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トラウマのリナ・マグナム

 ほら、奥さんききました?最近、近くにある水晶平原のあたりに現れた悪魔、厄介な技使うらしいわよ。

 きいたきいた。それよりも奥さん、隣町のセリさんの息子さん、明日挙式だって。

 まあまあ、それはたいへん……

「水晶平原かあ……」見かけによらず乙女チックなリナは、まだ見ぬ絶景に思いを馳せながら言った。

 6月通りは今日も、活気あふれる賑やかな通りだった。

 俺たちは、そんな喧噪を聞き流しつつ、買い出しに街へくり出していた。

 エリアが退屈そうに言った。

「ソードも来れば良かったのにねえ」

「調べたいことがあるとか言ってたし、しょうがないだろ」

「調べたいこと……って……なんだろうね……」

 リナは、夢うつつに訊ねる。いい加減水晶平原に思いを馳せるのはやめろ。

「まあ、今後の進路のことについて、とかなんじゃねえの」自分に言い聞かせるように言う。

 そうであってほしかった。願わくは、俺のことではありませんように……

 と、エリアがとてちてたとある店に吸い寄せられて行く。

 その店は雑貨屋《魔法科学》。

 エリアは、魔法科学のヘビーユーザーだった。

「よりみちもたまには良いでしょ?」いつもじゃないか。

 俺はお前がこの店を見つけるたびに釣られて行くのを知ってるんだが。

 まあ、

「たまにはいいか」俺もこの店には丁度用があった。

「あれ、止めないんだ」

 リナは俺がエリアを止めると思っていたらしく、拍子抜け、とその後に続く。

 

 魔法科学の中は、まさに混沌。

 天井には広大な宇宙が広がっているし、陳列されている商品はどれも珍妙奇天烈なものばかり。

 近未来的なモチーフのものから、太古の息吹を感じさせるものまで、その守備範囲は多岐にわたり、小中学生の頭の中をそのままひっくり返したような感じだった。

 店内を見回りながら、エリアは恍惚の表情を浮かべている。

 エリアは、魔法オタクだった。それも、魔法であしらった小物から、魔力の込められた道具。魔力の宿った天然鉱物まで、魔法と名がつけば、その守備範囲はそれこそ無限大だ。

 エリアがわけの分からないものを買いあさる中、俺は意中のアイテムを見つけ、カウンターへと持って行く。

 後ろから、大量のアイテムを持ったエリアが話しかけてきた。

「へえ。アンタもそう言うのに興味あったんだ」ない。

 いや、ないでもないが、お前ほどじゃない。一緒にしてもらっちゃ困る。

「チョウジ・ゲンレンラクヨ・ウマホウセキ……?」なんだそれは。

「リナ、全く言えてない」

 1万G支払い、カウンターを退()く。

 リナはその値段に驚愕していたが、エリアは、

「ま、妥当ね」だそうだ。

 俺はエリアの買い物にこそ驚愕を禁じ得ない。

 3万5千Gになります。

 何に使うんだよあれ……

 彼女らの金欠はエリアにこそその原因があるのではないか。そう思った。

 

 店から出ると、リナがその事に思い至ったらしく、言った。

「それ……ほんとに必要なの……?」

 むっとしたように、エリアは反駁する。

「当たり前じゃない」

「その、石でできた蟹も……?」

「そ、それは……」いらねえんじゃねえかよ!

「エリアがそうやって無駄遣いばっかりするから、勇者をヘステルで待てなくなったんじゃないの……?」

 おい、それは……

「そんなこと……、それに……アンタだってゴキブリごときにぴーぴー泣いて、昔のトラウマだかなんだか知らないケド?そのせいで大量請求くらっちゃって、一馬がいなかったら今頃借金地獄だったんだか……ら……」

 遅かった。途中で言い過ぎだと気付いたらしいが、後の祭りだった。

 リナは、その目に涙を溜めていた。そして、そのダムが決壊する寸前で、走り出した。

 リナの姿は、6月通りの路地に消えて行った。


「あ……」

 エリアは、何も言うことができなかった。

 すぐ謝ればいいという雰囲気でもなかったし、仕様がない。が、もういい歳なんだから、見た目とのギャップくらいつくってほしいものだ。これじゃあただの子供じゃねえか。

 様子を見ていた通行人たちも、咎めるようにエリアを見る。

 彼女は恥ずかしさと後悔に俯いてしまう。

 俺は、そんな連れを黙って置いて行けるほど不人情ではなかったので、言った。

「次会ったら、ちゃんと謝れるな?」

 蚊の鳴くような小声で答える。

「……うん」

 その様子がどうも昔の俺の妹をフラッシュバックさせ、癖で彼女の頭に手を置いてしまう。

 その瞬間、彼女はどんな表情をしただろう。俺からは見えなかった。

「よし。じゃあ、先に宿で待ってろ」

 そう言って俺はおもむろに、リナの走って行った方向の逆へと歩き出した。

「え、そっちじゃ……」

 だが、彼女はそれ以上言うことはしなかった。

 俺は、それほどの確信のもと、歩いていた。


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