下
「お、おおおぉ? え、ちょ、え? その、え? えぇ?」
「ハッハッハー。面白いくらいに動揺しているな、少年ヨ。お気に召してくれたようでなによりサ」
「おい、三寒シオン! あんた、日傘に何を吹き込みやがった!」
高笑いを浮かべる腐れ会長と、ひたすらにまっすぐにただ純真に、目を輝かせて此方の反応を窺っている日傘。何、何なのこの状況。
「ふふふのふー。親しみを込めてこのワタシを呼び捨てとは、君も分かってきたじゃないか」
「んなわけあるか! おい、日傘、お前もお前だ! 何を吹き込まれたかしらねーが…」
言い掛けた時、ふと、背中に温もりと重さを感じる。懐かしさと暖かさ。振り返ると、そう、にわかには信じられない話だが… 日傘が眠っていた。此方の背中に体重を預けて、それはもうすやすやと、幸せそうにひたすら無防備に。
「何でこいつはいつもいつも! このタイミングとこの状況でどーしてそんなぐっすりと、しかも突然に寝られるんだよ! 全く持って信じられん」
「そう言いながらもテキパキと恩羽くんをベッドへと運ぶ君の姿は、実に紳士的じゃーないか。流石は姫のナイト様といったところカナ」
「ただ単に馴れてるだけっスよ。こいつの扱いに」
それより。
そう言葉を結び。自分と会長は一つのテーブルを囲み座る。
「会長。当然、説明してくれるんだろうな?」
「そう恐い顔で睨むな、少年。折角の可愛い顔が」
「今話すべき話題は顔の話なんかじゃない。そうだろ? 生徒会長」
テーブルの上のグラスとペットボトルがぐらぐらと揺れ動き、少し、ほんの少しだけ宙へと浮かぶ。
「やれやれ。せっかちは嫌いだゾ? だが、これでイイ… フフッ、改めてこの目で確認させてもらったヨ。君の力」
そんな会長の言葉にハッと息を呑み、思わず零れ出てしまっていた力の栓を締める。
掌の上。糞っ、自分は馬鹿か? 何を熱くなってる。こういうときこそ冷静にならにゃ、見えるもんも視えないし、分かるもんも理解らなくなるだろうが。そう思った自分は、咄嗟に目の前にあったペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干した。
「中々イイ飲みっぷりだな。ちなみにそれはワタシの飲みかけだ」
ブーーーーーーーツ。
自分、何でこんな朝っぱらから盛大に虹なんて発生させてんだろうか。馬鹿なんだろうか。
「好きな子の飲み物を嘗め回すように飲み干すのは理解できるとしてもダ、それをその本人に吹きかけるというのは、流石のワタシでも中々崇高でハイソな趣味だと言わざるをえないナ。感服したよ。だがしかし、それでこそ流石はワタシの見込んだ漢ダ★」
「ゲホッ、ガホッ。んなわけえあるかっ! げほっ」
「ハッハッハw its joke 冗談だ。本当はね、恩羽くんの飲みかけなのダ。君達の仲なら今更気にすることもあるまい」
… これだよ。またこれだ。ったく、どいつもこいつも。
「会長さんよぉ、一応言っておきますがね。あんたがどんな仲を想像したかは知らねーですが、自分と日傘はそういう仲じゃないんスよ」
「ほぉ? 一目見たときから、てっきり君達はそーゆー関係かと思っていたが。成る程そうか。そうなのか。それはそれで、俄然気になってくるな。君たちが本当のところ、一体どういう関係なのか、ね」
「…」
「ふむ。だんまりか。フフッ、堪らないナ。君のそーゆー顔w」
「冗談はいいですから、とっとと話を進めましょーや、会長」
「会長。会長ネ。先ほども言ったが、君にならば別段呼び捨てで呼んでもらっても構わない。だが、会長は駄目だ。それだけは度し難い。我が部の一員になってもらう以上、君には是非とも《部長》と、そう呼んでもらいたい」
