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また変なの出てきたよ。

 保健室は明るかったが、廊下はやはり薄暗い。

 ある程度の距離を置いて、切れかけの蛍光灯が一本、ちかちかと点滅しているだけだった。 少しでも奥にやると、途端何も見えなくなる。


 ここでは時間の感覚がうまくつかめなくなる。

 端末を見ると、現在夜の22時を過ぎていた。

 

「狂璃と同じランクは、この校舎には一人だけ。最初の眼球アルバムがそうだよ」


 クーちゃんは歩きながら、手に持つ本から一枚ページを破った。


「だから、あの子にまた会うまでは大丈夫。出来るだけポイントを稼いでおこうね」


 しばらく無作為に移動してると、二体組の男女に遭遇した。


 あちらが僕達に気づく。

 そして男の方が手に持つ鉄パイプを構えた。


 でも、クーちゃんの歩くスピードは変わらない。

 僕の前を悠然と進んで行く。


 二組の距離が縮まる。

 

「おい、止まれっ!」


 相手から声が上がる、だがクーちゃんが足を止めることはなかった。


「ちぃっ!」

 

 無視された男は舌打ちするなり鉄パイプを振り上げ襲いかかってきた。


 それを・・・・・・。


 クーちゃんは足先を捻り、全身を回転させ通り過ぎるように躱した。

 その最中さなか、流れるように右手が振られ、指に摘まんでいた一枚の紙が相手の喉を切り裂く。

 旋転が終わらぬまま、男の後方に隠れるように身を縮めていた女の横顔に、反対の手にあった厚い本がめり込んだ。


 バレエのような動きで、二人の間を縫うクーちゃん。

 男の首から血飛沫が上がり、女は吹っ飛び壁に強く打ち付けられる。


「あ、あがぁが・・・・・・あ・・・・・・」


 男は声にならない叫びを上げながら、ドクドクと血が流れ出る首を押さえながら、膝から地面に崩れた。

 女の方はもう動かない。

 顔の半分が陥没していた。



 途中、教室も開けていく。

 中に誰かいれば当たりだ。


「この本、もう三回読んだの。だからもう頭に入ってる。で、ページ数は三六〇。つまり後179人殺せるね」


 ハードカバーの上質な本は、紙も上等で厚い。これなら人肌も簡単に切れるだろう。

 スピードがあれば、の話だけど。


 ドアを開け、人がいるとクーちゃんは瞬時に飛びかかり、切りつけ、殺していく。

 これを何度か繰り返した。

 ときおり、戸に手をかけると、ピタリと止まる事があった。

 危機察知なのか、そういうときのクーちゃんは開けずにまた歩きだす。


「戦闘禁止時間があるのね。日付が変わる0時から朝6時まで。そうなると例え殺し合ってる最中でも止めなきゃなんだ。シッスン、後5分くらい?」


「うん、大体その位かな」


 端末を確かめることなくそう告げた。体内時計をさっきあわせたからそれほど誤差はないと思う。


「じゃあ、次、ラストくらいかな・・・・・・」


 ここで、ずんずん進んでいたクーちゃんの足が初めて止まった。

 教室に立ち寄る以外、例え人影が見えても歩くスピードを緩めなかったのに。


「うわ。なんで君がここにいるのー?」


 クーちゃんが誰かに声をかけた。その背中から顔をひょいと出し、僕も確認する。


 長く、真っ赤な髪が、生き物のようにうねっている。

 顔を左右に揺らしながらこちらに近づいてくるのは、一人の少女。

 歳は僕達と同じくらいか。

 目線は上を向いていて、手には金属製の蛇口と、電動ドリルを持っていた。

 

「あれがここにいるってことは、どっちか制圧してきたのか」


 女が指に力を込めると、電動ドリルが激しく回転し始める。

 静まりかえった廊下に、ギュルギュルと音が響き出す。


「血、血、血が飲みたい、血が欲しい。喉を潤すほど大量に・・・・・・んっ」


 独り言を言いながらゆらりゆらりと。

 上を見ていた目が、こちらに向いた。  

僕と視線が重なる。


「わぁお、なんかとても美味しそうだ。次の樽はあいつにしよう」


 艶っぽく舌を舐める。

 僕を凝視したまま、歩いてくる。

 

「あれに本だけじゃきついかもね。とりあえず、下がってて。残り四分、何とか凌いでみよう」


 クーちゃんが庇うように僕を自分の身で隠した。


「あぁあ? なんだ、首切り狂璃じゃない。退いて。あんたのはいらないよ。すごく不味そう」


「まぁ、そう言わないでよ。狂璃とちょっとだけ遊んで欲しいな、吸血殺人鬼のあかりちゃん」


 クーちゃんの一言が灯と呼ばれた少女の逆鱗に触れたらしい。


「あぁぁっんたのはいらないって言ってんだろがあぁぁっぁぁあっ! 首切りィィィ」


 灯が叫声を上げ、金属の蛇口を投げつける。

 クーちゃんが本を盾にそれを凌いだ。

 投げると同時に灯はこちらに距離を詰めていた。

 空を捻るように回転するドリルが、クーちゃんの目の前に迫る。

 

 僕はそんな二人をただ見ている事しかできなかった。

 いや、しなかったという方が正しいのかも。


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