よし、こいつちょろいぞ。
赤い頭を見下げる。
顔を揺らめかせながら、必死に少女は僕を頬張った。
「れろ、ちゅぱ・・・・・・じゅる、ん、ちゅ、ぁ、ぺちょ・・・・・・」
無我夢中で舐め回す、唾液が口から溢れ、舌が巻き付いてくる。
「うま、ちゅ、おいし・・・・・・あ、んちゅ、うあぁ・・・・・・・」
とうに0時は過ぎていた。
クーちゃんと灯の小競り合いは数分続いてタイムアウト。
終始クーちゃんの方が押されていた。
吸血殺人鬼灯は、陽炎のように身をたゆたい、クーちゃんの攻撃を避けていた。
反対に灯のドリルはクーちゃんの肌を何カ所も抉り白い肌から血が流れる。
あのままやり合ってたらクーちゃんの敗色濃厚だった事だろう。
「ねぇ、もういいでしょ。いつまでもなにやってるつもりっ!」
僕達を不機嫌そうに見ていたクーちゃんが溜まらず声を上げた。
「まだ、ん・・・・・・れろ・・・・・・もう、すこ・・・・・・し、ちゅ・・・・・・はぁ、あ」
クーちゃんが苦言を呈するも灯は口を離そうをはしない。
「ちょっと、シッスンもいい加減止めさせなよっ」
「うん、そうだね。じゃなきゃ僕出血多量でショック死しちゃう」
灯の頭を掴むと、無理矢理引きはがしにかかった。
だが、僕の力だけじゃビクともしない。
最後にクーちゃんも加わり、二人がかりで灯の事をひっぺがえした、
「あ、あ、あ、もっと、あ~っ」
口を開け、物欲しそうにこちらを見ていたが、流石にもう吸い過ぎでしょ。
「おい、灯、これだけうちのシッスンの血を飲んだんだから約束は守ってもらうよっ」
「・・・・・・また、もらえる??」
灯は、上目で僕にそう問いかける。その赤らめた顔がとても蠱惑的だった。
「あぁ、うん。灯ちゃんが、ちゃんと僕の言う事を聞いてくれたらね」
優しく微笑み、灯の頭を撫でた。
「わぁはっ、聞く聞く。なんでも聞く。こんな美味しい血今まで飲んだことないもの」
なんとか手なずける事に成功したらしい。
クーちゃんとの殺し合い、時間が来た事でお互い動きを止めた。
0時を知らせるチャイムが鳴り響いたのだ。
一先ず、灯を退けらたと確信し胸をなで下ろした。
これで、灯も帰ってくれる、そう思った。
だが、灯は僕を凝視したまま、動こうとはしなかった。
涎を垂れ流し、目を潤ませていた。
「はぁ、はぁ、なんだ、お前。灯はとてもお前が気になるぞ」
吸血殺人鬼 灯。
彼女がそう呼ばれるのには理由がある。
字のごとく、血を渇望するのだ。
幼い時から両親から虐待され、殴られる日々。
食事を与えられないなど日常茶飯事。
ある日、空腹で意識を朦朧をさせていた灯は、殴られた事によって口が血で溢れていた。
無意識のまま、その血を喉に流した。
いままでにない満足感。いつしかそれは陶酔に変わった。
「首を切るのが一番飲みやすい。最初はコップに注ごうとしたが上手くいかなかった。だから直接口をつけて飲む事にしたんだ」
鉄の味だけではない、人によって味に違いがでる。
それは人間性に関係しているかもしれない、屑は血まで薄汚れていて不味い。
純粋な子供や、良心的な人物は中も綺麗な事が多い。
そして灯はかつて無い至高の血に巡り会ったのだ。
僕はこの灯を見て、考えた。
クーちゃんですら彼女には傷一つつけられなかった。
武器が本一冊だったっていう要因もあるけど、この灯もクーちゃんと同じ虹枠なのだろう。
「よし、なんだか君は僕の血を欲しているようだ。ならいくらでも与えよう。だが、条件がある」
そういい、僕は灯に条件を提示すると、二つ返事で了承してくれた。
早速、ドリルの先端を指先に押しつけ、空洞を開けた。
灯はお預けを食らっていた犬のように、血が吹き出る人差し指に食いついた。
そしてべろべろに舐め回す。
「ねぇ、いいの? こいつ、かなり危険だよ」
クーちゃんが心配そうにそう言うが、君だって大概だよ。
「大丈夫、灯ちゃんは僕の血が飲みたい。でも殺したら大量に飲めるけど一回で終わる。それなら殺さないで半永久的に飲める方が得でしょ。だから、灯ちゃんは僕を殺そうとするどころか、守ってもくれるはずだよ」
「ふ~ん、そう都合良くいくかなぁ」
クーちゃんはどこか面白くなさそうに呟いた。
灯は僕の腕に纏わり付いて顔をすり寄せてくる。
これを見る限り大丈夫そうだけど。
「ねぇ、灯。自分のパートナーはどうした? パートナーが死んだらお前も失格だぞ」
さりげなくクーちゃんは灯を僕から離そうをしたが、絡まる腕が解けることはない。
「あぁ? 樽にしたよ。蛇口をつけるんだ、人体に。大きい動脈に直接だ。たいして美味くなかった、あのまま放置しててもまだ死ぬ事はない」
どうやら灯の本来のパートナーはすでにそんな状態らしい。
生きてるみたいだけど、食事や水を与えなければすぐ死んでしまうだろう。
「定期的に餌を与えるから問題ない。後はずっと灯はシッスンの傍にいる」
絡まる腕の力がさらに強まった。
「ちっ、まぁいいか。この校舎を制圧するには障害があるからね。灯がいればとても楽になりそうだよ」
クーちゃんは、そう言うと手に持っていた本を投げ捨てた。
表紙が蛇口の形にへこんでいる。そして無数の穴が開いていた。
眼球アルバムと灯によってもう武器? はボロボロだった。
「シッスン、武器ガチャ回して。こっからは本来の武器じゃなきゃ対抗できない」
「武器ガチャ?」
「うん、殺人鬼ガチャは一回だけだけど、武器ガチャは何回も回せる。ていってもポイントを大量に使うから何度もは無理だけど、シッスンならあるいは・・・・・・」
言われるまま僕は端末を取り出した。
操作するとたしかにそれらしいコマンドがある。
「武器を入手したら、少し休もう。そしたら、ここを抑える」
初期位置の校舎で最後まで生き残ると、そこを制圧した事になるらしい。
まだここには何人も生存者がいる。
表示では高等部校舎40分の12となってる、つまり僕達を含めた6組が健在なのだ。
その中には、最初に出会ったあいつもいる。
殺人鬼眼球アルバム。