この自分のどこが、何が、この妖しさ120%の会長のお眼鏡に適っちまったのか。いや、まぁ、あの状況から察するに、あの合格発表でのあの出来事からさっするに、たった一つしかありえないんだけど。
「その前に、まず確認したい事がある。質問したい事がある」
「おおっ!? いいぞ、何でも言ってくれ給えよ。この三寒シオン、張り切って全力でお答えしてしんぜようじゃないか。ハッハッハー」
「まず一つ。日傘に何を吹き込んだ」
「ワタシの事でも部活の事でもなく、まず最初にそれを聞きに来るとは、正に… 愛w」
何だか、朝から疲れた。
疲れたし面倒なのでもはやいちいち訂正なんぞしていられない。この学園、良くこんな生徒会長で廻ってるな。これからの学生生活って奴が本気で心配になってきたぜ。
「誠意には誠意を持って応えるのがワタシの主義なのダ… 誠意君、だけにネ。ナンチャッテ。ハッハッハーw … ごほん、恐い恐い。そう、恩羽くんの事だったね。そうそう、それだったら話は簡単だ。あの日のあの出来事の真実を、少しだけ、ほんの少しだけ脚色して話してやってだけサ」
「おい、待て。嘘だろ? それって」
「ハッハッハー。いやなに、あの日、らんまに襲撃された君を救ったのは、恩羽くんだと、そう話してやっただけだ。恩羽くんが秘めたる超能力を開放して、君を助けたのだと。そう伝えてやっただけだ」
………… な、な、な、な、な、なんて事をしやがるんだ。この下種野朗は。下種の極みだぜ、この状況は。
嘘だと思うだろ? 子供でも今時そんなの信じないだろう? 信じちまうんだぜ、日傘の場合は。どこまでもピュアで疑う事を知らないトラブルメーカー。その純粋さは、時として毒にもなる。正に濃縮培養された純真さ。ようは、そういう類の話だ。恐るべきは、たった数日で日傘の特徴と性格をこれでもかと言わんばかりに理解し、駆け引きの材料に仕立て上げているところにある。まんざら、生徒会長ってのも伊達や酔狂でも、肩書きだけでもないような気がして、更に背筋が凍える。
「ちなみに、らんまというのはあの時の木刀女生徒の事だ。君が入部を決意してくれた後、改めて顔合わせをさせよう」
「もうどうでも良くなってきた。ってかあの体育会系木刀先輩も部員かよ」
木刀を持ってはいたが、間違っても剣道部って事はないだろう。何せ、このトンデモ会長が部長を務める部だ。ただ事ではないことだけは理解できる。
「フフッ、察しの良い君なら分かるだろウ? 長年恩羽くんと一緒にいた君なら理解している筈ダ。恩羽くんは今でも本当に超能力者だと思いこんでいるし、彼女は我が手に掛かり、既に入部を果たしている。君はね、そんな彼女をこれからも護っていくしかないのさ。誰からどう護るかは、勿論君次第だがね」
今日は、冗談の大安売りらしい。
「安心し給エ。我が学園は部活の掛け持ちが許されている。好きなだけ入部してくれて構わない。勿論、我が部を最優先にしてもらうが」
誰から、どう護るかだと? っとに、やり口が汚いし卑怯だし、気に食わない。冗談もほどほどにしてほしいと、切に願う。
「部活… そういやずっと聞きそびれてたな。生徒会長さんよ、あんたの部活っていったいどんな部活なんだ? 入学式後の部紹介にも出てなかったみたいだが」
そう言い放った瞬間、先ほどから少しだけシリアスな表情が続いていた会長の、その微妙に日本人離れした蒼い瞳の奥の奥が妖しく光ったような、そんな気がした。
「待っていタ! ワタシは、君がその質問をしてくれるのを、ずっと待っていタゾ!」
