!!」
「お、大げさだよ。でも心配かけてごめん」
いきなりトリスタンに抱きつかれて、シャロンはてれながら謝った。
「姫……あなたがレプトタートルを倒したのか?こいつがボスだったんだぜ」
ガラハットは巨大なタートルの死体を見て、目を丸くしていた。
「え、えっと……僕だけの力じゃなくて……」
「倒したのは俺さ。こいつは雷をはなっただけだ」
コモルは自慢そうに笑う。脳内に何者かの声が響いた。
「自宅警備魔法レベル2 『自宅無双』を手に入れました」
それを聞いて冒険者カードを見ると、職業欄が『ネットカフェナイト レベル2』に変化していた。
「ちょっと!なんで君が倒したことになっているんだよ!」
「そりゃ、俺の指揮でタートルが死んだんだから、そうなるんだろう?」
コモルはそういいながら、モンスターの体から流れ込んでくる力に歓喜していた。。
(これがレベルアップってやつか?どうやら自分で戦わなくても、戦闘に参加していればモンスターの経験値を吸収して強くなれるのかも)
「何をニヤニヤしているんだ」
一人で不気味に笑うコモルを、騎士団は呆れた目でみつめていた。
「さ、帰ろうぜ」
騎士団は倒したモンスターの死体を持って、ネットカフェに戻るのだった。




