依頼
「今回もハズレかぁ・・・・・・」
俺はボソッと呟いた。
口から漏れ出すような小さな声だったけど、やまびこのように反響して聞こえる。
辺りは静まりかえっていて、ピチョンピチョンと水滴が落ちる音が時折聞こえるだけだ。
「これだったら、いつものやつ受けてた方が良かったなぁ・・・・・・」
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時はさかのぼり、3時間前・・・・・・
「おっちゃーん!いつものやつあるー?」
俺が少し大きな声でカウンターごしに話しかけると、奥から声が聞こえる。
「おーう!アレクかー!ちょっと待ってな!」
奥で資料整理でもしてるのだろうか、ドタバタと物音がしている。
あのおっちゃんの事だ。整理整頓とか下手そうだし、散らかってるんだろうなぁ・・・・・・。
そんな事を考えていると、声の主であるおっちゃんが奥から出てきた。
「よう、アレク。待たせたな!」
俺を見るなり、ニカッと笑うおっちゃん。
爽やかな笑顔であるはずなんだけど、190cmくらいある身長のせいで、なんていうか・・・・・・いかつい。
子供が見たら泣き出しそうだ。
そんな失礼な事を考えつつも、俺は話を切り出した。
「おっちゃん、いつものやつ受けたいんだけど、ある?」
「・・・・・・あぁ、あるぞ。 『レッドキノコの討伐』」
おっちゃんは、ため息混じりでそう言いながら依頼書をピラピラと俺に見せた。
「よし、その依頼受ける!」
「おいアレク、お前なぁ・・・・・・。いつも言ってるけど、そんなんじゃ世界をまたにかける凄腕冒険者にはなれねーぞ?」
・・・・・・むぅ。言われると分かってたけど、いざ言われると少しカチンとくる。
「だって、他にいい依頼がねぇんだもん!
草むしりに、迷子になった飼い猫の捜索・・・・・・。
俺はそういうのがやりたいんじゃねぇんだって!」
少し食い気味に、そう言い放った。
おっちゃんの言いたいことは分かる。
レッドキノコの討伐依頼を受けてるだけじゃ、親父みたいな冒険者にはなれない。
それは正しいと思う。
でもさ・・・・・・。
「もっと他に、討伐依頼ないのかよ!?」
・・・・・・そう、最低ランクの『Fランク』に属してるモンスターである、レッドキノコの討伐依頼しかない。
それほどまでに世界は平和なんだな。
もちろんそれはいい事だけど、そうじゃない。
対象のモンスターを倒すことによって達成する依頼である"討伐"カテゴリだけど、最低ランクのモンスター討伐の依頼しかないってのは、俺にとっては歯がゆい状況だ。
強くなって、お金も稼いで、世界を旅する冒険者になりたいってのに・・・・・・。
もう1年もこんな調子なんて参っちまうぜ。
「まぁ、そういうなアレク。確かにレッドキノコは最低ランクのFだ。冒険者にとっては脅威に値しないだろう。だが、Fランクのモンスターでも、一般人にとっては脅威だ。・・・・・・死人も出る。」
そこまで言って、おっちゃんは俺を見つめてきた。
「お前は、大事なことを忘れるんじゃねぇか?」
そう言われた俺は、何も言えなくなってしまった。
冒険者は、力ない一般人を守る事も役割のひとつ・・・・・・か。
「とは言え、ずっと同じ依頼ばっかりじゃ飽きるだろ?」
・・・・・・ん?流れ変わったな。
俺は、うなだれていた顔を上げると、おっちゃんがいつもの顔で笑っていた。
「今日は特別な依頼が入ってるぞ!」
「その依頼、受けたァ!」
おっちゃんが言うが早いか、俺は全力で依頼を承諾した。
「ハハハッ!その飛びつき様には笑ったぜ」
おっちゃんに笑われたが、それどころじゃない。
俺の脳内は、未知のものに対する好奇心で埋め尽くされていた。
特別な依頼ってなんだ?
姫様の護衛とかかな?
リーシャ姫、かわいかったなぁ・・・・・・。あんな姫の護衛ができるなら最高なんだけどなぁ。
それとも、魔王が復活したとか?
いやいや、そんなんだったら街中大騒ぎだし・・・・・・。
「・・・・・・だ。」
ハッと気づいたら、おっちゃんが口を閉じた。
「んぁ・・・・・・?」
「おいおい、ちゃんと聞いてたか?」
「ごめん、聞いてなかった。 んで、特別な依頼って?」
俺としたことが。妄想が膨らみ過ぎて肝心な依頼内容を聞き逃してたなんて。
今度こそ、おっちゃんの話に集中する。
「・・・・・・近くにある洞窟の探索、及び魔力源の調査だ」
俺は、ガックリと膝から崩れ落ちた。
「おっちゃん、それのどこが特別なのさ・・・・・・」
「まぁ聞けって。お前のそのせっかちさ、いつか損するぞ?」
ぐぬぬ・・・・・・。そういや、よく親父にも話を最後まで聞けって怒られたっけ。
「ゴホン。 今回の依頼だが、どうやらこの街・・・・・・ノエノ城下町近くにある洞窟に異常な量の魔力を検出したらしい。アレク、お前にはこの魔力源を調査し、洞窟に異常がないか探索してきてもらいたい」
そうおっちゃんは言ったが、俺の下がったテンションは、どうにも上がらなかった。
「それさー、また誤検知なんじゃねぇの?」
「そればっかりは俺には分からん。とりあえず調査してもらわんとな? ほら、これ」
そう言って、おっちゃんは細長い棒みたいなのを俺に手渡した。
これの正体は知ってるぞ。魔力測定器だ。
たしか、魔力に触れると量に応じて、棒についてるメーターみたいなのが上がったり下がったりするんだよな。
「とりあえずひとっ走り行ってこいや」
「えー!それだったらレッドキノコの討伐依頼の方がいいー!」
少し子供っぽかったかな。駄々をこねてしまった。
だって、いつも誤検知で何の面白みもない調査より、キノコ相手に戦ってた方がまだ楽しいもん。
「冒険者に二言はねぇ・・・・・・だよなぁ?」
おっちゃんは、少しドスの聞いた声で言った。
俺はもう慣れたけど、子供が見たら絶対なくぞ。
笑うだけで怖ぇのに。
「・・・・・・わかった、わかったよ。行ってくれば良いんだろ!その代わり、これが終わったらキノコも狩るから、俺に残しといてくれよ!」
そう言いながら、依頼書にサインした。
こうなったら早く終わらせて、キノコに鬱憤をぶつけよう、そうしよう。