20
冬の夕暮れはとても早い。あっという間に、夜になっていく。
僕はハシブトと二人で、歩いていた。
部長の告白に、今回は関わりを持たないことにした。
好きな人に告白する、それは僕が経験したことのない事。
学校ではそれなりの人間を演じているけれど、好きな人はいない。
あまり人を好きになるのが、僕はうまくないみたいだ。
ピロティで今頃、部長が生徒会長に告白をしているはずだ。
後ろの校舎を振り返っては見ていた。
少し気になるけれど、今回は邪魔しないことにした。
「部長、うまくいくとよいな」
「そうだな、部長の想いが伝わるといい。それに……」
「どうしたのだ、喜久?」
ハシブトは、僕の顔を不思議な顔で見ていた。
「生徒会長も、孤独を癒されたからな」
「孤独は、癒すものだ」
「本当にそうなのか?」
「ああ、わしが思うに孤独はウニのようなものだ」
「ウニって、あの食べるウニか?」
僕の質問にハシブトは笑顔で頷いた。こうして見せるハシブトの無邪気な笑顔はやっぱりかわいい。
「そうだ。ウニは、美味い。だけどトゲがある」
「孤独は美味いのか?」
「美味いぞ、だがトゲがある。わしはこう見えて美食家だ」
「その割には、よく学食の近くにあるゴミ箱あさっているけどな」
「そうなのだ、だがわしは美食家だ。決して趣味などではないのだぞ。
人間が築き上げた文化のうるおいは、ゴミ箱を見ることで垣間見ることができるのだぞ」
ハシブトは、胸を張って言い放った。僕はあきれ顔でハシブトを見ていた。
「はいはい、分かった、分かった。ゴミ箱をあさる美食家ってことだな」
「そういうことだ」
「納得するのかよ!」
「そうだぞ。全てにおいて生ごみの出す臭いのハーモニー、それは素晴らしい。高貴なる香りだ」
ハシブトが、目を輝かせていう言葉に僕はいつも通りに呆れていた。
「にしても、喜久はなぜ部長を助けようとする?」
「ああ、あの人は僕を助けてくれたんだ。だから助ける、人というのはそういうものだ」
「ほう、そうか」ハシブトは相槌をうった。
「前に僕は悩みを持っていたことを、ハシブトも知っているだろう。そう、家族のことだ。
それ故に、僕は人見知りで学校が楽しくなかった。
入学して間もないころから、クラスになじめず僕は一人ぼっちだった。
当然部活に入ることもないまま、放課後は学校近くの河原でぼーっとしていた。
そして、河原で何気なく空を見ているといろんな鳥が飛んでいた。
鳥たちが自由に飛び回るさまをぼんやりと見ていると、一人の男が声をかけてきた。
『君は、鳥を見るのが好きかい?』ってね。それが部長との出会い」
僕の言葉に、ハシブトが歩きながら頷いた。
街灯に明かりがともった校舎から校門までの道を、僕はハシブトと一緒に歩く。
人はまばらで、部活以外の人はほとんど学校に残っていない。
「部長は、純粋に鳥を見るのが大好きなんだ。
『空を飛べる鳥は自由だけど、人間も鳥になれるんだよ』って。なんだか、その言葉で僕は楽になれた。
鳥みたいに自由でもっと考えること。
人間の悩みは、所詮は大空の中ではちっぽけなものだって知ったんだ。
それから、毎日僕は部長と一緒に河原で鳥を見ていた。
そのうち、部長は安志も連れてきて三人で一緒になった。
そして部長は、言いだした。
『かつて、この学校には『バードウォッチング部』があった。
俺たちで再び『バードウォッチング部』を始めよう』って」
「そうだったのか、だから喜久は部長が好きなのだな」
「うん」僕は、前を向いていた。
見える空の夕日は、沈んで灰色から黒の空に変わろうとしていた。
「ハシブト、『バードウォッチング部』は楽しいか?」
「鳥は、みな生き生きしておる。同族を、自分の目で見るのも楽しいものだ」
「まあ、ハシブトらしいな」
「そうだな、面白いな」
「それにして、喜久。前に誰かいるぞ」
「えっ、誰?うそ……」
校門の先、車道を隔てた先に一人の女性が立っていた。
それは、ありえない一人の女性。
同じ学校のブレザーに、ミディアムヘアー、落ち着いた様子でたたずんでいた。
人をひきつけないオーラを放った女性は、思いもよらない人がそこにいた。
「な、な、なんで?」
「扇君、あなたにお話があります」
車の通らない道路を、ゆっくりと渡ってきた女性。
威圧感と静かな表情は、明らかにあの人だ。
「なんで、いるんですか?生徒会長?」思わず僕は、後ろの校舎に振り返った。
「彼の話は、もう終わりました」
道路を渡り終えた生徒会長は、相変わらず冷淡な顔を浮かべていた。
僕は、なんだか悔しかった。冷酷無比な生徒会長がそこにいたので、僕は悲しい顔を浮かべた。
「扇君、私と話をしてくれませんか?」
「どういうつもりですか、黒田会長?」
「特にハシブトさんに、関係のある話です。招待状を送ります、来てくれますか?」
それは、生徒会長が渡した一枚の封筒だった。
僕はそれを見て、なんだか寒気がした。しかしハシブトは、生徒会長に一つ返事で頷いていた。




