RTAと道案内
俺と少女は、聞く耳を持たない新聞配達コミュニティの職員にこってりしぼられ、やっとのことで事の顛末を説明し、
「それならそうと早く言え!」一喝とともに釈放された。
「ここの職員ってこんな感じだっけ……」
逃走と叱責の疲労にうなだれる。と、少女が俺に訝しげなまなざしを向けつつ訊ねた。
「あなた、あのタイミングで竜が橋をくぐることを見越して?」
「あー、まあね」
「まあねって、随分とまあ事も無げに……」
《RTA》―――。
ゲーム内のミニゲームや、エンドロールまでの時間計測が行われるものなどでタイムを競う《TA》が流行したのが元。そしてその後続となる形で流行したのが、その枠を超え、《実時間》を用いて競う、RTA。
クリアまでの道筋をどこまで短縮できるか。戦闘やイベントなどをどれだけ効率よくこなせるか。ゲームを熟知し、利用できるものを全て利用し、定められた地点までのタイムを競うこの競技に魅せられたゲーマーは、数多い。
俺、三上一馬も、その一人だった。
そして、RTAに関係がないルートだったとしても、俺はこの世界のことなら大抵知っている。それが、《新聞を配達に行った竜の群れが、ゲーム内時間正午を報せる鐘の音とともに大橋の下を一斉にくぐって帰ってくる》なんて絶景イベントなら尚更だ。
RTAで利用しない町の宿屋までの最短ルートなどはその埒外だが、少なくとも、《一度は見ておきたいイベント》ならば、その詳細まで全て覚えている自信がある。
それが俺の中での普通なので、少々不自然な事も無げな物言いになってしまったようだが……。
「まあ、なんだ。絶対に成功するって保証は、無かったけど」あったけど。
素性に疑問を感じさせないよう、軽くフォローを加えておく。
すると彼女は一瞬キョトンとして、くっくっく、けらけらけら、あはははは!と徐々にボルテージを上げながら笑い出した。
暫く笑い続け涙目になりながら、「助けてくれてありがとう。あたし、ユーノ。あなた面白いわね」こちらに手を差し出す。握手を求めているのか。
「俺は一馬だ。助けたって、半ば強制的だったけどな」
とりあえず手を握っておく。
先刻までは盗賊から逃走していたので、せっかくこんな可愛らしい少女をお姫様抱っこをしていたにも拘らず意識の外だったが、手を握りつつその少女らしい柔らかな肌触りに密かに生唾を飲む。
そこに、ユーノは俺の心情を知ってか知らずか、こんなことを言い出した。
「あなた、この町の立地に詳しそうだよね。助けてもらいついでと言ったらなんだけど、港まで、案内してくれないかな……?」
袖振り合ったが他生の縁なら、激突されて盗賊から助けてお姫様抱っこまでしたら、それはもう多少どころの縁ではない、か。




