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第十三章 “Twilight ”〔4〕



 先生と電話をする日が来るなんて、考えたこともなかった。


 しかもここは学校だ。学校の空き教室で誰にも見つからないように、隠れて先生と電話をするなんて変な感じだ。受話器越しに聞いた声はいつも通りで、でもちょっと新鮮だった。そして私はまた、性懲りもなく胸を騒がせたりして。


 今となっては――否、元から生徒の私にそんな感情は無意味だ。それに電話と言ってもスマートフォンを返してもらうための事務的な内容でしかない。


「すいません。やっぱり忘れていたんですね……」

『さっきそれを伝えようとしたけど彼がいたからね。君にも避けられているようだし』


 彼のその言葉に責めるような響きはなかったけど、なんだか気まずくて、私は受話器を握りしめた。


「そんな……ことは」

『……まぁ、どっちでもいいよ。彼に見つからなければ、君はそれでいいんだろう?』


 彼、とはきっとタカシのことだろう。部屋を出るときに使った嘘だから、誤解されて当然なのだけれど、なんだか悲しかった。


「すいません、それ……返してくれませんか」

『返してほしい?』


 一瞬、言葉を失ったというか、耳を疑った。ここですんなり行かないなんて予想していなくて。だけどきっとからかわれているだけだとすぐに理解し、冷静な声で答えた。


「それは、……もちろんです。迷惑をかけて申し訳ないですけど、どこかに置いておいてもらえると助かります」

『どうしようかな……』

「からかわないでください。ないと困ります」


 一体何を考えているんだろう。からかうにしたってやりすぎだ。私を困らせたって先生にはいいことなんて何一つないはずなのに。


『返すよ。放課後、準備室で待ってる』


 ようやくそう言ってもらったのはいいけれど、私は頷くことはできなかった。


「行けません。どこかに置いておいてください、それで済む話のはずです。……誰かに見られたら困りますから」

『君はそればかり気にするね。来ないなら、来なくてもいいよ。ただし来るまでこれは返せないけどね』

「そんな、どうして……」


 脅迫めいたことを言われて、困惑するしかない。もうこれ以上かかわりを持たないようにって、そればっかり考えていたのに。どうしていつも、他の誰でもなく先生本人が、そんな私の邪魔をするんだ。


『手段は選ばない質でね。せっかく手にした口実は、有効利用するだけだ』


 彼の台詞を深読みすると、どきりと胸が騒ぎ出した。あの夜感づいた先生の気持ちは、けれども全部憶測でしかなくて。もし本当だったとしても、それは単なる気まぐれだったはずだ。だから自分勝手でお子様で、ふらふらした生徒のことなんて、もう――。


 そう思っていた。そう思い込んでいないと揺らぐから。だけどもし私の憶測が正しくて、彼の気持ちがまだ変わっていなかったとしたら。――行くべきじゃない。頭の中に鳴り響く強い警告音。


『別に、ただ返すだけだから警戒しなくていいよ』

「……わかりました。行きます」


 警告音は大きくなっていくのに、気づけばそう答えていた。通話を終えて、規則的な電子音を発するだけになったユキのスマートフォンをにぎりしめる。


 放課後が訪れるのが怖くて、でも――私はやっぱり浅はかだ。ただの生徒であろうとしているくせに、心の奥底で……彼に会えることを、喜んでいるんだから。



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