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 ひとまずキャサリンが豹変した振る舞いに気をかける店長へは、植物の芽を見ていたら故郷(ふるさと)を思い出したからだと適当なごまかしを入れ、樹医の手伝いをすることを承諾させてから、キャサリンをいったん帰宅させ。俺と小ノ葉はその日の業務を終わらせてから待ち合わせ場所とした駅向こうの茶店へと向かった。




「ここって。イッチと出会って二件目のお店。木の葉丼ごちそうになったとこよね?」

 恥ずいことに、お店のおねえさんも小ノ葉のことを憶えていたらしく、空のガラスコップを三つ。そしてなみなみと冷水が入った水差しを二つもテーブルのど真ん中へ置いて厨房へ逃げ帰ったからだ。


「へぇ。ここが喫茶店ていうところね?」

 落ち込んでいたキャサリンの暗い表情はすでに消え去っており、ウエイトレスの手前オンナ言葉を続けていたのだが、いなくなった途端。

「ほう。景気ええんやな。水は飲み放題でっか?」

 浪花(なにわ)言葉と容姿のギャップがものすごい。

 重くなる頭を堪える俺。

「ふつうはどこでも飲み放題なんだが……水差しを二つも置いて行く茶店はそうないな」

「そうなの?」

 と首を捻る小ノ葉は、三杯目の水を自分のコップに注ぐところだった。


「…………」

 その様子を厨房の奥から恐々と覗くウエイトレスさんの視線を感じつつ。


「さてどうするよ……げっ!」

 視線を戻した俺は絶句だ。キャサリンも小ノ葉の真似をして二杯目の水を飲み干すところ。

「お、お前らいい加減にしろ。人間じゃないのがバレバレだろ、こ、こら、キャサリン、慌てて水を飲むからむせるんだ」

 まるで枯渇した砂漠をさ迷っていた探検隊がオアシスに到着したみたいな光景だ。


「ひぃぃ。小ノ葉はんの真似したら死ぬかと思ったでー」

 おしぼりで口を拭って、目を真っ赤にしたキャサリンに言って聞かせる。

「あのな、小ノ葉は特別なんだ。飲んでるんじゃなくて宇宙空間に捨ててんだ」

「そうでしたな……」

 キャサリンは「はぁー」とか吐息してから、いけしゃあしゃあと言う。


「まずは(なん)か食べようや。今日は給料日なんやろ?」


 キャサリンの機嫌がもとに戻ったのでほっとするが、早速タカリかよ。

「あたしにもお給料が出たから、はい……イッチへ」

 小ノ葉は自分の給料袋取り出すと、封を切らずにそのまま俺へと渡すので、

「おいおい。これはお前が稼いだ分なんだから、お前が自由にしていいんだぜ」


「ううん。あたしはイッチと一緒にいられるだけでいいの。これでお父さんの借金は終わるんじゃない?」


「こ……小ノ葉……」

《おーい。泣けてくるよなー、天使よ聞いたか、今の言葉》

〔おうよ。これが天使の目にも涙って言うやつだなー〕

 なんか違う気がするけど、まあいいや。


「言葉だけで嬉しいぜ。でもやっぱこれは受け取れない」

 すっと給料袋を押し返す。

「ううん。あたしはお金が欲しいんじゃないもの」

 しゅっと押し返す小ノ葉。


「ほんなら、ワテがもらっとこか?」

 ひょいと出したキャサリンの白い手をパシリと平手打ちし、

「分かった。キャサリン。今日は大盤振る舞いだ。俺と小ノ葉でここの支払いを折半してやるから好きなのを頼め」

「えっ? ほんまかいな? いいの?」

 胸の前で手を合わせて上半身だけで歓喜の舞いを披露。何とも芳しい香りが漂った。たぶんナデシコの花の匂いだ。


《これで言葉がアレでなければ、完璧なんだがな》

 悪魔の思いは俺の人格全員の思いでもある。


「そうと決まったら? 何食べようかなー? わおぉ。これがメニューでっか、ぎょうさんありまんなー」

 一通り目を巡らせてから、

「ほんまにおごってくれまんの?」

 キャサリンは上目遣いに俺を見た。午前中まで落ち込んでいたので可哀そうに思っていたのだが、その心配はなかったようだ。


