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異世界の美少女はかくあれかしと思ふ  作者: 雲黒斎草菜
小ノ葉。泳ぐ(おっとっと と4話)
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2/4

  

  

「ところでイッチ。コノハちゃんに着替えの方法を教えた?」

「ああ。バスタオルで体を隠しながら順に具現化する練習をしていたから大丈夫だと思う。俺の監視をもってしてもちゃんとそれらしく見えた」


 俺たちは男子更衣室で海パンを穿きつつ、怪しげな会話をしていた。


「しかし、よくあんな水着のサイトを見つけたよな。俺想像しただけで……やっべ」

 小ノ葉水着姿を思い浮かべるだけで、海パン装着寸前の『激おこちんちん丸』が顔を出しかけて手で押さえつけた。


「イッチはネットとか見ないの?」

「見ねえな」

「何のためのスマホなんだよ……もったいないな」

 脳内保険体育科の人間にはスマホは電話以外の何物でもないのだ。


「水着のサンプルなんか『レディース競泳水着』で検索してごらんよ。いくらでも出てくるから」

 ほー。そうなの。初めて知ったよ。帰ったらやって見よ。


 で。話題がIT関係の話に切り替わり、激おこちんちん丸は撃沈。今は海面下に沈んでいる。海綿(かいめん)だけに……。

《おいおい。R指定つかないか?》

〔しかし『ネット』と『検索』という言葉が出るだけでITになっちまうあたり、オレって痛いな……〕




 更衣室から出た俺たちの前に杏が腕を組んで仁王立ちしていた。

「おせえな、イッちゃん」

「およ? お前、着替えないの?」

「オレは家から着て来たんだ。見ろよ」

「てぇー。半パンで泳ぐ気かよ。上はポロシャツの中にTシャツ着てんのか」

 キヨッペが苦々しく笑うところを見ると、どうも当たりみたいだ。


「イッちゃんだってサーフパンツじゃねえか。オレと似たようなもんだぜ」

「俺はキヨッペに教えてもらってこれにしただけだ」


「でもよ……」

 杏は怪しげな視線で俺を舐め回し、

「やっぱ、いい体してんな。イッちゃん。すげえ筋肉だな」


「おーい。キモイよ、アンズぅ。そんな目で見るな」


「にぃやんとは雲泥の差だもんな。オレもそんな身体になりてえな」

 急いでバスタオルを上半身に羽織って隠し、

「お前の胸筋も立派になってきた……あれ? Tシャツの下何か着てんの?」

 そう。意外と盛り上がってきたぽよよんが、ぺたたたたん、だった。


「水の抵抗無くすためにって言って、サラシを巻いてんだよ」と小声で囁くキヨッペ。

「そうか。偉いぞ、アン。泳ぐ気満々なんだな。頑張って筋肉付けてくれ。水泳はいいって言うからな」


 ニカニカ笑う杏の背後から目映い光が二つ。

「アンちゃんお待ちー」

 まずは、可愛らしいスクール水着の奈々子ちゃん。

 キヨッペの目の色が濃くなるのは、まあ良しとしよう。


「お待たせ……」

「ぬおぉぉ」

 息を飲んだね。ああ飲んださ。

 着替えの練習を横から見ていてじゅうぶんに慣れたはずなのに、ここに来て激おこちんちん丸が急速浮上。海面から飛び出しそうになる。


 濃いマリンブルーの薄い競泳水着は体のあらゆる曲線を著実に浮き出しており、それを強調させるかのような細く白いラインが大きくゆがむとんでもボディと、さらに切れ上がった股のラインが強烈なV字カットを醸し出し、真後ろから見れば小さなビキニパンツと肩はH字、いや横倒しのKかな。そんなラインを描いた真っ白で滑々の背中が丸出しになり、煽情的な格好であるにもかかわらず胸を張るもんだから、

「やっべ――っし」

 肩に羽織っていたバスタオルを腰に巻くのは男として当然で、ってぇ。キヨッペまでも……。


 同じ行動を取る男二人とは裏腹に、杏は平然とした態度で奈々子ちゃんに預けていた荷物を肩に担いだ。

「さあ、奈々子。行くぜ」

 ほんと。男らしいな。お前……。





 さて。俺たちは周囲から注がれる白い視線を弾き飛ばしてプールサイドに出た。

「うぉぉ! イッちゃん。丸いプールがあるぜ!」

「アンちゃん。走ったらだめだよ」

 慌てて注意するキヨッペに、杏は遠くを指差す。


「にぃやん、ほら。波があるぜ、海みたいだ!」


 俺たちは明らかに異質な存在だった。

 市民プールや学校のプールしか知らない杏には、見るモノすべてが特別な物なのさ。こんな景色を見慣れたセレブな宿泊客から寒い目で見られたって、気温が下がってちょうどいい。青空から射す猛烈な日差しが幾分ゆるくなるってもんだ。


