第1話:ハジマリ
僕は妹と図書館に行って、図書館の司書さんの読み聞かせ会を聞いている。
今回のお話は『ねないこだれだ』『おばけのてんぷら』
ただただ真剣な態度で聞いていると、読み聞かせ会はもう終わってしまう。家に帰ろうと妹の手を引き、家に帰ろうとしたその瞬間、足が金縛にあって動けない。
昼の四時ぐらいなはずなのに、太陽を暗い暗い闇が覆い隠して、赤い月が僕たちを嘲笑っているように浮かんでいる。金縛りが解けたので、急いで妹の手を引いて家に帰ろうとすると地面が大きく地響きを立てて揺れる。僕はニュースで聞いた言葉を反復していく。
「ジシン?まさか南海トラフ地震?」
「ねぇねぇ、ニイサマ、彼処に扉が」
「は!?」
僕は妹の指差す方向を見ると、妹の言った通りに豪華な扉があって、思い当たる節などないが不吉な予感がして……
僕と妹は一斉に扉から現れた禍々しい怪物たちに囲まれている。彼らに害意はないが、見慣れない場所で気が立っていると思った僕は、彼らを落ち着かせようと声をかける。
「ええと、あなた達のお名前は何でございますか?僕の名前はけちえん そらでございます」
「……ギギギギギ…… オレ達の真名は開かせぬ。貴殿の好意は有り難い。だからこそ、貴殿に借り1だ。 オレ達は人が生み出した悪意のぶつける対象。……ギギギギギ…… オレ達、貴殿の夢を応援。オレ達の種族は悪魔だ」
妙な歯ぎしりの音を立てながら、小気味よい調子で話してきて去ってくる紳士的な悪魔達に一礼して、家へと帰る。家へと帰ろうとして、後ろを振り向くと妹の姿がない。妹の姿を探して、四方八方へ妹を呼ぶが、妹の姿を見つけることなくて、僕は静かに気を失う。
僕が目を覚ますと、幾十にも刻み込まれた紋様が祭壇の端っこにいる。聖地では、顔に札をつけた神官達が歓迎するぞという。僕は糸に引っ張られるように祭壇の中央に行き、その後、妙に頭に響く女の声が聴こえて……
僕がもう一度目を覚ますと、そこにあったのは地獄のような惨状。僕の隣には、妹が倒れ伏せている。僕は誰もいないことを確認すると、目から大粒の涙をポロポロ流す。
(どうか、家族親戚一同が集まっている我が家が無事であってくれ)
僕は思わず何度も何度も赤い月に向けて祈る。
後にこの世界に起きた異変のことを【ハジマリ】と呼ぶ。
僕が粗方火事が消火されていくのを見て、眠っている妹を起こして、家の元へ帰る。家の場所には、何もない。ただ同学年の男女数名が涙を流し続けている。僕と彼女たちと出会ったのは、その日が第2回目。
数年後、日本は分裂する。龍に支配された国、鬼の支配する国、悪魔との共存を選んだ国、天使に救われた国。
その頃、渡された一枚の書類を見せられた僕は茫然自失の状態で、明日からどうしようと言いながら、妹の髪を撫でる。そして僕らに訪れた変化を受け入れないとならないのだと理解しながら……
【借金:4800万円】の一枚の書類と【異能】の効果を見せられている。僕が世界が変わったその日に手に入れたのが、悪魔からの呪印と天使からの呪印と記憶はないが鬼からのノロイと神様からの寵愛と【言霊】という異能だけ。得たものはあまりにも少なく、失ったものがあまりにも多い。
僕は、幼馴染であることを教えられた彼女に声をかける。
「僕はこれからこの異能で、失ったもの分の幸福を取り返そうと思うんだ。本を書いて、みんなに聞かせる。みんなが幸せになれないのが現実の人生という物語なんだとしても、虚構の物語なら、可能となるはずなんだ。だから、隣町の学園に一緒に行かない?リュー」
「うん、いいよ。いいじゃないか!彼処の学園でアタイ達は手に入れよう」
そう話していると幼馴染の彼らが乱入していく。
「オレ達との間で、そんな水臭いことを言うなよ。リュー、ソラ、サクヤ」
「そうですわよ。ソラを守るって約束したからな。だから、一緒に行こう。エイケイ、ソラくん、リュー」
僕たちは、一緒にオーサカ異能養成学校に入学するために、家族のツテを辿り、藍野財閥のご令嬢に頼る。藍野財閥は僕の異能を聴くと、二つ返事で了承してくれる。
僕らは第1期の学生として入学して、予想通りに入学式から波乱に巻き込まれていくのだが、その時はまだ僕は知らない。