召喚と感動
―――鳥のさえずり。木のにおい。ごわごわのベッド。天井には少しクモの糸が張っている。空気は新鮮で、まるで森林浴をしているかのように澄んでいる。外からは賑やかな喧噪が聞こえ、遠くには滝の流れ落ちるような音。
ベッドからおり、身につけているものを見ると、見覚えのある服装、《冒険者のローブ》。
個室のようで、壁にかかった短剣は紛れもなく俺のものだろう。
手にとり、ベルトと共に腰に巻く。
個室から出て、階段を下り、ロビーにある受付の女性に部屋番号の記された板を渡す。
「昨夜はお楽しみでしたね」一人だったけど。
持ち金は1万G用意されていた。まあ、妥当だな。
支払いを済ませ、宿屋から出る。
そこに広がっていたのは、画面で見るより遥かに雄大で、遥かに壮麗な世界。見覚えは確かにあるが、それでも初めて見たような感覚にすら陥る。それほどの迫力。
眼前に広がるそこはまさに、俺が想像した通りの世界で―――
「グロス・オーバー……」思わずつぶやく。
そうだ。
ここは、異世界グロス・オーバー。
召喚は、嘘ではなかった。俺はこの世界に、召喚された。
いつも画面越しでしか見ることのできなかった、何度も何度も実際にこんな景色があったらと思い続けてきた世界。
俺の《夢》。それは、これだった。
そう確信できるほどに、俺の気分は、高揚した。
高揚し、気付く。
邯鄲の枕、即ち、ただの儚い夢である可能性は?
しかしそれも一瞬のこと。
このリアリティ。風が頬をなでる感覚。音。鮮明に目に焼き付く世界―――これが、夢であるはずが無かった。
この日から、俺の異世界ライフが幕を開けた。