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最終章 “So Into You”〔4〕



 ある日の昼休み、ユキとお弁当を食べ終えて雑談している時、ふとドアの外から名前を呼ばれた。


 直接話したことはなくても、聞き覚えのある声。

 目を遣ると、そこには更木さんが立っていた。

 学祭準備の時に先生に告白していた、男子生徒に人気のある有名人の彼女だ。

 何事かと思いながら、彼女の元に出向く。


「急にごめんね。私、学祭の代表やってた更木。神島さん学祭の図書整理係だったでしょ?」


 頷くと、今年の学祭で好評だった図書室展示を冊子にするから、内容をまとめてほしいとの話を受けたと伝えられた。別に彼女のせいじゃないのにしきりに謝られながら、一緒に図書室へ向かう。


 図書室の机に座ると、更木さんが段ボールに入った大量の書類を机にどさりと置いた。

 展示してあった書類だ。自分でやったものだけれど、ちょっと身を引きたくなるボリュームだ。


「ごめんね。一、二週間くらいはかかるかな。昼休みと放課後使うけど、神島さん大丈夫? 早く終わらせようね」

「うん……」


 若干うんざりしながらも、更木さんも同じなんだからと気を取り直して、一緒に作業を始める。余分なところを省き、切り貼りして、一ページずつ作っていく。


 単調な作業をしながら、私はちらと更木さんを盗み見た。

 やっぱり人気があるだけあって、目を引く顔立ちだ。作業をするのも様になっている。


 彼女は以前、私が告白をのぞいていたなんて知らないだろう。

 でも私は彼女のことを勝手にライバルとして意識しすぎるくらい意識していたので、こうして仲良く作業しているなんて、なんとなくおかしな感じだった。最も彼女はもう彼氏を作ったとのうわさだし、私のように引きずっている、なんてことはないのだろうけれど。


「……ねぇ、神島さんってさ」


 ぽつりと言われて顔を上げると、更木さんの大きな瞳と目が合う。

 でも何故か気まずい顔をして、すぐに彼女は手元の書類に目を落とした。


「……ううん、なんでもない」


 その口ぶりは何か言いたげにしか聞こえなかった。


 忙しそうだし、もしかして作業を任せたいとかだろうか。

 そういうことならできる限り応じるのだけれど。

 でも、結局何も言わない更木さんに、私は首をかしげるばかりだった。


 放課後になり、私はまた作業のために図書室に足を踏み入れた。


 やはり放課後ここに人影はない。更木さんもまだ来ていないようだった。

 タカシにはメールで断ったけど、きっと不機嫌になるだろうな、なんて気を重くしながら、何気なく室内を見遣る。


 放課後、静まりかえった夕暮れの図書室。


 ここで作業をしていて彼が不意に姿を現し、胸を躍らせたあの日を思い出す。

 まだ数か月しかたっていないのに、とても遠い過去のように感じる、あの日。


 彼の後を追いかけ、外国語の本の並ぶ本棚を見つけたんだっけ。

 もう一度同じ場所に一人で立って、私は棚に収められた本の背を、指先でそっとなぞった。


 先生の好きなもの。だから私の好きなもの。


 ふと窓際に目を遣ると、椅子がひとつだけ置いてある。

 先生が読書に使っていた、本棚の間のあの椅子だ。

 時間がたったというのに、それがまだ同じようにそこに在って、それを同じ景色の中見つけたのが、まるで奇跡みたいに思えた。


 窓から差し込む光は、あの日と同じ、夕暮れの淡い色。

 それは私の目にひどくまぶしく映り、私は切なく目を細める。


 もう今は冬だ。すぐに日は落ちてしまうだろう。

 でも、もう少し待ってほしい。この景色をまだ見せていてほしい。

 そこに座り、目を伏せて読書にふける彼の姿を、私はまだ鮮明に思い描けるから。あの時に戻れたように錯覚できるから。


 誰もいないのをいいことに、私は無言でぼんやりと立ち尽くした。

 時間が解決してくれると思っていた。なのに現実はどうだろう。

 どうしようもなくなるような苦しさは、寧ろ日を重ねるごとに増してきている。


 まだ子供だということなのだろうか。

 年を重ねれば、この痛みは消えていくのだろうか。


 私は思わず、胸元で制服を握りしめた。

 どうしても、忘れられるなんて思えない。

 もしかしたら私は一生、立ち止まったままでいるのかもしれない。

 

 だって、私はこんなにも――……


「やっぱり、神島さんも好きなんだね。……月原先生のこと」


 ふと飛んできた背後からの声に、私ははっとして振り返る。

 苦い微笑みを浮かべた更木さんが、そこにいた。







次回更新は2月3日(月)夕方です。

今後の更新予定は、

2月3日(月)→2月5日(水)→2月7日(金)

そして2月10日(月)に最終話を投稿し、完結いたします。

頑張りますので、宜しくお願いします。



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