ネットカフェ難民とホームレスプリンセス
新作はじめました。
「ああ、疲れた……」
ある真夏日、大きな荷物を背負い、途方にくれてながら原付バイクで福岡の町をさまよっている青年がいた。
彼の名は日木籠。
彼は大学受験に失敗後、家に引きこもって自宅警備員をしていたが、成人を機会についに家を追い出されたのである。
それ以来、あちこちで日雇いのバイトをしながらネットカフェを渡り歩く難民生活である。
「もうちょっとぐらい待ってくれてもいいだろうに。鬼親が!」
そういってぶつぶつ不満を漏らすが、こればかりは仕方がない。
そうつぶやきながら、これからどうするか考える。あてもなく町をうろついていると、町の外れにある中規模のネットカフェに来ていた。
「俺、こんな生活していて、将来大丈夫なのかな……」
思わず将来に対する不安がわきあがってくる。
「もうこんな毎日やだ。安心してすめる家がほしい。もしくは異世界に転生したり転移して、そこで冒険者になって金を稼いで奴隷を買ってハーレムに……」
そんなことを思いながら、駐輪場にバイクを止め、『ネットカフェ」と看板が出た三階建てのビルに入っていった。
一階部分が駐車場で、二階部分がネットカフェ。三階はどこかの会社の事務所になっている。駐車場にはたくさんの車が停まっていた。
(こいつらも、暑いからみんなサボりに来ているんだな)
親近感を覚えながら、涼しい店内に入っていった。
「はい。三時間パック800円です」
受付の従業員は、コモルの大荷物を見て、またホームレス来たのかという顔をしながら伝票を差し出してきた。
(お、俺だった好きでホームレスになったんじゃねえよ。現代社会のひずみの被害者なんだよ!)
などと心の中で言い訳しながら、ブースに入る。
「これでようやく横になれる!」
心の中で歓喜の声を上げながら、無料のジュースをがぶ飲みし、好きな漫画を読む。
もちろん個室はゆったりできるフラットスペースだ。
(俺、将来どうなるんだろうな。田舎に帰っても、いいところに就職できないだろうし。ああ、安心して住める家がほしい)
個室の座椅子にもたれながら、ボーッとしていると、いきなり頭痛と共に女の子の声が聞こえてきた。
「『家』を強く希望する男の子を発見。うん。自宅警備の経験もあるみたいだし、彼ならふさわしいかもしれないね。この子に決めた!」
その声とともに、コモルは意識を失っていった。
ゴブリン王国 王都
海のそばに建設された町に、大雨が降っていた。
「もうやだ!……町の宿に泊まりたい!」
城壁門の外で、一人の少女が不満を漏らしていた。
金髪碧眼で肌が透けるほど白く、かよわそうな美少女だが、その声は大きい。彼女の耳は長く尖っていた。
彼女と共の者たちは、テントを張って寝泊りしていた。
町のそばとはいえ、城壁の外である。辺りには魔物の気配が漂い、あちこちでうなり声が響いていた。
「姫!我がままを言ってはだめです。私たちにはお金がないんですから」
水色の髪の20歳ぐらいの美女が、そんな彼女を優しく宥めた。
「そうですよ。我がエルフ王国ははるか以前、魔神族が生み出したモンスターよって滅ぼされてました。残る王族は姫一人。再興のために、節約して資金をためないと。城門を通るたびに通行税を取られるんだから、節約しましょう」
もう一人の、赤髪グラマーの美女が、そういって嗜める。彼女は20代前半で、皮製の鎧を纏っていた。
「その前に病気になって体を壊したら、意味ないだろ!こんな大雨の時くらい、宿をとろうよ!」
そうごねる少女に向かって、供の二人は現実を説明する。
「いいですか?たとえば我々エルフ騎士団全員が城壁内の宿に泊まろうとしたら、最低一泊10万マージは必要になるのです」
「ほかにも食費とかも掛かりますしね。一番弱いモンスターであるレプトエッグをひたすら狩っても、稼げるのはせいぜい3万マージ。つまり赤字です」
そう説得されて、少女はフグのように膨れる。
「なら、姫であるボクだけでも……」
「姫だけがそんな贅沢をしていると、家臣たちはどう思うでしょうか?」
「そうですよ。せっかく国が滅んでも我々についてきてくれて、みんな冒険者として働いてくれて再興資金をためてくれているのですから」
そう諭されても、少女は納得しなかった。
「なら、『女神の願い石』を売ればいい」
シャロンはガラハットが持っている、四角い黒い板を指差した。
「え、ええっ?で、でも、これは我々の王国を再建する鍵となるもの。つらいでしょうけど我慢してください。シャロン様」
ガラハットと呼ばれた赤髪美女は、大切そうに持っている石を抱きしめて首を振る。
「いいから、よこせ!売ってお金にするんだい!」
シャロンがつかみかかると、ガラハットは抵抗した。
「あっ。やめ……やめて!やめんかい!くらぁ!いい気なっとると、どついたるど!」
「ご。ごめんなさい」
いきなり豹変したガラハットにおびえて、シャロンは引き下がる。
「ほら、いつまでもぐずってないで、光の結界を張ってください。ここは街の近くとはいえ、夜になったらゴーストやアンデットが出るかもしれないんですから」
「ううっ……トリスタンの鬼!」
青髪美女トリスタンに言われ、シャロンはしぶしぶ頷くと、手を天にかざした
「エレクトリックシールド!」
少女の白い手から出た電光はあたりを照らし、聖なる結界を作った。
「お見事です。これで安心して眠れます」
隣のテントにいる、他の少女たちからも感謝される。
「気にしなくても良いよ。それじゃ、お休み」
美少女は笑顔になって、自分のテントに戻る。
しかし、すぐに心細さと空腹に涙目になった。
「……ひもじいよう」
「確かに」
彼女たちはやっとの思いで、願いを叶えてくれる女神とコンタクトが取れる秘宝を探し出した。しかし、故郷から逃げてここに来るまでほとんどの貯金を使い果たしてしまい、食べるものも節約してここまで来ていた。
それは彼女たちだけではなく、周りのテントからも同じような声が上がる。
「……なんでこんなことになったんだろう」
「王国が滅びなかったら、外で野宿なんてしなくてよかったのに!」
周りからそんな声が聞こえてきて、ますます美少女-元エルフ王国皇女シャロンは肩身が狭い思いをした。
「トリスタン。我が忠実なる臣下、聖騎士たちも空腹に震えているよ。いつまでこんな暮らしをしないといけないの?」
ふくれっつらになるシャロンに対して、トリスタンはにっこりと微笑む。
「大丈夫です。私たちは誇り高いエルフ一族です。何かのきっかけさえあれは、いずれ国を再建できます」
「そうですよ。。この「女神の願い石」に願えば、きっとなんとかなるはずです」
トリスタンとガラハットの顔には期待があふれていた。