表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
三話:白い海のオオハクチョウ
22/60

22

三日後の放課後、理科準備室の部室でいつもの光景があった。

部活活動前に安志が、机で図鑑を見ていた。

それをハシブトが覗き込む。今日はあいにくの雨だ、活動は出来そうもない。

夜遅くには、もしかしたら雪が降るらしいと冬の天気予報。


いつも通り部室には僕と部長、安志とハシブトの四人がいた。

部長は、生徒会長の告白から落ち着いていた。

意外なほど立ち直りも早い部長に、逆に気になっていたけれど。


「これが白鳥、正確には『オオハクチョウ』。さすがにこのあたりでは見えないけどね」

「オオハクチョウか、きれいだな」

「無論だとも、オオハクチョウは野鳥の中でもとても美しい。ハシブトさんの様にね」

「相変わらずキザだな」

安志の言葉に、僕は茶々を入れた。

安志は爽やかに笑ってハシブトにオオハクチョウを説明していた。


「オオハクチョウは、冬を日本の湖で過ごすんだ。

昔からオオハクチョウに日本人が餌付けをしていたから、日本の湖では見られるんだ」

「ああ、今年も見られるといいな」

小太りの部長は、棚にあった地図を広げた。


「そうだな、場所はこのあたりか?」

広げた地図は、このあたりのものではない。

山が見えて湖が見えた地図。湖には赤くマークされていた。


「ハシブトさん、ここがロケーションポイントだよ」

「ここで、白鳥が見られるのか」

「去年見たときは朝とか、すごかったよね」

僕は思い出していた。去年、見たあの美しい光景を。


「今年も行くぞ、『バードウォッチング部』の掟だからな」

「部長、やるんですね」

「さすが部長」

「ああ、スキー合宿恒例の掟だ。

元々この部を作った先輩方が作った伝統、それを守らねばならない」

部長は口を真一文字にして、気合を入れていた。

こうしてみると、失恋のショックを全く引きずらない。

部長は、本当に鳥が好きなんだな。


一月の終わりは、スキー合宿があった。

毎年一回、三年生以外はスキー合宿に行くために福島のスキー場に行くことになっていた。

そして、このスキー合宿は『バードウォッチング部』では恒例の行事もあった。

それは、早朝のバードウォッチング。オオハクチョウの水浴びを見に行く掟があった。


「スキー合宿とは、なんだ?」

「僕の学校で、毎年一回三年生以外全員参加の学校行事だよ。スキーを楽しむものだけどね」

「ほうほう」と、ハシブトが頷いていた。

「喜久は、スキー張り切り過ぎるからな。スキーで疲れてすぐ寝ちゃうし」


僕と安志は、スキーが得意だ。というより、運動神経には勉強より自信があった。

中学の時は、運動部の助っ人として参加したな。

陸上部とか、野球部とか、サッカー部とか。

中学は違うけれど、僕と安志にはそんな共通点があった。


「安志だって、スキー得意だろ」

「まあな、滑るものはなんでも得意だ。ハシブトさんもスキーは得意なの?」

「わしは、やったことないぞ。なにせカラ……」

「ハシブトは、やったことないぞ」慌てて僕は声を挟んだ。

『カラス』ということは、学内でタブー。うっかりハシブトの正体を言うわけにはいかない。


「カラって?」

「カラ、カラ、辛いものが大好きなんだよ、な。ハシブト」

「わしは、辛いものは苦手だぞ」

ハシブトは、全く空気を読まない。僕は、苦笑いをするしかなかった。

安志は、それでも「そっか」で聞き流してくれた。


「メインはあくまでスキーだ、だがこのことは内密にな」

「ええ、分かっていますとも」

「じゃあ、二日目早朝に集合ってことで」

「ああ」部長の指示に僕と安志は、手で双眼鏡の形を作って互いに前に突き出す。

一応、『バードウォッチング部』の合図だ。


ハシブトは、難しい顔で僕たちを見ていた。

それは、スキー合宿で行う『バードウォッチング部』の掟。

昔からできた、この部活が長い伝統で繋がっている気がした。


僕は、そんな時にあることを考えていた。

(カラスって、スキーができるのだろうか?)

単純にそんな疑問があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