「いや、知らねぇよ。そして興奮するな。日傘が起きちまうじゃねーか」
「ああ、そうそう恩羽くん。彼女に話をしたのは昨日のことでね。それを話したら彼女もまたこう、気分が高揚してしまったようで。徹夜で君の到着をまっていたとう次第さ。だからこそ、彼女が待ち疲れて眠ってしまったのもまた当然の流れ。責めないでやってくれ給エ」
何だそれ、思わず目に浮かぶような光景だぜ。だがまぁ、それより今は部活の話だ。
「部活の話だったね。そうそう、ワタシの部活。名前を《ESP研究部》と言ウ」
忽然と立ち上がった会長は、流れるような金髪の長髪と短めのチェックのスカートをうきうき揺らしながら、楽しそうに、本当に愉しそうに喋り続ける。
「これはね、正確には公認の部活じゃないんだw ワタシの権限を使って私的に作った裏部活とでも言うべきカナ」
日傘と会長の部屋へとやってきて、まだ一時間も経過しちゃいない。それなのに何故だろう、なぜ自分は、まるで十二R戦った後であるかのような疲労感に襲われているんだろうか。
「いーえすぴー研究部。見るからに怪しいっスねそれ。ぶっちゃけ進んで入りたくは無い」
「ハッハッハー。正直さは美徳ダゾ、少年。一先ず最後までワタシの話を聞くが良いサ。この部活のコンセプトはズバリ、ESP。超能力だ。透視能力、瞬間移動、念力、透明化、発火能力、未来予知エトセトラエトセトラ。この部活に入れるのは、そんな選ばれしESPERだけ。喜び給え少年。君は選ばれたんだ★」
嬉しくない★
全く嬉しくないっつーの。そんなの。
「一つ、聞きたい事があるんですがね、会長。自分みたいな輩が言うのも何だが…… ちょっと頭可笑しいんじゃねーのか? あんた」
「そんなに褒めるんじゃーない。このワタシとて照れてしまうではないかw」
今のセリフのどこに褒める要素があったのかは甚だ疑問だが、どうやらこの会長の可笑しさは骨の髄までってことが理解出来た。理解不能だという事をイヤと言うほど理解出来た。
「このご時世。超能力がどーとか、馬鹿じゃないのかと言ったんだ。いい歳こいてよぉ。超能力者しか入れない部活? んなもん、そもそも部員が集るわけが無いだろうが。職権乱用も甚だしい」
「このご時世、ネ。知っているかナ、少年。この街の… ESP所有者の人数」
「イヤ、つーか考えた事も無いが。こんなとこ、ちょっとだけ特別な、普通の街だろ」
「フフッ。或いは、君達にとってはそーかもしれない。けどね、生憎だがこのワタシには分かってしまうのサ。そして、ここがそういう場所で、この学園はそんな土地に建てられた一番大きな学園だという事。果たしてこれは誰の意思なのか? だからこそワタシは、この場所、この地位に居る。分かるカナ?」
否。ちょっとどころかまったく何言ってるのか分からない。こいつ、何かマズイクスリにでも手を出してんじゃねーだろうな。
「ワタシのESPの話だ、少年。ワタシの力の一つは識別し制御する力。だからこそ君を見出す事が出来た」
この自分にちょっかいを出してくる人物だ。当然、只者じゃないとは思ってたが、当然の事ながら会長も、ただの一般人ってわけじゃないわけだ。と、なると当然あの体育会系木刀先輩こと、らんまとかいう暴力女もその類ってことかね。
「ワタシの視たところ、君の主な力はおよそESPの代名詞的なものだな。君のような奴を正真正銘の超能力者というのだろうサ」
念動力、第六感、千里眼。あの時みせたのは、ほんの一部だった筈だ。力のほんの一部に過ぎなかったはずなのに。
「その顔。やはり堪らないなw 少しはワタシを信じてくれる気になったカナ、少年」
