表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/105

第八章 “Hope And Pray”〔1〕





 戻りたい。さっき先生と二人で居た、あの図書室の秘密の空間に。


  第八章 “Hope And Pray”



 タカシが、追い詰められた私の反応をうかがっている。見はられるようなその視線が、とても嫌だった。


「……タカシ。図書室で、先生が待ってるの」


 ぽつりとこぼした私の言葉に、タカシの眉がぴくりと反応した。こんなこと言いたくなかった。阻まれることは分かっていたのだ。けれども もう、タカシの許し無しでは先生に近づけない 


 先生はあの図書室に居る。私はそこに行かなくてはいけない。


「ほっとけよ」

「お願い。これで最後にするから……」


 予想通りに突っぱねられても、私は必死になって粘った。

 すると冷たい表情で、タカシは私を見据えて言った。


「好きにしろよ。ただし、この写真がどうなるかは、知らないけどな」


 私は言葉を失う。私のそんな反応に、自分の優位を確信したのか。タカシはその後、余裕を見せこの場を去って行った。ひとり取り残された私。心が、ガラガラと音を立てて崩れていくような感覚だった。こんなときこそ先生に会いたいのに、もはやそれすらも叶わない。


 理不尽に奪われようとしている、私の大切な想い。この状況を切り抜ける方法は見つからない。どうしようもなかった。これ以上の干渉を持てば、タカシは容赦なくあの写真を公表するだろう。


 ――“あいつは教師で、おまえは生徒だ。ちょっと考えれば、どうなるかわかるだろ!?”


 さっきからずっと、タカシの声が頭から離れずにいる。

 攻め立てられているようで、私は耳をふさいだ。それでも頭の中に浮かんでくるのは、いつか先生に言われたあの言葉。


 ――“俺は教師で、君は生徒だ。……君なら、わかるだろう?”


 思わずぎゅっと目をつむって、私はかぶりを振った。

 いやだ。わかりたくない、そんなこと。わからない。

 やっと掴んだんだ。絶対に放したくない。


 ……けれども もし、あの画像が公表されてしまったら?


 目を開けた瞬間、涙が自分の頬を伝っていくのを、他人事のように感じていた。何度も思い描いていたのだ。あの図書室に戻るその時を。それも もう、叶わない夢となってしまったけれど。


 誰もいないこの場所からも、楽しそうな声が聞こえてくる。

 そんな中、自分だけが取り残された気分だった。


 私がその場から動けないまま、やがてキャンプファイヤーは終わりを告げる。プログラムの予定は20:00までだった。点呼はなかったから、私が居ないとは悟られないだろう。


 賑やかな声は少しずつ引いていき、やがてどこかのクラスの先生の声が解散の合図をするのが聞こえた。それでもまだその場に立ち尽くす私。グラウンドから消えていく生徒たちの声。


 先生はもう、図書室を出てしまっただろうか。きっとそうだろう。もう20時は過ぎた。心を埋め尽くしていく、どうしようもない虚無感。一夜限りの夢の時間は、終わってしまったのだ――


「……こんなところで、何をしている?」


 ふと背後から飛んできた声に、私ははっとした。誰なのか、すぐにわかった。けれども振り返ることはできなかった。駆け抜ける切なさに、がんじがらめにされていく。


 いつも、私がどんなに探したって捕まらないくせに、どうして。どうしてこんな時に限って、私を見つけ出したの。


「神島」


 愛しい声が私の名前を紡いでいくだけで、抑えられない想いがこみ上げてくる。涙は、決して見せない。彼に迷惑はかけない。唇を強く結んで、私はそっと彼を振り返った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