18
――それは、去年のクリスマス前にさかのぼる。
耳に携帯電話を当てた僕は、ピロティの周りに来ていた。
放課後のピロティ、終業式も終わって生徒たちの姿はほとんどなくなっていた。
しいて言えば運動部の生徒が、少し残っていてジャージ姿で歩き回るぐらい。
そんな静かなピロティで、僕の視線の先にはおどおどした部長の姿があった。
ブレザー姿で、手には大事そうに持っていたラブレター。
「大丈夫だろうか、本当に?」携帯から聞こえる部長の不安そうな声。
「大丈夫ですよ、僕たちを信じてください」
「ちゃんと調べたんだ、大丈夫」
電話越しには、自信なさそうな部長を励ます。
少し太った部長は、緊張のためか冬でも汗をかいていた。
耳にはイヤホンが埋め込まれていて、ブレザーのポケットは携帯電話に繋がっていた。
慌ててハンカチで拭き出る汗をふいていた。
今、部長はこれから告白を始めるところだ。
それは、この学校でおそらく難攻不落の生徒会長に対して告白するという勇気のいるものだ。
得られる情報は全て手に入れた。生徒会長は、謎が多いけれどたった一つだけうれしい情報があった。
それは、生徒会長に彼氏がいない事。
だから、まだ部長にもチャンスがあった。
そのために部長に協力して僕と安志は、影となり黒田生徒会長を調べ上げた。
そして、待ち伏せたピロティ。僕は奥の柱の影に隠れて待機していた。
「困ったら僕が指示しますから、任せてください」
「副部長もそばにいるし、心配ないでしょう」
「でも……」
「大丈夫、安志はいないけどモテテクも教えてくれたんですよ。順番通りにやれば大丈夫ですって」
「うん、分かったよ」
そわそわする部長に、間もなくして奥の渡り廊下からやってきたのが生徒会長。
この時間帯に、いつも帰ることもリサーチ済み。
バードウォッチング部で、毎日木の上に昇って双眼鏡で確認した。
半分ストーカーみたいだけど、部長の恋を成就するためなら仕方ない。
ここで生徒会長と接触できれば、安志の得意な恋愛テクを使って勝負。
安志はクラス一のモテ男だ。
文化祭で、いつも最後のキャンプファイヤーの時に女子たちの取り合いになるほどに女子にモテる安志。
彼のテクは、きっと難攻不落の生徒会長攻略であっても有効なはずだ。
肩を怒らせて、見せた姿が副会長。
柔道部の副会長は、きりっとした顔で厳かだ。
だけど、肝心の生徒会長の姿がない。
「どういうことだ?」
迷う部長の所に、迷うことなく副会長はいかつい顔で近づいてきた。
それは、威圧感以外の何ものでもない。
「えっ、部長……」
それから、間もなくして僕の目の前には影が差しこんできた。
「あなたですね、私を監視していたのは」
そこには、とても怖い顔をした生徒会長が腕を組んで立っていた。
鋭い目つきで、完全に僕を睨んでいた。口調が穏やかなのが、余計に恐怖を増していた。
「せ、生徒会長!」
「扇君、何のつもりですか?私も、事と次第によっては許しませんよ」
口調こそは丁寧だけど、殺意すら感じた。
すると、僕の電話越しに「た、助けてくれー!」部長の断末魔が聞こえた。
ゴキゴキと、骨が折れる音も聞こえていた。
「な、何があったんだ?」といいたいが、僕の前にいる生徒会長がじーっと目をそらさない。
「扇君、あなたがやっていることを正直に答えてください。
あなたは、私をずっと双眼鏡で見ていましたか?」
「ええっ、その……」
「逃がしません」
生徒会長は、逃げようとするピロティの柱に手をつけて僕を囲んだ。
一件華奢そうな生徒会長。だけど、目力はすごくて僕はすごんでしまった。
そのあと、僕には恐怖の生徒会長タイムが始まってしまった――




