狩の結果
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
泣き喚く金髪の美少女が、全力で走ってくる。
「あっ!見つけた。シャロン様!一人で勝手に行かないでくださいとあれほど申し上げたのに……」
シルビアが説教しようとすると、シャロンはあわてて抱きついてきた。
「お願い!助けて!」
「いったい何が……え?」
シャロンに続いて現れた巨大なトカゲモンスターを見て、シルビアの目が点になる。
「まさか、レプトリザード?なんでここに?巣をつつかないと襲ってこないはずなのに」
「……ごめん」
シャロンがペロっと舌を出して頭を下げる。
怒りに燃えたレプトリザードは、口を開いて二人に向けて消化液を吐き出した。
「アイスシールド!」
黒い髪の美少女が、二人をかばって前に出る。彼女の前に氷の盾が現れて、騎士団を守った。
「クロエ、ありがとう」
「……早く倒して。長くは持たない」
クロエと呼ばれた小さな少女は、小さな声でつぶやいた。
「ウィンドカッター!」
シルビアの白髪が蠢き、振動波を起こす。レプトリザードを見えない風の刃が襲った。
「グオッ!」
いくつかは当たったが、やはり高速で這い回る相手に命中させることは難しく、ほとんど外れてしまう。
「……任せて」
クロエが杖を振る。黒い霧が沸き起こり、レプトリザードを包み込んで凍結させた。
「……今。やっつけて」
「クロエ。よくやりました。後は私が……」
シルビアがとどめを刺そうとしたとき、シャロンが杖を構える。
「いっくよー!ライトニングストーム!」
ケアンズ平原に、少女たちの悲鳴が響き渡るのだった。
夕方
二つのパーティに別れて魔物を狩っていた騎士団が、集合先のネットカフェに帰ってくる。
魔物に襲われてボロボロになったコモルだったが、帰ってきた騎士たちも負けず劣らず傷ついていた。
「うっうっ……ひどいですぅ」
「……もう姫と一緒に狩をするのは嫌」
シルビアとクロエはそうつぶやいている。
「……どうだった?」
コモルが聞くと、シャロンがふて腐れたように言った。
「なんとかモンスターは倒したけど……」
「姫!あの技は封印です。二度とつかってはなりませんよ」
いつもおとなしいシルビアが、珍しく切れていた。
「……まあ、何があったか大体わかる。またお前がバカなことをやらかしたんだろ!」
「失敬な!それでもボクは魔物をたくさん倒したんだ。一匹も魔物を倒せなかった君には言われたくないよ」
シャロンは怒りながら、何があったか話し始めた。
「つまり、敵ごと味方を巻き込んで感電してしまったというわけか」
「うっ」
シャロンはコモルに突っ込まれて、気まずい顔になる。
「で、でも魔物は倒せたんだよ。ほら、見てみて」
そういって、たくさんのエッグの死体と、巨大なトカゲの死体を持ってくる。
「やめろ!でかいトカゲなんてもってくるな!怖いんだよ!」
「あはは。君のそんなあせった顔を初めて見たよ!」
シャロンはレプトリザードの死体を持って、嬉々としてコモルを追い回した。
その様子を見ていたトリスタンはため息をつく。
「やれやれ。先が思いやられるな」
「いいじゃねえか。初陣でこんなたくさんの獲物をしとめたんだ。ふふ、シャロン様はもしかして伝説の勇者になるかもしれないな」
ガラハットは大物のトカゲの死体を見て、ホクホク顔だった。
「そうか。まあ姫のことはまた考えるとして、問題はコモル殿だな」
そうつぶやきながら、追いかけられているコモルに近づく。
「姫。コモル殿が泣いているので、それぐらいにしてあげてください」
「な、泣いてなんていねえよ。ただ、気持ち悪いだけで。……てか、きつすぎるだろうが。でかい卵みたいなものが体当たりしてくるなんて。ゲームだと最初に戦う魔物はもっと弱いはずだぞ。もっと弱い魔物はいないのかよ」
「残念だが、レプトエッグがもっとも弱く、また有益な魔物なのだ」
「マジかよ……」
あまりにも魔物が強すぎて、このままでは強くなる前に命を落としてしまう。
そう落ち込むコモルに、さらにガラハットが告げた。
「今日はゆっくり休んで、傷を癒せ。明日もまた狩をするぞ」
「ひっ!なんでだよ」
コモルは不平をもらすが、ガラハットは取り合わない。
「君には安住の地を見つけ、守ってもらわないといけないんだ。そのために「自宅警備魔法」が必要だろう?がんばれ」
簡単にハーレム生活を夢みていたコモルは、先の困難さを思い知って落ち込むのだった。