「うぉぉ! にぃやん来てみろ、ヤシの木が生えてんぜ!」

 ぴゅーと飛んでいくと幹をパンパンと平手打ち。

「うぉぉ! 本物だぁ! オレ、本物のヤシの木初めて見たー」

 と言って、高い位置に茂った葉を眩しげに仰ぎ見る杏。


 ちょっとはしゃぎすぎじゃね?

 かと思うと。

「うぉぉ! イッちゃん。ボンボンベッドだ。これ座ってもいいのか?」


「おいおい。あいつ黙らせてくれ」

 キヨッペは、頭痛を堪えるように頭を押さえる俺に笑いかけてから、手の平を下にして呼び寄せる。


「アンちゃん。ここではビーチベッドって言ったほうがいいよ。それより。ほらどこかに落ち着こうよ。どこにする?」


「そ。そうか。ここは市民プールじゃなかったよな。どこに座ってもいいのか?」

「設備は使っていいっておねえさんが言ってたけど、ベッドは無料じゃいかもしれないね」

 こいつも結構貧乏性なのだ。


 杏も承諾。辺りをぐるぐる走り回り、

「このヤシの木の下にゴザを張ろうぜ。ここなら影もあって涼しいし」


「あいつ、花見の場所取りといっしょくただな」

 周りのセレブから猛烈に白い目で見られつつも、ここまで来たら開き直りさ。俺たち一行は手を振り続ける杏の下へ向かった。


 杏は奈々子ちゃんと共同でゴザを引き、両隅を荷物で固定するという小作業をして待っていた。


 ヤシの木の下か……。

 何となくだが、一抹の不安を覚える。そしてそれは的中する。


『ここは、お主たち貧乏人が来る場所ではないぞ』

 出たよ……。ヤシの木は居丈高だからな。


 小ノ葉はにこりと微笑み、俺は重くなる額を手の指で押さえた。


(こんにちは。あたしコノハ)

 テレコミで小ノ葉の声が頭の中に響いた。


『これはこれは姫様。ウワサどおりほんにお美しい。拙者、大内寅之助(おおうち・とらのすけ)でござる。姫様のことは、北畠義空殿から承っておりまする』

 こいつら大地を通して繋がっているらしいから、情報は筒抜けなんだろう。

 しっかし相変わらず仰々しい名前を付けやがるぜ。


 俺のことはどう伝わってんだ?

『姫様の召使(めしつかい)じゃろ?』

 召使って……。


『それにしてもなぜこんな高級ホテルにお主らのようなムサイ貧乏人が入ってこれた? セキュリティの連中め、さぼっておったな』

 おい。ひどい言い方だな。俺たちは酒屋の組合から招待券をもらったんだ。今日ぐらい大目に見ろよ。


『そうか。ならば致し方がない……姫様。本日はすべてのヤシの木があなた様の供人(ともびと)でござる。何かございましたら、なんなりとお申しつけください。すかさず参上いたす所存でございます』


 ヒトじゃねえし。だいたいどうやって参上するつもりだよ。ホテルの迷惑になるぜ。


『じゃかましい! 所存だと申しておろうが。ようは気持ちの問題だ!』


「イッチどうしたの怖い顔して……奈々子ちゃんがびっくりしてるよ」とキヨッペに言われて覚醒する。

「あおっと。ごめんな、奈々子ちゃん。お兄ちゃん厨二病でさ。時々、聞こえない声が聞こえてくるんだ」


「うそだよ。奈々子ちゃん。イッチは体育会系だから厨二病は関係ないからね」

 とっさに間に入って言い訳をしたキヨッペだったが、北村川奈々子ちゃんの目は確実に怯えていた。


 厨二病はウソだが、聞こえ無い声が聞こえるは真実なのだ。


 小ノ葉が移動するたびに、風も無いのにヤシの葉がざわつく現象は誰の目から見ても異常のようで、ビーチベッドでトロピカルドリンクを飲んでいた大勢の人たちの大半がホテル内に逃げ込んでしまい。俺たちの貸し切り状態となってしまった。


