三上一馬と学生ニート
学校ニモ行カズ、働クコトモセズ、世間ノ冷タサニモマケル虚弱ナ精神ヲモチ、慾ハアリ、決シテ人ト交ワラズ、イツモ静カニゲームヲシテイル……
最近流行のコピペらしい。
ふうん。なるほど、そんな奴がいるのか。とてつもない悪童だな。
……。
心が痛い。
だいたい俺のことだった。
21220101番ー!いないのか!
学生ニート。日がなゲームに興じ、大学には必要最低限の出席しかしない。収入は知り合いの自営業者にコンサルティングを行うことで得る。余計な外出はしない。そんな日々の生活に情熱を見いだすことはなかった。
おい!21220101番!欠席にするぞー!?
ただひとつ、RTAを除いては。
思えば、RTA漬けの日々だった。
だが正確には、RTAにハマったのが最初ではない。
俺が魅せられたのは、《グロス・オーバー》というゲーム。
このゲームは、ソフトを購入してハードにセットするような、所謂一般的なコンソールゲームとは違い、ネットに開設されたサイトからソフトをダウンロードし、PCでプレイする、PCゲーム。
しかもMMOではない、超王道一人用RPG。
一昔前のドラゴンクエストやファイナルファンタジーを彷彿とさせるような、俺好みのゲームだった。
だがこのゲームには、そんなことすらどうでも良くなるくらいの規格外の魅力、システムがいくつも搭載されていた。
第一に、まるで現実に存在するんじゃないかと思うくらい壮麗なグラフィック。
これは、他のゲームの追随を全く許さない程のクオリティだった。ネットでは、オーバーテクノロジーや未知の技術などの言葉を用いて賞賛されている。
俺がこのゲームに魅せられた最大の理由だ。
中でも、ゲーム内の世界各地に点在する《一度は見ておきたい絶景》は、何度見ても鳥肌ものだ。
第二に、異性無制限攻略システム。
これにはあまり興味を持てなかったが、システムとしてはあり得ない、これもオーバーテクノロジーと称される所以だ。
よく個人サイトやまとめサイトなどでキャラクターの人気投票が行われているのを見かけるので、この機能目当てにプレイするユーザーも多いのだろう。
第三に、――これは、このゲームが規格外、オーバーテクノロジーであることの最大の所以――NPCが、《ほぼ完璧なAIシステム》・《ほぼ完璧な音声合成技術》の元に動作していること。
これには、本当にいつも驚かされる。
NPCに話しかけるたび、その反応がかわる。しかも、各々固有の声で。
NPCが本当に生きていて、感情を持つかの様な反応を見せる。イベントなどの流れは固定されているが、その中でも、台詞や動作が毎回少しずつ違っていたりする。これが、ほぼ完璧なAI。
初音ミクを象徴とする、音声合成ソフト。その技術向上が、昨今の音声技術者達の急務であったが、グロス・オーバー公開以後、歌手が淘汰されるほど洗練された音声合成ソフト誕生が唱えられて久しい。これが、ほぼ完璧な音声合成技術。
俺は、このゲームに出会い、興奮した。
それはもう、馬鹿みたいに興奮した。
オンラインゲームが主流となり、ゲーム開発における一人用RPGに裂かれる費用は年々減少していっているのが、近年発売されたソフトから伝わってきていた。
ストーリーは短く、自由度も高くない。クリア後の感想はどれも似たようなもので、ゲームをやったというより映画を見た後の感覚に近かった。
オンラインへの流用を見越した映像技術の向上のみがセールスポイントとなりがちな昨今のRPG業界に、それまでの俺は退屈していたのだ。
そんな中、画面の前でもゲームの中でも一人で楽しむユーザーに向けて、全力を賭して開発されたRPG。
それがひしひしと伝わってきたのが、グロス・オーバーだった。
俺は気付けば、グロス・オーバーの世界にどっぷりと浸かっていた。
何度も何度も世界を救い、何度も何度も世界を旅した。
そうする内、RTAの存在を知り、実力試しのつもりで挑戦してみたら、その奥深さにまた魅せられた。
そうしてグロス・オーバーの世界に身を投じ続けた結果、RTA公式最高記録10秒遅れほどのタイムを出すまでになっていた。
それに要した時間は約一年。
俺が大学に推薦入学したのは約一年前……
立派な大学生ニートの誕生だった。
ここまで自分を分析し、
「三上一馬、欠席にするからなー!これで欠席超過だからなー!!」
「はい!僕です!います!」我に返った。
危ない危ない。やはり、講義開始前にまとめサイトなど見るものではない。