「いえ、一ミリも。だがまぁ、そうでもしないと話しが展開しなさそーなんで、不本意ながら百万歩譲って、あんたの話を信じたとしましょう。あんたの力も、この部のことも一旦肯定しましょう。けど、一体全体なんなんだ? 目的が見えてこない。生徒会長さん、あんた、自分みてーな変わりもんや、あの馬鹿力竹刀先輩やら、そんなあんたの言うところのESP所持者、《ESP》ERを集めて、一体何がしたい? そもそもの目的はなんだ?」
会長は、今日一であろうそれはもう悪いわるーい微笑を浮かべながら、その両腕を天高く掲げながら言う。ポーズの意味は不明だが。とにかく叫ぶ。
「ハーーーーッハッハッハ!! 決まっているだろ、君やらんまのような面白人間が集るんだゾ。そりゃ、《何か面白い事がしたいから》にきまっているだろう!!!」
恐らくその時の自分の顔といったら、鳩がガドリング喰らったような、正しくそんな顔をしていたに違いない。
「後は、ついでに《この土地》とESP能力者の因果関係の謎とか、我々の力の謎の調査とか? その辺の事? desire has no rest 欲に頂なしダヨ」
「何で疑問系なんだよ!! むしろ普通そっちが優先事項じゃねーのか!?」
「普通? 我々は普通じゃない。だから普通の思考なんてする必要は無い。無理やり廻りに合わせる必要も無い。ワタシは何か間違っているカナ?」
「あぁ、イヤ。間違っちゃいないが、仮にも上に立つもんとしてどーなんだ? その思考回路の在り方は」
そう、何だかんだ言ってもこの三寒シオンという女は、この学園の生徒会長であるのだ。未だに信じられないし、信じたくも無い事だが。
「だからこそサ。職務はキチンとこなしているし、表の顔はあくまで立派な生徒会長を貫いているではないか。裏と表を使い分けられるくらいの分別は、流石のワタシも持ち合わせているゾ?」
そうだろうか? 本当にそうだろうか? 昨日の放課後、日傘と共に行った探索の結果から推測するに、きっと、表の生徒会長としての顔の方も、相当変人扱いされてるか、ウザがられてるんだろうな。皆、まるで腫れ物に触るような表情浮かべてたし。
「まぁいい。聞きたい事は山ほどあるし、正直納得もしちゃいねーが、いい加減腹も空いて来た頃合だ。これが最後の質問であり、自分にとって一番重要な案件だ」
「フフッ。ズバリ予言しよう、恩羽くんに関する事だな? 君の顔は本当に分かりやすい」
また顔だ。そんなにか? そんなにアレなのか? 自分の顔ってやつは。
「顔の事はいいだろ、ほっとけ。それよりあんた言ったよな? 合格発表のとき、確かに言った。《ワタシの力なら、恩羽くんのその体質もなんとか出来るかもしれない》と」
「え~、どーしよっかなー。シオン、何のことかわかんなーいw でも、君が我がESP研究部に入部してくれたら思い出すかもぉーw 全く君は、おんばくんのこととなると、オンバーになるなぁ。ナンチャッテ★」
そのセリフを聴いた瞬間。確かに聞いた。自分自身の中で、何かが千切れる音を。一線を越える音を。音を立てて壊れる何か。その瞬間を。
「あぁ? てめぇ。どのツラ下げてンな糞寒いセリフ吐いてんだよ? エスパー? ESP? 知ったことか!! こんな胡散臭い連中に日傘を預けておけるわけねーーーだろうが!!」
一気に沸点に到達してしまう自分の短絡的な思考回路。というより、むしろ自分自身驚きを隠せない。自分という人間は、こんなにも沸点の低い人間だっただろうか? 自分という人間は、こんなにも熱い人間だったのだろうか? 自分という人間は、誰かのためにこんなにも声を荒らげる事の出来る人間だったのだろうか?
