謎の勘合と動き出した物語
《あの武器》それは、非常に攻撃的な性能を持つ武器である。
しかしだからといって、俺が戦闘に前向きであるということではない。
言わば保険のようなものだ。どうしても戦闘を避けうることのできない場面では、きっと役に立ってくれるはず。
戦闘をすることは極力避けたい。何故なら、このゲームでのGAMEOVERは、そのまま俺の死を意味する可能性があるからだ。
召喚状はそのことに言及していなかった。
しかし、俺の仮説がもしその通りだとしたら、この世界でGAMEOVERになることは望ましくない。
ともあれ、安牌を切っていけばそうそう最悪の事態を迎えることはないだろう。
などと考えているうち、目的地へ到着した。
眼前にそびえる建物。周りと比べて外装もしっかりしているし、贅を尽くした感じがした。その建物の正面。入り口の上部には、でかでかとその名が記してあった。
全国共通商業コミュニティ傘下・雑貨屋《竜の爪》。
ドレスコードなどは無いはずだが、一応、逃げ腰マントなどという盗人御用達アイテムはしまっておき、冒険者の服で店の中へ入る。
いらっしゃいませー!
数多くいる従業員の景気のいい声が迎えてくれる。
いくつかあるうちの、向かって一番左。なんだかうさん臭い風貌のおじさんが受付をするカウンターへ向かう。
「らっしゃい旦那!何かお探しで」
「乾いたキノコをくれ。一つでいい」
「へい旦那!3Gになりやす!お買い上げ、ありがとやす!」
一旦カウンターから離れ、店からも出る。
そして、もう一度店へ入り直し、先と同じレジへ向かう。
「らっしゃい旦那!何かお買い忘れで」
「乾いたキノコをくれ。今度は三つだ」
「へい旦那!9Gになりやす!お買い上げ、ありやとやす!」
もう一度、先と同じ手順を繰り返す。
「らっしゃい旦那!またまた何かお買い忘れで」
「綺麗な布と、ヒノキの棒をそれぞれ3つずつ。あと、乾いたキノコ1つだ」
「旦那、好きな色はなんでごぜえやしょ」
「漆黒」
「へい旦那!お待たせしやした!お代はいりやせん!」
大きめの箱がカウンターにのせられる。
手にとり、何食わぬ顔で店を後にする。
ありやとやしたー!
にこにこと、最後まで笑顔を崩さなかった受付。
路地に入り、箱を開ける。
中に入っていたのは、ヒノキの棒でも乾いたキノコでもなかった。
漆黒に染まった鞘、刀身はまさに魔剣と賞するにふさわしい外観で、その効力も、一振りすればその軌道延長線上を強力な黒の衝撃波が襲うという、末恐ろしいものだった。
護身用にしては禍々しすぎるが、まあいいだろう。
《魔剣・ブラックブレード》。安直な名前の武器ほど強い。
攻略サイトにもこのイベントに関する補足が一切無いのが恐ろしい。ただ、この店で今の手順を実行すると、強力な武器が手に入る。それだけだった。
さて、武器防具による戦闘能力の底上げは図れたことだし、今度こそ身の振り方を考えないとなあ……
おや?
箱の中を見ると、まだひとつ小さな箱が入っていた。
魔剣を取り出した時、こんなものはあっただろうか?記憶を辿るがよく覚えていなかった。
まさかヒノキの棒や乾いたキノコを律儀に入れてくれたわけでもあるまい。
手に取り、中身を確認する。
そこにあったのは、一通の手紙だった。
差出人は無く、一行目にはこう記してあった。
▼警告・妹の命が惜しくば、その世界から脱出しろ。
遠くで、夕暮れを知らせる鐘が鳴ったのが聴こえた。