表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/105

第四章 “Love For love”〔1〕




 心の中を見抜けたら、こんなことでいちいち悩まなかったんだろうか。



  第四章 “Love For love”



 昼休み。私はユキと二人で、裏庭でお弁当を広げていた。生徒たちの沢山いる教室では、先生のことは話せない。察したユキが私を気遣って、あまり生徒の来ない裏庭で食べようと言ってきたのだ。


 一晩悩みぬいた私の目の下には、小さなくまができている。何でもない話をしていても、常に頭をよぎっているのはあのときの映像。壁際に追いやられ、間近で感じた彼の吐息。あのまま強引に、キスされると思ったのに。


「ねぇユキ。どうやったら相手の思ってること、見抜けるのかな」


 無駄にお弁当の包みを見つめながら、私はぽつりとこぼす。午後に、月原先生の授業を控えているのだ。こんな気持ちのまま、私は授業する彼を見ていられるだろうか。


「……大人はずるいからなぁ! 子供と違って、表面を取り繕うってことを知ってるじゃない? 心の内を簡単に見せようとしないし、隠すのがうまい」


 ユキの言葉に、確かに、と納得してしまった。大人の彼にとって、心を隠すなんて簡単なこと。センセイという建前を使って壁を作り、私達生徒には心の中まで決して立ち入らせない。


 だけど、それだけじゃなくて。昨日の彼は、様子がおかしかった。彼が発する小さな合図を、私はもしかしたら見落としているんじゃないだろうか。それがわかっても、キスの仕方すら知らない私はただとまどうことしかできない。


「今日、月原先生の授業の日だね」


 黙ってしまった私をどう思ったのか、ユキがふと思いついたように言った。


 昨夜何度も考えたこと。昨日旧校舎であんなことがあったのだ。先生の態度も、何か変わるかと思った。だけど良く考えれば、先生はセンセイなわけで。


「ユキ。月原先生はね、どんなことがあっても、授業中はあくまでセンセイだと思う。良くも悪くも、仕事に忠実でしょ?」


 自分の心を見せないのも、生徒と仕事以上のかかわりを持たないため。真面目なわけじゃない。熱心なわけでもない。ただ、淡々と仕事をこなしている。機械のように、忠実に。


「先生がセンセイであるって事実は変えられない。私が生徒だってことも変えられない。じゃあ、どうすれば近づけるのかって考えてた」


 ユキは驚いたようにまじまじと私を見た。


「……麻耶さ、変わったよね。この短期間で」

「変わった? 私が?」

「うん。以前の麻耶だったらきっと、諦めてたんじゃないかな。先生に恋しても無駄だって」


 そうかもしれないと思った。ユキに言われるまで気付かなかったけど、私は今までそうやって生きてきた。先生のことを冷めていると思っていたけど、私だって同じくらい冷めていたんだ。


「麻耶、あたし学祭の実行委員になってるんだけど、それ交代してくれない?」


 ふと、ユキが思い出したように突然切り出してきた。ここまでの話の流れに完全に沿っていない。


 ……学祭。少し前に実行委員を決めたまま忘れていたけれど、もうそろそろ準備が始まる時期だっただろうか。


「なんで? ユキやりたがってたよね?」


 私は眉を顰める。実行委員を決める話し合いの時、ユキは自分から立候補していたのに。


「とにかく変わって。絶対麻耶のためになるから」


 そう言って、ユキはにっこりと笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