「ああ。どれでもいい。二つまでならおごってやるよ」

「なーんや。それだけかいない。全部とちゃうんや」


「バカ野郎。どんな腹してんだ」


「あたしなら全部食べられるよ」と小ノ葉。

「お前の場合は食ってるんじゃない。お金がもったいないから水にしておけ」


 でもって、家へ帰ったら晩飯だぞ、という忠告に耳を傾けることなく、小ノ葉は『木の葉丼』を三杯。キャサリンはカレーライスとカツ丼を注文した。


 料理が出て来るまでの時間で研究室の状況を小ノ葉に報告。不気味な雰囲気があったことを伝えた。


「コンピューター制御で遺伝子操作をして新種の花を作るって辺りが俺には入っていけないよな。この辺はキヨッペが頼りだ」

「キョウヘイはんは?」

「もう来ると思う。あいつはオシャレさんだから、外出する前に時間が掛かるんだ」


 キヨッペがやって来たのは注文した品がずらずらっとテーブルに並び始めた時だった。


「遅くなってゴメンね。ナデシコの京子ちゃんが長々と喋るからさ……げぇ!」

 会話の途中でキヨッペは息を飲んで石化する。


 そりゃそうさ。テーブルには木の葉丼が三つ。カレーライスにカツ丼、追加されたオムライスと親子丼、そしてアイスオーレが一つ。空っぽになった水差しが二つと、三つ目の水差しからコップへ冷水を注ぐ小ノ葉だ。これを見て驚かないヤツのほうが異常体質だぜ。


 キヨッペはきっかり15秒で目覚めた。

「な……何だかとりとめのない物が並んでるね。みんな朝から何も食べて無いの?」


 その問いかけに俺が応える。

「朝も昼も人並み以上食ってるよ。しかもこの後帰ったら晩飯が待ってる」


「うへっ。大食い選手権の撮影現場みたいだ」

「ああ。この店は茶店と言うカテゴリーから外して、食堂に移し替えるべきだな」


 俺は溜め息を落としてから言葉を継ぎ足す。

「だいたい何でもあるから、どんどん注文してしまうんだ」


 問題はここだなと悟った。あ、いや。こんな些細な問題を解くためにここに集まったのではない。

 とにかく俺たちが集まった理由をキヨッペに話したところ。


「なるほどね。地球上にはいない異生物か……。店長にはそれが見えていないんだ」

 キョッペの柔軟なる頭脳は、すべてを吸収してすべてを理解したようだ。


「それって植物界で生まれたってことはないの?」

 と訊くキヨッペに、キャサリンは割りばしの先を左右に振って否定する。

「そんなもんおまっかいな。アレは動物界にもおらん新種の生物や。ゲノム編集で作られた奴に違いないワ」


「そんな異生物がフェアリーテールの二階で生まれたって……」

 キヨッペは何か言いたげに言葉を閉ざし、キャサリンは、

「偶然の産物でっか?」と首をかしげた。


 しかしキヨッペは爽やかに前髪を振る。

「遺伝子操作でできた生命体じゃないよ。だって店長は植物のDNA操作をしてたんだろ? だったら違うと思うよ」


「ウソやん、店長がDNAをいじっとったら偶然できたんやろ?」

「俺もそう思う。SF映画でよくあるじゃん。そういう研究所でミュータントが生まれるんだろ?」


「う~ん。だいぶ考えが古いね。植物のDNAをいくらいじったからって突然変異的に凶暴な生命体は生まれないよ。まあ、一種の病原菌みたいなのは生まれるかもしれないけど、偶然にはできないのさ」


「そうかな。だいたいの映画や本ではそう言うじゃん」


「SF読んだことあるの?」

「うっ……」

 鋭いところを突いてきた。キヨッペから読んでみろと渡された数々の本、その最初の数ページでリタイヤを表明している。


「例えばさ。電子部品を適当に並べたってスーパーコンピューターは生まれてこないし。プログラム言語を意味なく並べたってなにも動かないのさ。確固たる理論のうえで、たくさんの試行錯誤を繰り返して繰り返して、そうやってすごい物が生まれてくるんだよ、世の中そんなに甘くないよ」


