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僕には、妹がいる。いや、「いた」というのが正しい。
かつては同じ屋根の下で暮らした妹は、戸籍上では削除されていた。
だけど、僕と妹の美野里はずっと血でつながっていた。たった一人の、本物の妹。
だから、彼女がメールで呼んだときはいつも来ていた。
ただ、決して超絶にかわいい妹とか、シスコンとかそういうものじゃない。
単純にアイツが、孤独で哀れだと思ったから。
大きな私立病院の病室は、白くてきれいだ。
僕とハシブトが入った病室は、狭い個室だった。
目の前では、白いベッドの上に小さな少女が横になっていた。
彼女の名は、『扇 美野里』。美野里は、僕を見るなり体を起こした。
短い髪に、幼い童顔の少女。だけど目はうつろで生気がない。
雑誌を読んでいたのだけど、僕を見つけると雑誌をベッドの上に置いた。
「兄さん、遅い」不愛想な顔で僕を見てきた。
「美野里、大丈夫か?」
「お土産、買ってきた?」
「お土産、買ってきたぞ。美野里」
僕は、ビニール袋を美野里に渡す。渡されたビニールを、一心不乱に開けた美野里。
そこには、差し入れのプリンを買ってきた。電話で頼まれた、美野里へのお土産。
取り出した高級なプリンを見た美野里は、ちょっとだけうれしそうな顔に変わった。
「プリンだぁ」抑揚のない声を出して、プリンを開けた。
右手にスプーン、左手に高級プリンを持ってじっと見ていた。
「ああ、うまいぞ。美野里の好きな高級プリンだ」
「そう……」
だけど、美野里の顔は浮かない。
いつものことだけど、病気がちの美野里はずっと不安や病気と戦っていた。
元気がないのは当然だ。プリンを持ったまま美野里は、後ろにある看護婦さんが取り替えた花を見ていた。
「今日は顔色いいな、美野里」
「顔色、どこがいいの?」不機嫌な顔に変わった美野里。
まるで僕が母親を拒むかのような顔を見せて、美野里はうつむいてしまった。
「美野里……ごめん」
「兄さんは、関係ない。なにも関係ないの」
「そんなこと言うなよ、僕たちは家族だろ」
「もう、家族じゃないわ。あの日から、あたしとあなたは別なの」
「そうではない、わしは癒してやろう」
落ち込んだ美野里に、いきなり僕の後ろにいたハシブトが声を出した。
ハシブトが近づいて、いきなり美野里の頭を撫でた。穏やかな顔で、落ち着いた顔で。
「な、なに?」
「娘よ、ぬしは喜久と血が繋がっておるのだろう」
「なんなの?兄さん、この人誰?」
いきなりハシブトの登場で美野里は慌てているのか、顔がちょっと赤くなった。
「ああ、美野里にどうしても会いたいって言っているカラスだ。
何故会いたいのか、僕もよくは知らないけど」
「カラス?」首を傾げる美野里は、ハシブトの顔を不思議そうに見ていた。
「わしは、ハシブトというカラスだ。よろしくな」
「あ、あたしは扇 美野里……です」
急に背筋をかしこまって、背筋をただした美野里はあいさつした。
美野里が不機嫌になったり、嫌味なことを言うかと思っていたが、思った以上に普通に接していた。
あまり見せない美野里の反応に、僕は驚いた。
「ハシブトさんは、兄さんの知り合い?」
「ああ、美野里を慰めに来た。お見舞いだぞ、良かったな」
「そうだ、わしは美野里が孤独だと思ってきたのだぞ。わしが癒してやろう」
その言葉に、美野里の顔は途端に曇った。
戸惑いは消えて、あっという間に目つきが鋭くなった。
「なに、あんた?なんで、そんなことを言うの?」
「わしが、ぬしを癒してやろう」
「触らないで!何を癒すの?」近づくハシブトに美野里は、急に警戒心を強めた。
「ハシブト、おい。あまりしゃべるな!」
「いいではないか、喜久」
それでも僕の制止を振り切って美野里に、穏やかな笑顔を見せていた。
おっとりした目元、美しい笑顔に僕はなんだか反対はできなかった。
「やはりぬしは寂しいのだろう、わしには分かるぞ」
「だから……寂しくないし」
「強がりは、わしには分かるぞ。大丈夫だ、わしがついておる」
ハシブトは、スプーンを持つ美野里の右手をつかんでいた。
手を握られた美野里は、なぜか顔を赤らめていた。だけど怒っているような複雑な顔を見せていた。
「あなたは、なんなの?」
「わしか、わしは『孤独を癒すカラス』だ。ぬしのような孤独な者を、癒すためだけにわしは存在している」
「違う、あたしは孤独なんかじゃない!」
美野里は、左手に持ったプリンをカップごとハシブトに投げつけた。激しく顔を赤らめて、言い放った。
プリンを投げつけられたハシブトは、それでも笑顔を崩さない。
プリンがそのままハシブトの顔からずれ落ちた。
だけど、ハシブトは怒ったりしないで美野里を見続けていた。全く崩れない笑顔で。
「なんでそんな顔、するの?」
「ぬしを癒しに来たのだ、ぬしは可哀そうだからな。孤独だからな」
「あたしはね、孤独という言葉が一番嫌いなの!自分を示す言葉みたいだから」
美野里の悲痛な叫び声に、さらに置いてあった雑誌をハシブトに投げつけてきた。
だけど、ハシブトの顔めがけて投げてきた雑誌をよけずにそのまま受けた。
バサリという音だけが、病室に響いた。




