表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
六話:メジロの季節
57/60

57

――僕が見た夢は、やはり夜桜の夢だった。

桜が舞って静かな夜桜は、かえって不気味そのものだった。

そして、いつものように白髪の老人久兵衛がいた。

白い袈裟を着て、物珍しそうな顔で僕を見ていた。


「ぬしは、この娘がそんなに大事か?」

杖を持ち、僕の顔をうかがう久兵衛は悪そうな笑みを浮かべていた。


「僕にとって、大事な存在だよ」

「何度も聞いたぞ、ぬしの想い」

「だったら……お願いだ」

僕は頭を深々と下げた、生まれてこんなに頭を下げたことはないだろう。

久兵衛はそんな僕を眺めるように見て首を横に振った。


「ぬしの想いには観念したぞ、ならば一度だけ力を貸してやってもいいぞ」

「本当か?」

「ただし条件がある、三つだ。その前にぬしの覚悟を確かめるぞ」

「覚悟?」

「そう、覚悟だ。あの娘を助けたい気持ちがあるならば、わしにぬしのすべてをゆだねよ」

「どういうことだ?」

「わしにぬしの体を貸すのだ」

「かまわない」

「本当にいいのか?

ぬしの全てをわしに見せるということだ、わしがぬしの体に入り込むからな」

「ああ、かまわない」

僕は迷わなかった。それを見て久兵衛が予想外の反応なのか少しおののいていた。

だけど僕はハシブトが助かるためには何でもしたかった。


(僕はハシブトに何も与えていないから)

そんな罪悪感があった僕は迷わなかった。


「本当にいいのか?お前の考えていることを覗きこまれるのだぞ」

「ああ、いいよ」

「お前の体を乗っ取られるかもしれないんだぞ」

「そんなことはしない、久兵衛さんはハシブトが言うとおりの人だから」

「ふむ、ならば……」


その時、僕の体に久兵衛が手を伸ばしてきた。

それはものすごく痛い。久兵衛が僕の体と重なった。

彼の体が入り込んでくるかのような、プライベートが覗き込まれるかのように苦しい。

でもそれでも僕は耐えられた。ハシブトのためなら、耐えることができた。


「ううっ、なんだか頭が割れる様に……」

「痛かろう、最初だけだ。そのあとは何も感じることがない。

ぬしに痛みを感じる権利すら与えられぬ。

わしが、ぬしの体を乗っ取るのかもしれぬのだぞ。よいのか?」

「ハシブトは言っていた、久兵衛さんは僕と同じ優しい人だって」

「つくづく優しい男だ」

そう言いながら、久兵衛は僕の体から出て行った。

僕は汗だくになりながら、呼吸を整えていた。頭痛はまだ収まる気配がない。


「この呪術は、夜桜のある場所にしか使えぬ。条件の一つだな」

「条件ってほかにもあるのか?」

「ああ、全部で三つある。だがぬしには一つしか言わぬ。

残りは、ぬしにとって大事な者にすでに伝えておる」

「大事な者?」

「そうだ、手に入れるのは難しいかもしれぬ。

が、ぬしの力で何とかしてみせよ。それに成功の可能性が完璧というわけでもない」

「分かっている、でもできることは全部やりたい。

僕はハシブトがいなくなって、その空白を埋めたいんだ」

そして、僕の方に顔を向けた久兵衛さんは満足げな顔を見せていた。


「この娘は、本当に幸せ者だ」

最後に、小さくそんなことを言われた気がした

そのあとすぐに周りが白くなっていた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