第十三章 “Twilight ”〔1〕
重い頭に、徐々に熱に侵されていく思考は、そのまま私を夢に誘った。いつもは暖かい先生の手が、今日はひんやりと心地よくて。ふわふわとした心地好さに、満たされていく――。
ふと気づいたとき、すでに窓が明るくなりかけていた。
第十三章 “Twilight ”
喉のいがらっぽさを払いたくて、咳をしてみたけれど無駄だった。見慣れない天井を見つめながら寝ぼけ眼をこする。喉は痛んでもだるさは若干和らいでいるし、熱は完全にとはいかなくてもある程度引いているようだった。
私はいつの間にかベッドに横になっていて、しっかりと布団までかぶっている。ああ、先生が寝せてくれたのかな……なんて思っていると、隣に違和感を感じて。そちらに目をやってみると、一気に目が覚めた。
その違和感の元というのが、隣に眠っている先生だったのだ。同じベッドで、同じ布団に。違和感の正体がまさか先生の体温だったなんて。私と来たら気付きもせずのんきに先生と一緒に寝ていたのだろうか?
慌てた私は急いで身を起こし、服を確認したけれど、……何も変わりはない。そうだ、お子様で病人で生徒。そもそも何かあるわけはなかった。誰に見られたわけでもないけれど、自意識過剰もいいところな自分の反応が恥ずかしくなる。
そんな風にして考え込んでいたら、ふと、隣から手が伸びてきて私はまたびくついた。引き寄せられるままにベッドに背中からダイブする。抱き寄せられ視線を向けると、まだ少し眠そうな先生が私を見ていた。ベッドに一緒に横になって向かい合うなんて体験は当然したことがない。恥ずかしすぎて耐えられなかった。
「あのっ、どうして一緒に!?」
「……覚えてない?」
無駄に声の上ずった私と違って涼しい顔の先生から返ってきたのは、意味深な台詞だ。やっぱり何かあったの!? と焦りながら悶々と考え込む。
「別に何もなかったから安心していいよ。君が離してくれなかったからね……」
またからかったのか面白そうな声で先生が説明してくれた。とりあえずほっと胸を撫で下ろす。再び起きようとすると、あっさり解放してくれた先生もまた身を起こした。
気だるげに髪をかきあげる仕草も絵になっていて、そして目を奪われる私。そんな自分をごまかすようにベッドから出て、同じようにベッドから出た先生を見た。
朝、いつも学校で出会う。そして多数の生徒にまぎれて言う台詞。……でも今日これを言えるのは私だけだ。
「おはようございます、先生」
「ああ、……おはよう」
そう返してくれた先生がふと笑んだ。それはいつも他の生徒に挨拶され返している返事と何も変わらないものだったけれど、その笑みは意外だった。……あまりこういう風に笑う人ではないんだけど。
ともかく整いすぎたほどの顔立ちなんだから、小さい笑みでも笑いかけられるのは心臓に悪い。うれしいけれど。
私は浮かれたような気分で自然と顔を綻ませた。幸せだと思った。本来なら生徒としての私が得られるはずのない幸せ。この部屋に来て、たくさん得られたから……だからもう十分だ。
「体調は?」
「大丈夫です」
そう返すと、先生がまた手のひらを私の額に当てた。納得したのか先生はそのまま部屋を出ていく。洗面所に顔を洗いに行ったようだった。私も後から使わせてもらうとして、とにかく今は一刻も早くやるべきことがある。
急いで鞄のある部屋に行き、私はスマートフォンを取り出した。