 むおぉ。何だこの説得力。俺の思っていたことが全部きれいさっぱり否定されちまった。いっそ清々しいぜ。

「じゃオレが見た黒コロ丸は何だってんだよ。まさか目の錯覚とは言わねえだろうな」


 そんなこと言われた日には、コイツが不思議大好き人間だと宣言したあの言葉がウソッパチになる。


「目の錯覚なんて言うわけないよ。ただね、僕には別の考えがあるんだ」

「どんな?」

「聞きたい?」

 ヤツの目が異様に光っていたので慌てて辞退する。

「あ。いいや。聞きたくない」

 こいつがこういう目をしたときはとんでもなく難解でSF的な話を始める前兆なんだ。


 俺の目が泳いだのを降参と読み取ったキヨッペは、現実的な方向へ話の矛先を変えた。

「問題は。なぜ店長は新種の花を作ろうとして躍起になっているか、だよ」

 あのSF好きの不思議大好き野郎のキヨッペが真面目な話をする。何だか俺より大人びて見えた。


「青いヒマワリが最終目標だと思うの。そう言ってたもん」とは小ノ葉。

「それが完成したら奥さんの意識が戻ると思っとるからな」キャサリンも同調。


「奥さん、病気なの?」


「交通事故で怪我は治ったけど意識が戻らないらしい」

「奥さんと青いヒマワリとのあいだでなんか思い出があるんだね」

 しばらく思案。

観棕竹(かんのんちく)日野山慶道(ひのやま・けいどう)さんが言ってたけど、研究室を破壊したって問題は先送りになるだけで、なにも変わらないって……」

「かと言って信念を持った人に説得はきかない」

 カツ丼と親子丼、それから木の葉丼を前にして、俺たちの思考は暗中模索の霧の中だった。


「それなら小ノ葉に青いヒマワリに変身してもらって完成したように見せるってのはどうだ?」

「あ。あたしならそれできるよ」

「むちゃだよ」即行で否定したのはキヨッペ。

「奥さんの意識が戻る保証は無いし、大量生産は不可能だよ。小ノ葉ちゃんの体がバラバラになるよ」

「せやな。ホンマに完成したんとちゃうモンな」

「それにその過程でサンタナさんが懸念するミュータントが大量発生したら終わりだよ」


「奥さんと一緒に花屋を営むのが夢だって店長は言ってるからさ。奥さんの意識を俺たちで覚ませればいいんじゃね?」

「医者がサジ投げてるのに……僕たちでは無理だよ」

「でも奥さんは健康体だって言ってぜ」


「今度お見舞いに行ってみない? それで、キャサリンにナデシコに戻ってもらって、見舞いの花として病室に潜入してもらうってのは?」

「それはムリだ。根が付いた花は縁起が良くないって母さんが言ってた」


「ま、まさか。ワテの根っこを切り離す気でっか」

「根なんかねえじゃん」

 ついテーブルの下を屈んで美脚を見つめ、小ノ葉に睨まれた。


「なぁ――っ!」

 その時だった。


 いきなりの暗転。まるで店内の照明が落ちて、このテーブルだけにスポットライトが照らされたかのような錯覚に落ちた。


「ど……どうしたの? な、なにこれ?」

 さすがのキヨッペも狼狽え、小ノ葉も真ん丸い目を見開いて固まったが、一人平然としたヤツがいた。


「あちゃぁ~。おでましや」

 キャサリンだ。折り曲げた肘をテーブルにつけると、重たげに自分の頭を支えて片眉を歪めた。


「もうちょい、カツ丼食べたかったのに……」

 そしてすぐに見覚えのある光景に変化したので、オレもキャサリンと揃って頭を支え、小ノ葉はニコニコ顔に切り替える。


「あたたた……来たよ……」

 そう、暗闇に暗転した周囲が灰色の世界に変わったのだ。


「だ……誰が来たの?」

 怯えるのはキヨッペだけだ。初体験だからそれが最も正しい振る舞いだろな。


 放置するのはかわいそうなので教えてやる。

