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青い光の中で

 夕暮れ近くになり、気温も下がって来る。

 でなくとも、この辺りは他所と比べもともと気温が低い。

 湖のほとりであることもその一因だが、何よりこの水晶群が、視覚的に寒さを感じさせる。

 色には暖色寒色というものがある。赤いものを見れば温かく感じるし、青いものを見れば寒く感じる。そこが実際に寒い場所なら、寒色は相乗効果的にその涼しさを脳に直接訴えかけて来る。

 俺は、《水晶平原》にいた。

 地面から魔力を宿した水晶が突き出していて、夕暮れともなるとその輝きが一層存在感を増す。

 半透明な水晶は複雑に光を反射し、辺りを綺麗な透き通った青色に染上げる。

 それは、見る人間によって様々な印象を与えるだろう。

 単純に、神秘的で綺麗だと思う者。

 その迫力に、感動する者。

 そして、

「ここが……水晶平原……」

 彼女のように、過去に思いを馳せる者。


「よう。遅かったな」

 水晶に背を預けて腰を下ろしていた俺は、ゆっくりと立ち上がりながら言った。

 彼女は驚いた。

「どうして、ここに来るって……」

「あれだけ行きたそうにしてたからなあ」

 嘘だ。俺はただ、知っていただけ。

 彼女は黙って引き返そうとした。俺は、その背中に向けて言う。

「逃げるのか、背を向けて。あのときみたいに」

 彼女の足が止まる。

 うつむきながら振り向いて、俺に近づく。

 拳を握りしめ、俺に向けて、突き出す。

 ……しかし、いつかのような威力はそこにはなかった。力のない拳が俺の肩に押し付けられる。

「お前に、何がわかるっていうんだよ…」

 打てば響くように、俺は答えた。

「全部わかる」

 彼女は、ふっと笑った。わかるわけがない。言外に、そう言っていた。

 俺は続けた。

「お前が昔、《黒の悪魔》にお母さんを殺されたこと。それがトラウマになって、今も黒い生き物が苦手なこと。お母さんを守れず、ただ逃げ出した自分が情けなくて、その悔しさをバネに格闘術を極めたこと。お前がこれまで、一人で魔物を倒し続ける日々を送ってきたこと。それが、お母さんを殺した相手を捜すためだってこと。お前がここに来たのは、その黒の悪魔が、綺麗な光のある場所に姿を現すことを知っていたから。……足りないか?」

 聞きながら、彼女は目を見開いた。

 本当に全てを知っているとは思わなかったのだろう。そうなるのも無理はない。

 彼女には俺が、どう映っているだろうか。

 彼女は、くすりと笑い、俺の隣に腰を下ろした。

「一馬って、私のストーカーだったりするの?」

 そう映ったか。

 俺も彼女に習って腰を下ろす。

「まあ、あながち間違いじゃないのかもな」俺はこいつらのことを、これまでずっと見てきたのだから。

 あはははと、彼女はまた笑う。

「町の人の話しを聞いてピンと来たんだ。水晶平原に現れた、厄介な技を使う魔物……」

「ああ。お前はあのとき、心ここにあらずって感じだったからな」

 そう。あの時彼女が思いを馳せていたのは、水晶平原にではない。過去のトラウマに、だったのだ。

「それで、わざとエリアを怒らせて、自分も怒ったふりをして、一人でここに来た。だな」

 こくり、と彼女は頷く。

 ほんとうに何でもお見通しなんだね、と少し引かれた気もする。

「これは私の問題だから、私だけで片をつけなきゃならない。お母さんの敵を討つのは、……私だ」

 そう言ったあと、くしゅん!と、可愛らしいくしゃみをかます。

 いよいよ本格的に肌寒くなってきたな。

 俺は、自分の着ていたマントを彼女の肩にかけて、言う。

「お前が強いのはみんな知ってる。ただ、それはお前の弱さでもあるんだ。わかるか」

 彼女は反駁(はんばく)した。当然だ。それは、これまでの彼女のあり方への否定なのだから。

「私は弱くなんかない!強いことが弱いことになるなんて、おかしいよ!」

「そう思うか」

 俺は立ち上がり、歩き出す。

「先帰ってるぞ。本当に出るかもわからないような魔物を待つほど、俺は暇じゃないからな」

 リナは俺の背中を見ることもなく、ただ俯いていた。


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