今度という今度は、テーブルの上のペットボトルやグラス程度の規模じゃない。タンスが、机が、本棚が、否、部屋全体が揺らぐ。
「おっと、気に障ったカナ。寒いのはまぁご愛嬌サ。それがワタシという人間だからネ。それにワタシはね、熱い漢が好きなのだヨ。フフッ、ワタシ自身こんな寒い性格だからネ。君のような根っこの熱い熱い漢は大歓迎サ」
だが、そう結んだ会長はこれまで見せた事の無いような、そんな鋭さと極低温を併せ持った、まるで氷のように透き通った冷たい瞳で此方を睨む。睨みつける。
「言った筈だろう、少年。ワタシは… せっかちが嫌いダト」
イヤというほど味わった。
背筋が凍るなんて、そんな生易しいものじゃない。アレは、そうこの感覚は、アイスピックで氷の刃で突き刺されるような。何度も何度も何十回も何百回も。そして、その先に待つ暖かな、包み込まれるような感覚。まるで抱擁。感情が平常化し、荒ぶった気分が落ち着いていく。まるで、自分自身以上に、自分の力を制御するかのように。総ての現象が平常化し、沈静化する。
「少年、君もESP所持者の端くれなら覚えておくといい。内に秘めたる熱さと怒りは別物だ。怒りに身を任せて展開が上手く行くことなど断じてありえない。氷のように冷たく冷静に。雪のような白きゆーきを持って…… ナンチャッテ。ハーッハッハッハw ちょw 今のみたみた? ワタシの力w 凄いッしょw」
今日は冗談の閉店セールらしい。
自分がいかに未熟で、意固地で、自分勝手で、視野の狭い人間だという事を思い知らされた。思い知らされてしまった。よりにもよって、この胡散臭い金髪ハーフ生徒会長によって。
「例えばの話さ、少年。もしも、万が一、恩羽日傘くんの体質が。ある種のESPによるものだとしたら? ワタシならば、ある程度それを制御… 出来るかもしれないとしたら? 君はどうする、少年。彼女は既に決断した。それが例え、ワタシがそそのかした結果だとしても、確かに彼女は決断したのサ。前に進んだんだ。一歩を踏み出した。さぁ、さぁ、さぁ、さぁさぁ、一方の君は、君の決断は?」
「かいちょ… イヤ、《部長》。自分はまだ、あんたを完全に信頼したわけじゃない。だが、自分の中の直感がさっきからそうしろってピーピーうるせーんだよ。喧しいんだよ。自分はあんたを信じちゃいない。けど、自分の第六感ってやつは信じてる。これまで何度も何度も日傘を助けてきた力だ、心底信頼してる。だから、第六感が信頼してるあんたも、信頼してやるぜ」
「ひゃっはー★ 面白くなってきた! さぁ、少年… いやいや、誠意少年。あの言葉を、例の言葉をワタシに聞かせてくれ。さぁさぁ、さぁ。ハリーハリーハリー!」
言うのか? 言っちまうのか? 本当にいいのか? 引き返すなら今のうちだぞ?
「自分は、ESP研究部に入部する… 魂を賭けるぜ。ヒャッハッハッハ。どーしてこうなっちまったのか、いとおかしだぜ」
「グッド! 君のその一言が聞きたかった。歓迎します、ようこそ我がESP研究部、通称部へ。ゐ異誠意君♪」
この先、自分と日傘にどんな未来が待ち受けているのか? それはまだ闇の中。砂漠の猫が、右と左のどちらの干し肉を選ぶか分からないように、ネットに掛かったテニスボールが、どちらのコートに落ちるか誰にも分からないように。それはきっと、分かるとか分からないとか、そーゆー類の事ではないのだろうよ、きっと。例え人より優れた第六感を持っていたって、遠い未来を見通すことは出来ない。故に、可能性は常に未知数であり、未来を覗き見る者は、常に氷の上を歩くような繊細さが求められる。
自分も漢だ。エスパーである前に、一、男として、一度自分で決めた事は最後まで貫いてやろうじゃないか。
「部長。んで、今日は何をやるんだ? 今日の活動内容は?」
「ハッハッハw、素晴らしい気持ちの切り替えと気合の入れようではないか。流石はワタシの見込んだ漢」
「ああ。それで?」
「ウォッホン。本日の活動内容、それは…」
「それは?」
「無いw ってか今日休日だゾ、誠意少年。そう力むなってw 部活なんて、来週から本気だそうぜえ。ってかこの部屋なんか暑くネw」
「…」
自分、選択肢を間違えたかもしんない。概ね、そんな話。
第二訓 END
《今日の四字熟語》
「三寒四温」(さんかんしおん)
寒い日が三日ほど続くと、その後四日くらいは暖かいというサイクル。本来は、猛烈な真冬のシベリア高気圧を指し示す言葉。