妹からの電話と隠しダンジョン
「おにいちゃん!ちゃんと話しきいてる?」
「あー、うん」まずい。聞いていなかった。
「だからね、お兄ちゃん、大学生活はどうなのって」お見通しだった。
なんと答えてよいやら。
毎日ゲームやってるよー。と言えばいいのか?
いや、妹が訊いているのは大学生活だ。それでは的を射ていない。
「普通だよ普通。普通に講義受けて、帰って来るだけ。今日なんかは、教授にまとめサイト見てるのがバレて大目玉くらったりしたけど」
「うーん、要領を得ないなあ。彼女とかは?」結局的を射ていなかったようだった。
「いないよ。ていうか、女友達もそんなにいない」そんなにどころか一人もいない。ついでに言うと男友達もそんなにいない。
俺には妹がいる。
才色兼備、自慢の妹だ。
仲もそんなに悪くない。むしろいい方だと思う。
俺が大学に入ってからは、ゲームに夢中になっていたり学校を欠席がちになって親に連絡が取りづらくなっていたりしたことから疎遠になっていたのだが……
なんでまたいきなり電話なんて……
俺は今、RTAでタイムを詰められるところが無いか攻略ルートをなぞるという重要案件に取りかかっているのに。
しかし妹は、そんなことを知る由も――知っていたとしても意に介さないだろうが――なく。
「まじかあ〜。もったいないと思うなあ…。おにいちゃん、せっかく外見に恵まれてるのに」
「みてくれだけに価値を見いだす人間には、それ相応の人間しかいないって」お、ここ少しルート改善できそう。次は、四天王の間だな。
「そんなもんかねー」
「そんなもんだ」四天王の間到着。
さて、と。地図を開いて…どこかルート短縮できそうなところは―――
「ふうん。じゃあ、お母さんにかわるね」
「は!?」は!?
思考と言葉がようやくリンクした。
そして、あまりの衝撃にコントローラーが手からすり抜け、床に落ちる。
画面でなんらかの動作があったように思うが、それどころではない。
「なにがじゃあだよ!?母さんには――」
「母さんには?」
遅かった―――!
「なにか、後ろめたいことでも?」
「いや、別に」平常心!
「一馬、あなた、大学ちゃんと行ってる?」グサッ。
「行って……るよ」すみませんごめんなさい。
「ふうん。それで、将来設計は?何か夢でも見つかった?」サクッ。
「その……目下検討中……」
「いつもそれね」ベキィ。
壊れる!心が壊れる!
「大学なんて、やりたいことが見つかるまでのモラトリアム期間みたいなもんじゃん?だから、そのうち見つかるっていうか、見つけるっていうか…」
苦しい言い訳しか出ない。受けている全講義が欠席超過一歩手前なんて絶対に言えない!
「それが大量欠席してる人の科白ねえ」お見通しだった。
「ほ、ほら。やりたいことを見つける前に、趣味に没頭するのも今しかできないっていうか―――」ん?
ちらとゲームの画面をみやると、何やらテキストが表示されていた。
▼宝石のカケラを使った。
宝石のカケラ……さて、どこで手に入れたものだったか。記憶に残っていない。
「ごめん!急用できたから、また今度!」
「ちょっと!まちなさ」ええいままよ!
切断。
母との電話から逃げ出したかったのもあったが、単純に、見たことも無いイベントへの興味が大きすぎた。
地図をひらこうと道具画面を表示しているときにコントローラーが床に落ちて、偶然使ってしまったのか。
とりあえず、コントローラーを拾ってテキストを進める。
直後。
轟音とともに四天王の間の入り口が崩れ、かつて門があったその場所には地下へおりる階段があった。
▼階段が出現した!
みりゃあわかるよ。
しかし……
「なんだこのイベント……」
攻略サイトに載っているイベントは全てこなしたはずだし、自身の膨大な時間をかけた攻略の記憶にも、こんなイベントはなかった。
試しにネットで調べてみても、やはりこのイベントについて言及されたサイトは見当たらなかった。
これはまさか―――
まだ誰にも見つかっていない隠しダンジョン……?
心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
これは、大発見じゃないか!
新星を発見した天文家はきっとこんな気分に違いない。
大げさに思われるだろう。だが、本気でそう思うほどに、俺は高揚していた。
とりあえず画面をキャプチャーして……ついでに録画もしておこう。
緊張にのどが音を鳴らす。
装備、道具ともに順風満帆。今からラスボスと対峙しても負ける気はしない。
意を決し、階段を下りる。
暗転。
再び世界が明るさを取り戻したとき、そこに待ち受けていたのは、中央に台座の据えられた小部屋だった。
台座の上には、一通の手紙があった。
▼手紙を読みますか? YES NO
答えは決まっている。
「YESだ!」




