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僕はバレンタインにチョコを貰ったことはない。
母親にも妹の美野里からもない。
だから、その日は何も期待しないで学校に行く。
それは、僕が十七年で学んだバレンタインの処世術だ。
昼休み、ピロティで僕と美野里ハシブトの三人で、いつも通り食べていた。
しかし、ハシブトはそわそわしていた。
そんな時、美野里はピンクにラッピングされたチョコレートを取り出した。
美野里の顔はとても赤い。もしかしてボクのチョコか?と思ったらすぐに結論が出た。
「ジャーン、ハシブトさんにプレゼント~!」
「これは、なんだ?」
「チョコレートだよ、友チョコ」
「そうか、美野里が作っていたのはこれか」
美野里の顔は異様に赤かった。そういえば美野里は、ハシブトのことが好きだからな。
それにしてもピンクでかわいらしくデコレーションされたチョコは、友チョコよりも普通のチョコに見えた。
「ハシブトさん、甘いのが好きだから」
「美野里は、気が利くな」
「も、もちろん。ハシブトさんのためなら、あたしはなんだってするわ」
美野里は、完全にハシブトの顔を嬉しそうに見ていた。
ハシブトは、チョコを貰っているがちょっと複雑な顔を見せていた。
「僕にはないのか?」
「ない」
きっぱりと言い放つ美野里。
「なんだよ、それ」
「だって、兄さんはチョコレート食べないから」
「そんなことはない、バレンタインのチョコは男の勲章だよ」
「それに兄さんのこと、あたしは好きじゃないし」
そんな美野里は、ハシブトを照れながら見ていた。
完全に恋人を見るような目だ。
ハシブトは、ピンクのラッピングされたチョコを見ていた。
でもちょっと浮かない顔、そこに美野里が声をかけてきた。
「それより、後は本番だよね。ハシブトさん」
「うむ、そうだな」
その言葉に、僕はハシブトをちらりと見ていた。
ハシブトは、美野里に明るい顔で頷いていた。
「一緒に、チョコレート作ったからね。ちゃんと気持ちが、届くといいね」
「うん、そうだな。だが少し、分からぬのだ」
ハシブトは、とても迷っている様子が見えた。
美野里との間の秘密、それは夜に台所で作っていたチョコ。
それを知っている僕は、もう耐えられなかった。
「ごめん、ちょっと僕は離れる」
「そっ、じゃあ兄さんこれ」
美野里はそういながら、投げ渡してきたチョコレート。
そのチョコは、紛れもなくどこかのスーパーで買ってきた特売のチョコ。
「一応、義理チョコだから」
「ああ、ありがとな」
僕は美野里から初めての義理チョコを、受け取った。
しかし僕はすぐさまその場を逃げるように離れて行った。
(こんなにうれしくないものなのか、チョコを貰うって)
そう思いながら安物のチョコを見ていた。