「サンタナさんだよ」

「ウソっ! 植物界の王様だろ。こんな喫茶店に来てくれるの?」


『ジャマをするぞ。悪いな』

 腹の底に響く威厳のある低音。マナを管理する頂点ともいえるキング様さ。


『ほぅ。カツ丼とはこういうものか。どうじゃキャサリン、美味いか?』

 くだらないことを訊くなよ、とも言えず黙っていると。

「へぇ。美味おまっせ。はんなりと卵に絡まった豚肉の甘みが豊潤で、胃の中に滲みるようですワ」

 お前は美食家か。


「姿は見えないのに声だけが聞こえるんだ」と言い出したのはキヨッペだ。


『お主が吉沢キョウヘイか。このたびは協力感謝する』

「あ? あ、いえ。僕もこのような経験をさせていただいて感激しております」

 すくっと立ち上がって声のする方へ丁寧に頭を下げるが、何とも心許(こころもと)ない様子だ。

 すぐに背筋を伸ばすとまるで反対方向へもう一度頭を下げる。そして右90度へ向かって頭を下げようとするので、

「キヨッペ。いいんだよ。サンタナさんは俺たちの脳細胞に直接コンタクトしてくんだ。実体があるわけじゃないんだよ」

 ヤツは目を剥いた。

「どうしたの? イッチがすごく賢そうに見える」


「お前、普段どんな風に俺を見てんだ?」

「あ。いや。そういう意味じゃないよ」


 俺たちの小競り合いを無視してキャサリンが口を挟んだ。

「見つけましたデ……」

 衣に包まれた豚肉を箸で摘まみ小さな口の中へ頬張ると、モグモグと咀嚼(そしゃく)した。

「モグモグ……」

 ごっくんと飲み下し、満面の笑みを浮かべ、

「はぁ。美味し……」

『こらー! キャサリン。無駄な時間を作るな!』

 サンタナさんに叱られていた。


 こっちは呆れた気分さ。俺はキャサリンをすがめ、声だけはサンタナさんへ、

「研究室の物陰にいた黒くて丸いモノ、あれが世界を滅ぼすかもしれないって言う奴ですか?」

『うむ。そのとおり。やはり暗躍しておったか』


「マナとオドのバランスを崩すゲノム編集で偶然作られた異生物でっしゃろ? せやけどキョウヘイはんは違うちゅうまんねん」

『フム。おもしろい。我々の見解と異なる意見が出るとは。このようなシチュエーションを期待しておったのだ。お主が唱える説とはどういうものだ?』


 キヨッペはケホンと手で口を押えて咳払いをすると、さっき俺に見せたレーザー光線でも打ち出すような眼光をほとばして胸を張った。

「フェアリーテールの舘林さんは科学者でもなんでもないただの科学好きな男性です。その人が理論もへったくれも無しに新たな生命体を作りだすことはできないと思います」


『では、カズトやキャサリンが見た黒コロ丸は何だというのだ?』


「単刀直入に言います。あの生命体は電子機器に群がる異生物です。そいつらはAiが技術的特異点を超えるのを待っているんだと思います』


『なにっ! 技術的特異点の先で活動する異生物だと申すのか?』

 意表を突かれたみたいに、瞬間言葉を失くしたサンタナさんだった。


 少しの間、辺りの空気が凍った。


「ぎ……技術? 特異点? なんだそれ?」

 もうすでに俺の意識は逃げ腰さ。でもキヨッペは堂々と語り出した。もう止まることはないだろう。


「Ai機器から漏れる輻射波と熱源をエネルギーに換えて細々と生息したていた異生物です」

「うっそぉ」

 キヨッペは得意げに鼻をつんと突き出し。

「昔からそんな話はあったんだ。機械が忽然と謎の不具合を起こしたりすることってあるだろ? 専門家が念入りに調べても分からなかったり、初めは宇宙からの有害な放射線が電子を打ち貫いたのだろうとか言われていたんだけど、違うという人が現れたんだ。電子機器に潜む怪人って呼ばれるんだよ」

