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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
六話:メジロの季節
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55

あれから三日目が過ぎた。

学校を休んでまで僕はいろんな場所をハシブトと一緒に行った。

ハシブトとの思い出を、できるだけたくさん作るために。

さすがに母親や脇坂には怒られたけれど。


デートを続けた三日後に、ハシブトの体に異変があった。

急いで安志と美野里を呼ぼうとしたけれど、間に合いそうもない。

学生デート風にいつも通りの制服姿で僕を見ていた。たどり着いたのが大きな川が見える公園。

夕暮れの公園は川が見えてきれいだ。

そんなハシブトは、前にスキー合宿でお守りとして渡したキーホルダーを胸のペンダントとしてつけていた。


雪が嫌いで、寒さが嫌いなハシブト。

ゴミが大好きで、金ぴかのモノに目がないハシブト。

そして、僕のことを考えてくれたハシブト。

もう時間が残されていない、ハシブトの事を諦めたわけじゃない。

だけど僕には、行く場所もやることも残されていなかった。


「間に合わないな、ごめん」時計を見ながら、苦い顔を見せていた。

美野里も安志も部長も、今は授業で忙しい。今日は運悪く授業が夜五時まで続く。

「そっか」僕は大きく深呼吸をして大きな川を見た。


表の公園の河川敷の階段を上ると、見えた大きな川。そこはいつも部活でバードウォッチングしている場所。

僕はこの場所は取井出市で一番好きな場所。

部長も、よく黄昏がれたこの場所に僕とハシブトがいた。


「わしもこれまでのようだ。

わしは嘘を今までついていたのだ、罵られても仕方ないことをしているのだな」

「そんなことはなしだよ。嘘なら、喜ぶ嘘をつけよ。僕やみんなを、癒したように」

「そうだな、喜久」


ハシブトは今にも泣きだしそうな顔になっていた。だけど必死に笑顔を見せた。

僕は泣いていなかった。だけど涙は出そうで、それをこらえていた。

もうすぐ、ハシブトはいなくなる。ハシブトも僕もそれを感じていたから。


「喜久、ありがとうな」

「ハシブト、行くなよ……」

「大丈夫だ、どこにも行かない。ただ、少し話せなくなるだけだ。

喜久のことをより近くで感じられなくなるだけだ」

ハシブトはここでいつもなら、笑顔を見せていた。

だけどもう笑顔はなく胸に手を当てていた。

落ち込んだ様子でうつむいていた。


「前に言ったよな、僕のことを孤独にしないって!」

「喜久は孤独じゃない。いつも誰かが隣にいるのだ、喜久はもう幸せ者だ。

わしは孤独というモノは嫌悪や苦手の象徴とされているが、そうは思わぬ。

まるでウニみたいなものだ」

「ウニって……」

「わしはこれでも美食家だぞ。ウニなら何度も食べておる。

ウニは美味いぞ、だがトゲがあるのだ。でも喜久だってウニは好きだろう?」

「まあ、回転すしぐらいなら食べたことはあるけど」

「それと同じだ、ウニはトゲがあるけど美味い。トゲがあって食に向かなくても、食べることでうまみを感じだ。

孤独もトゲがあるけど、食べてみたらうまいのだ。

わしが生まれた時代から、ウニは食されていたのだ。幕府への貢物としても重宝されたのだぞ」

「ハシブト……」

「わしは、孤独というモノを難しく考えずに上手につき合ってほしいのだ。喜久、これからできるな?」

赤い目のハシブトは僕の肩に手を乗せてきた。


「なんだよ、惜別の別れみたいに……」

「大丈夫だ、喜久。わしは少し元に戻るのだ」

「それは、僕のことを孤独にすることなんだぞ」

「そうか、すまぬ……」

「ハシブト!」


次の瞬間、ハシブトの周りに黒い霧が立ち込めた。

黒い霧はとても怖くて震えるような冷たさを肌で感じていた。


「喜久、わしは……」

「ハシブト、僕はやっぱり君が好きなんだ!」

手をつないで僕はハシブトの手を感じていた。

だけど、煙と強い力で僕は後ろにはじかれた。


そして、見えたのが地面に落ちたブレザー。

ハシブトが着ていた女物のブレザーを僕は拾い上げた。

間もなくして霧が晴れ、中からはカラスが見えた。

僕は黒いカラスを見つけて泣いていた。カラスは、ずっとつぶらな目で僕を見ていた。

それは初めてであったあのつぶらな目で。


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