 でもってこっちは、そんな現象は気にもしない、鈍感人間の集まりで、

「うぉぉ!。 水がきれいだぜ! ほら奈々子、泳いでみろよ」

 元気のいい杏は短パンTシャツでプールに飛び込み、スクール水着の奈々子ちゃんをエスコートしてキヨッペも水に浸かった。


「ありゃ、風呂に入る気分だな」

 ヤシの木の下で俺は体育座り、その脇で横座りをする小ノ葉に語り、

「お前も泳いでこいよ。気持ちいいぜ」

「うん……でもイッチと一緒でないと何だか怖くて」

 可愛いこと言ってくれるねー。俺、感動しそうだぜ。


「流動性生物が流体に浸かるなんて前代未聞の話なんだもの」

「なんか。怖い話だな。どうなんの? 溶け出すのか」


「それはないけど……」

 躊躇する小ノ葉の手を握って立たせる。周囲のヤシの木がざわめくほどのスタイルのいい水着姿が青空の下に輝やいた。


「せっかく来たんだ。俺も行くから、浸かってみようぜ」

「うん」


 おそるおそるプールサイドに出てきた小ノ葉を見つけて杏が叫ぶ。

「ねえちゃん。冷たくて気持ちいいぜ。ここ、ここ」

 丸いプールのちょうど中心で杏がピョンピョン跳ねていた。

 プールの縁は水深十数センチほどだが、奥へ行くほど深いようで、杏が飛び跳ねているところが最深部。首の辺りだからたぶん1メートルちょいだ。


 小の葉の綺麗なくるぶしが、無色透明の液体に浸かった。

「足に触る水の感触が気持ちいい」

「だろ。もうちょい深いところへ行こうぜ」


 キヨッペと奈々子ちゃんがバシャバシャし、杏がバタ足を披露するその中間地点で、小ノ葉は水の中に身をゆだねた。

「あ――ぁ。気持ちいい……」


〔おーい。色っぽい声だぜ〕

《やべっ、オレの可変種が目を覚ましそうだ》

 悪魔の囁きを聞いて、俺は急いで深みの方へと小ノ葉を誘った。


「すごくいい感じ」

 水に浮かんだ果実みたいに、水面で仰向けに浮かぶ小ノ葉はとても目映くて視線を据え置く場所を探すほどだ。

「それで足をバタバタさせてみろよ」

 言われたとおりバタ足をすると、静かに前進したがすぐに水の中に沈んだ。びっくりして水中から立ち上がった小ノ葉が俺に抱きついた。


「ぷわぁはー。沈んじゃうよー」


 むひょー。柔らかい物が胸に当たってるぜ。

〔落ち着け、オレ。相手は異世界人だ。人間じゃねえ〕

《でもよ。水着一枚隔てた先は天国だぜ》

 ちょっと待て。水着その物だって小ノ葉の肌からできたものだぜ。となると、今俺は裸どうしで抱き合ってるわけだ。

〔そうか。肌に直接描かれた水着みたいなもんで、遮るものはほとんどない……〕


《むっぴょーーん。潜望鏡が海パンの上からでそうだ。急速潜航せよ、ちんちん丸》

「潜望鏡って?」

 そう訊いてきた小ノ葉を突き放す。肌を通して柔らかげな気色いい感触だけでなく、こっちの思考までも伝わるテレコミュニケーション。恐ろしいぜ。

 咄嗟に思考が寸断されて戸惑ったのは小ノ葉。傾げた頭部から栗色のポニテが少しほどけて、水にぬれた髪がコメカミにまとわりつく姿がまた色っぽさに輪を掛けて見せてくれた。


「いいか、コノハねえちゃん。平泳ぎをしたらいい。こうやって顔を上げて手と足を交互にこうやって動かすんだぜ」

 まるでカッパだ。軽々とスイスイと進む杏は子供の頃から何も教えなくても泳げた。こいつの運動神経の良さは誰の遺伝だろう。



「コノハちゃんは僕たちと同じ浮力なんだ」

 泳ごうとして手足を動かした途端沈んでしまう小ノ葉を見てキヨッペが言い、奈々子ちゃんはそれを聞いて首を(かし)げる。

「ボクたちと同じってどういう意味ですか」

 そんな言い方をすれば誰だって不信感を募ってしまう。


「あ。いや。アンちゃんとは違うっていう意味さ。あの子は子供の頃からスイスイ泳げたからきっと浮力が僕たちよりあるっていう意味さ」

 そう言うキヨッペも首から上を濡らさず泳ぐんだから、相当に泳ぎが達者だと見たね。


 聞くところによると、あの吉沢放送局は若いころ水泳で国体に出たことがあるそうだ。その辺をこの二人は受け継いだようだ。

 それよりも俺は強く思う。オバさんは放送部じゃなかったのかよ……とな。

  

  

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