長の戦い
いつごろか、人は20歳前後で死んでしまうようになった。
当時の声明によるとどこかの国で研究されていたウィルスが流出、世界中にその数を増やしながら広がっていったというものだった。
そのウィルスは致死性の高い猛毒だか、18歳までが持つ抗体には太刀打ちできないためそれが発病する子供はごくごく少数だった。
発病後2年ほど潜伏、その間にその数を増やし死に至らしめる。
大人たちはいなくなった。
世界中から。
そして子供だけが残された。
これまで大人たちがぎりぎりのところで守ってきた世界、社会、インフラが一気に音を立てて崩れた。
一つの世界が終わり、始まった。新たな世界。
『childrens world』
その中でも力を持った者が長となった。
ある長は秩序を復活させようとし、ある長は力のもとで自分の世界を作ろうとし、
また、ある長はすべてを束ねるために戦った。
そう、僕はこの腐りきった世界を束ねるため、長として戦った。
だが、世界には秩序復活の名のもとに世界を我が物にしようと企む暴君もいる。
それらと戦い再び世界を取り戻すのがすべてを知らされた僕の使命だから。
「こちら、総長、レッドおよびブルーリーダー回線開け。」
〈こちら、レッドリーダー回線開きました。〉
〈ブルーリーダー開きました。〉
無線機から二人の声が聞こえる。
今いる丘からは派勢力に占拠された自衛隊の基地が見える。
二重のフェンスに囲まれ、中には土嚢が積みあげてある。
機関銃の銃座やコンクリート製のトーチカも配置されており、
久しぶりに骨のある相手と戦うことになりそうだ。
小銃を持った部下たちが警備している。
潜入しての破壊工作は難しそうだ。
自分の勢力はこの基地の近くにある航空自衛隊の基地を拠点としているため、
安全を確保するためにも、武器・弾薬の調達のためにも落とさなければならない。
自分の部下は324人。
(部下たちは『レッド部隊』と『ブルー部隊』そして自分が率いる『主力大隊』の三つに分けてある。)
対する相手は見たところ200人弱だろう。
自勢力よりは少ないが効果的に配置しているため防御力は今の勢力の攻撃力を
上回っている。いつもの突撃では突破は不可能と見た。
「魔女の鍋にトカゲをいれろ。」
〈了解、料理します。〉
左奥に見えるビルから白い線を残しながら5発のロケット弾が飛んでいき、正面ゲート付近のトーチカが粉塵を散らして吹き飛んだ。
「ブルー隊、ずらかれ!」
警告を発した直後に基地内の銃器がビルに向かって火を噴いた。
「レッド隊!突撃!」
右手側の住宅街に隠れていたレッド隊約50人が雄叫びを上げながら突撃していく。
「主力!突撃ぃ!」
自分が率いる200人の部下たちはいっせいに立ち上がり打ち合わせ通りに正面ゲートへ突っ走る。
ビルに向けられていた機関銃がこちらに向けられたが瞬間に射手は撃ち殺された。
目標はただ一つ。この勢力の長を打ち取ることだけだ。
それができれば部下は抵抗をやめる。
これまでの調査で長は管制塔のどこかにいるとこがわかっている。
僕は先陣切って突撃し、一つ一つ部屋のドアをけ破る。
迷路のような廊下を抜け、階段を駆け上がった。
長は管制室にいた。基地を管制していた奴らを瞬時に射殺し長に銃を向けた。
長はホルスターから銃を取り出していたが捨て、大型のナイフを取り出し構えた。
これは長の間の決まりだ。
決着は長同士のナイフファイトと決まっている。
部下に銃を預け、腰につけておいたナイフを取り出し、構えた。
管制室のガラス越しに夕日が差し込み、ナイフを赤く染める。
下で爆発が起き、管制塔を揺らした。
相手は一瞬揺らいだ。
その瞬間を逃さず空いた喉元をナイフで掻き切った。
鮮血があふれ出し床をその血で真っ赤に染めた。
ナイフについた血を布で丁寧にふき取り鞘に戻す。
全館放送用のマイクを手に取り放送スイッチを押す。
「グライアイの諸君、及び我がアテナクライアスの同志たちに次ぐ。
私はアテナクライアスの長、ガリアス・テミスだ。グライアイは解放された。
戦闘を続ける意味はない。抵抗は無駄だ。」
放送後、銃声は止んだ。
グライアイのメンバーは幹部を除きアテナクライアスのメンバーになった。
幹部および抵抗者は射殺された。
アテナクライアス側死傷者48、グライアイ側96名という結果に終わった。
戦闘時間2時間半の短い戦闘は長と幹部の死で幕を閉じた。