 と俺には説明して、

「今はまだ活動は限られていますが、Aiが特異点を超えた瞬間に人間にとって代わろうと暗躍しているんだと思います」

 改めてサンタナさんに結論付けて終えやがった。


『そ……それはもしかしてシンギュリアンっと呼ばれるヤツではないか?』

 サンタナさんの返事は、あきらかに動揺していた。


「サンタナはん? 知ってまんの?」

『ああ。知っておる。だがキョウヘイ殿には感じ入りましたぞ。カズトとの脳細胞とは雲泥の差。お主を助っ人に選んだのは正解じゃな』

「でっしゃろ? ほんまカズトのまんまやったら、どないなってたことか」


「うっせいな。じゃぁシンギュリアンって、お前なら説明できんのかよ?」

「え? あ? よう知らん」


『かぁ。情けない。よくそれで植物族の諜報部員を務めておるな』

 頭を抱える姿が見えるような口調で、サンタナさんはキャサリンをたしなめた。


「ほらみろ。オマエだって俺と似たようなもんじゃねえか。だいたいシンギュリ……なんとかって何だよ?」


「シンギュラリティだよ。技術的特異点のことを指すんだ」と説明するのは我らのキヨッペだ。

「技術的?」


「あたしの村では過去の事だよ」

 突然口を挟んだ小ノ葉に、

「えっ!」とキヨッペは仰天。

「ふ~ん」

 気が抜けたような返事をしたのは俺さ。相変わらず雲の上だった。


「小ノ葉ちゃんの村って……すごいところじゃないか」

「何も無い村だって言ってたぜ。村だぜ、村」


「技術的特異点て言うのはAi機器が人間の能力を超えることを言うんだ」

「だから?」


「機械が人間の能力を超える、つまり人間が太刀打ちできなくなるんだよ」

 とキヨッペが繋いで、サンタナさんが後を続く。

『そうじゃ。カズトのようにのんびり構えておるヤツはいずれ絶滅する。だが特異点を超えたAiと対等、あるいはそれを制する新たな生命体が現れる。それがポストヒューマンじゃ』


「ポスト?」

 道路の隅っこに立っている赤っぽい物体を想像したのは俺だけのようだった。


 サンタナさんは、しょうがないな的な咳払いと共に、

『よく聞けよ、カズト』


「はいはい。耳の穴かっぽじってます」


『くだらん合の手はいらぬワ!』

「へいへい。ごめんなさいね」


「…………」


 一拍よりも短い間を空けて、サンタナさんは語る。

『人間の能力を超えてしまったAiに対抗すべく、科学技術を使って脳や肉体を進化させた人類、それがポストヒューマンじゃ。じゃがキョウヘイ殿はそれは人類から派生した種ではなく、電子機器に生息する地球外の異生物だと申すのであるな? それでシンギュリアンか……』


「そうです。ポストヒューマンは地球上の種が進化したものだと僕は思います。でもシンギュリアンは違います。今は電子機器にイタズラする程度の力しかありませんが、舘林さんのゲノム編集で目覚めてしまったのではないかと思います。そいつらが特異点を境目にシンギュリアンとなって世界を制する日が来ると言うのが、僕の説です」


「うそ……そうなの?」

 もう俺には何のことだかさっぱりだ。


 奴は真剣な目でうなずいた。

「その異生物はマナもオドも必要としないんだよ。新世紀の生命体さ」

「誰が作ったの?」

「だから作られたんじゃないって」

「どっから来たんでっか? 宇宙から……でっか?」とはキャサリンで、

「異空間からの侵入者っていう説も否定できないだろうね」

 と言うと、キヨッペは口を閉ざしゆっくりと小ノ葉に視線を移動させた。


「おいっ! 小ノ葉を疑ってるのか!」

 少々カチンときたね。ヤツの胸ぐらをひねり上げたい衝動に駆れたが、先に察知したらしく、

「イッチ、落ち着いて。僕はそんなこと言ってないだろ。植物界からのコンタクトだって僕らの次元の話じゃないんだ。シンギュリアンは、異世界、異空間。異次元、技術的特異点を超えた世界からとか。ね? やって来るところはいくらでもあるさ。それがここに集まってるのさ」


「どこ?」


 キヨッペは落ち着いた吐息をして見せると、静かに言った。

「フェアリーテールだよ……」


 おいおい。花屋でバイトなんかしている状況じゃねえんじゃね?

  

  

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