初めての狩
ケアンズ平原
ここはゴブリン王国のはずれにある、多種多様なモンスターが生息する平原である。
エルフ騎士団はここを毎日の狩の場所としていた。
他にも周囲にはゴブリンの冒険者たちがパーティを組んで狩をしている。
モンスターのせいで農業が見込めないこの時代では、冒険者たちはごく一般の職であり、皆慣れた様子で食材を狩っていた。
しかし、その中に叫び声をあげて逃げ回っている男がいる。
「ひいいっ!助けてくれ!」
白い卵みたいな塊に追いかけられて、必死になって逃げているのはコモルだった。
「あいつ、何やっているんだ?レプトエッグなんかに追いかけられて?」
「さあな。遊んでいるんだろう」
周りの冒険者たちはチラッと彼を見るが、すぐに関心を無くして自分たちの獲物を狩る。
誰も助けてくれないので、コモルは必死にパートナーの後ろに隠れた。
「トリスタン様、お願いします」
「……わかった。『水神鎌』」
トリスタンの両腕が水の鎌に変化し、レプトエッグとすれ違い様に一閃する。
白い卵は真っ二つになって、地面に転がった。
「コモル殿はモンスターと戦った経験が、本当にないのだな」
「当たり前だろ!いや、正直舐めていたのは認めるよ。でも、人間の胴体ほどもある卵が超スピードで迫ってきたら、誰でも逃げる!」
コモルは安心するとともに、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「うむ……。まあ騎士の中には事務仕事専門の者もいるから、仕方ないかも。しかし困ったな。君が強くならないと、旅に連れて行けなくなるぞ」
「いい。俺はずっとネットカフェにひきこもって生活する」
そういって帰ろうとするコモルの襟が、むんずとつかまれる。
「まあそういうな。ここは男気を見せて、戦ってくれ」
とういって、襟をつかんだガラハットにモンスターの前に放り投げられる。
「ひいいいいい!」
コモルの悲鳴が響き渡るのだった。
そのころ、少し離れた場所では、シャロンとシルビア、他に小さな黒髪の騎士がいた。
「ボク、頑張るよ!」
「シャロン姫様、危ないですから、私たちの後ろにいて、トドメだけさすようにしてください」
シルビアはそう諫めるが、シャロンは聞き入れない。
「ボクは大丈夫。今まで君たちばかりに戦わせていて、申し訳ないと思っていたんだ。でも、今日からはボクも前に出て戦うよ」
そういいながら、コモルにもらった「絶縁体手袋」を装着する。
「さあこい!モンスターども!」
シャロンは勇敢にレプトエッグに立ち向かっていった。
「ライトニングソード!」
手から出した稲光を剣の形に代えて、虫たちを切り刻む。
シャロンの電光剣に切られたエッグたちは、煙をだしてひっくり返った。
「あはは!そらそら!」
調子にのったシャロンは、だんだん護衛の騎士たちから離れて、夢中になって魔物たちを狩っていく。
気がつけば、背の高い草が生える藪の中に迷い込んでいた。
「姫!危ないです!どこにいるんですか?」
遠くからシルビアたちの心配する声が聞こえてくるが、どっちにいったらいいかわからない。
迷っているうちに、白い塊が小山のように盛り上がっている場所に出てしまった。
「これは……エッグたちの巣?」
小山からはどんどん白いタマゴが這い出してきている。
シャロンはそれを見て、ニヤリと笑った。
「ちょうどいいよ。僕の雷魔法てまとめて始末してやろう」
そう思って杖を振り上げ、雷を落とす。
数十匹のエッグが雷に打たれて絶命した。
「あはは。大猟だ。みんなよろこんでくれるかな?」
死んだエッグを見回して、シャロンは悦に入る。
その時、小山のような物体が振動を始めた。
「な、何?」
シャロンがおびえて見守る中、いきなり中から巨大な影が空に飛び上がった。
黒い影がシャロンの顔に落ちる。
「なんだ?」
空を見上げたシャロンの目に入ったのは、巨大な白いトカゲだった。




